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寝取られて壊れた俺に、あの子がいびつにハマってくる♦︎♦︎♦︎義妹を養うために、ブラック業界(不動産)で頑張ります!  作者: 白井 緒望


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第3話 星々

 「んじゃあ、そろそろ帰るわ」

 俺はそう言って席を立った。


 俺のアパート。あのゴミ溜めみたいな部屋に帰るのかと思うと、気が重い。


 桜藍が俺の袖を掴んだ。

 「ひとり……怖いの」


 葬式が終わったばっかりだもんな。


 俺は桜藍に触れようとして、少し怖くなって。

 手を引っ込めた。


 「じゃあ、何か食べに行く?」


 桜藍は頬を膨らませた。


 (え? なんで膨らむ?)


 「通帳のお金、もう使おうとしてる?」


 (俺が貧乏なことを見抜かれてる……)


 「今日くらいは、使ってもいいんじゃない?」


 桜藍は、俺の袖をさらに引っ張った。

 「無駄遣いはダメ。パパとママが春馬さんに残してくれたお金だよ。大切に使おうね?」


 俺は頭をかいた。

 「まいったな」


 「どうしました?」

 前髪がさらりと落ちる。


 甘い林檎の香り。


 「いや。桜藍の方が年上みたいだな、って。でも、俺、まともに料理できないよ?」


 「わたし、お料理は好きです。作るから、そこに座っていてください」


 桜藍はそう言うとエプロンを持ってきた。

 ピンクのエプロン。後ろでリボンをキュッと結ぶ。


 モコモコのスリッパを履いて、パタパタとせわしなく動き回っている。


 「ふーん」

 テーブルに肘をついて眺める。


 鍋に鰹節を落として、ふわっと出汁の香り。

 トントンという包丁の音。


 しばらくすると、料理を出してくれた。

 みかん色の丸い器に盛られた肉じゃが。


 食卓の斜向はすむかいに座って、ご飯を渡してくれる。


 昔はこのテーブルに座って、桜藍の場所に母さんがいて、横に父さんがいて。親子3人で食事をしていた。


 ——ここで1人で食べるのは、嫌だな。



 桜藍と目が合った。


 「サンキュ」

 そう言うと、桜藍は不思議そうな顔をした。


 じゃがいもを箸で半分にして、口に入れた。

 

 醤油と香ばしくて甘い出汁の匂い。

 ほくほくして懐かしい味。


 「桜藍は食事の時、父さんと母さんと、どんな話をしていたの? あっ、嫌じゃなかったらでいいんだけど」


 「えっと、いつも春馬さんの話をしていましたよ。『ちゃんとご飯食べれてるかな』とか『風邪ひいてないかな』とか。そんな感じです」


 「そっか。俺の話か」


 人参を口に入れた。


 シャリッ。

 あれ、火が通りきってない。


 「それで、味は……どうかな?」

 桜藍はテーブルに肘をついて、少しだけ唇を開いている。


 「あぁ。すげーうまいよ」


 桜藍は口を綻ばせた。

 「ふふっ、お兄ちゃん。お代わりは?」


 「妹よ。ご飯を半分お願いします。って、これじゃ、桜藍が姉みたいだよ。あ、皿洗いは俺がするから」


 「うん。よろしくお願いします」

 桜藍は頭を下げた。


 俺が皿を洗う間に、桜藍にお風呂に入ってもらった。


 桜藍は俺と入れ替わりで養子になった。

 だから、俺と桜藍は話したことがない。


 今の自分の状況は、少し不思議だ。


 「お風呂、お湯が入ったままだからどうぞ」

 桜藍は、髪の毛を拭きながら出てきた。


 「少ししてから入るよ」


 「お湯が冷めちゃうよ?」

 桜藍が目を細めた。


 ……猫みたいだ。


 「大人の男には、食後の一服というルーティンがあるんだよ」

 俺はタバコを指に挟んだ。


 シュッ。

 ジッポに火をつけて、それをタバコの先に近づける。


 炎越しに、桜藍と目が合った。

 じーっとタバコを見ている。

 

 ガチャン。

 俺はジッポの蓋を戻した。

 

 「ちょっと外で吸ってくるわ」

 

 外に出ると星が出ていた。


 この家がある辺りは、少し小高くなっていて景色が見渡せる。

 

 「うぅ、4月なのに寒い」

 シャツの前ボタンを締めると、タタッと足音がした。振り返ると桜藍だった。


 「わー。お星様だ」

 銀色の髪が揺れる。


 俺は、指に挟んでいたタバコを箱に戻した。

 「この家って、星がよく見えるよな」


 「うん。あの星、すごく明るい。左にはもうひとつ明るい星。パパとママ、あのお星様になったのかな」


 この子、16か17歳だよね?

 時々、言動が幼い。


 桜藍は、南の空を指差した。


 「あの明るいのはレグルス。左の少し小さいのがデネポラ。獅子座だよ」

 俺が説明すると、桜藍は真剣な顔をして頷いた。


 「レグルスってなんだかカッコいいね」

 桜藍の湿った瞳に、光が反射する。


 「父さんたちがあの星なら、天国でも一緒にいるんだろうね」


 「そうだといいな。あれ? タバコは吸わないんですか?」



 ——『桜藍は俺好みに育てる』

 そんなこと、父さんに聞かれたら何を言われるか。


 クシャッ。

 タバコの箱を押しつぶした。


 「やめた。君の身体に悪いし。桜藍が恋育を卒業するまで、禁煙することにしたよ」

 

 「そうなんだ? じゃあ、わたし、その恋育学校を留年しちゃおうかな」


 俺は苦笑いした。


 「勘弁してくれよ。この家じゃ出会いもないのに。俺にずっと独身でいろってことか?」


 桜藍は口を綻ばせた。

 「そっか。じゃあ、明日から真面目な生徒になります」


 桜藍はそう言うと俺に半歩近づいた。肩がかすかに触れて、体温がじんわりと伝わってくる。


 「ちょっと。不用意にくっつかないでよ」


 「やーだ。不良生徒だから、くっつくの。ねぇ、先生。明日の授業内容は?」


 「君は普通に学校だね。俺は仕事の面接」


 「なにそれ。つまらないですぅ」

 

 「あはは。今度、成績表見せてよ」


 「えーっ。えっち」


 「は? どうしてそうなるんだよ」


 「女の子の秘密は、赤裸々にしちゃダメなのです」


 「若い子にそう言われると、オッサンはすぐ傷つくんだから、そういうこと言わないように。っていうか、秘密にしたいような成績なのか。先が思いやられるぜ」


 「あはは。内緒〜」


 この子が俺の妹……か。

 気づけば、2人とも笑っていた。



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