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寝取られて壊れた俺に、あの子がいびつにハマってくる♦︎♦︎♦︎義妹を養うために、ブラック業界(不動産)で頑張ります!  作者: 白井 緒望


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第2話 恋育

 桜藍はスカートの端をギュッと握った。


 「でも、変な命令とかは無理です」

 桜藍の言葉で、俺は我に返った。

 

 警戒されている。


 俺が求めてるのは、裏切らない存在だ。

 恋愛の対象では……ない。


 この子が俺を裏切らないなら。

 俺も裏切らない。


 そういうことだ。



 一応、断っておこう。


 「勘違いされてるみたいだけど、俺はアラサーのオッサンだよ。君とどうにかなりたいとか、全くないから。だから、君も俺に惚れたりしないように」


 すると、桜藍の顔に血色が戻った。

 なにやら、クスクスと笑っている。


 「ふふっ。春馬さんって面白い人なんですね。ママが言ってた通りだ」


 ……俺は至って大真面目なんだが。


 「いや、マジな話なんだけど。君は俺の言う通りにしないといけないんだよ? 俺は酷いやつだろ?」


 「ふぅーん。わたしには拒否権ないんですか?」


 桜藍は身体を振った。

 スカートが、すだれみたいに揺れる。


 「えっと、1日に10回くらいまでなら」


 「ってことは、1日に10回以上は、わたしとお話してくれるってことかぁ」

 桜藍の表情が和らいだ。


 「すごい前向きだね」


 「構ってもらえるのは嬉しいですし」


 「ええっと、本当にイヤならちゃんと言って欲しい」


 俺は頬をかいた。


 「分かってます」

 桜藍は口を綻ばせた。



 パンッ。


 桜藍は手を叩いた。


 「そういえば。パパが春馬さんにお手紙あるって言ってました」


 桜藍は、どこからか封筒を持ってきた。

 受け取るとペラペラだった。


 封を開けると、案の定、紙一枚だった。

 文章に目を落とす。


 『春馬。俺に何かあったら桜藍を頼む。あと、お前に渡すものがある。部屋の引き出しを見ろ』


 ……なんだよ、これ。


 俺は自分の部屋に移動した。

 家の中は綺麗だが、ここだけは埃まみれだった。


 「つか、まずは掃除しないとな」


 引き出しを開けると、また封筒が入っていた。

 今度のは厳重に封印されている。


 ハサミで封を切ると、通帳が入っていた、

 名義は俺の名前になっている。


 細かく入金されている。

 最後の金額は300,682円。

 

 俺のために積み立ててくれたのかな。

 今となっては、確かめる術はないが。


 「少し心許ないけど、助かるわ」

 俺がそう言うと、桜藍が覗き込んできた。


 「わぁ、遺産だぁ。ねぇ。これ。1ページ目は、30年近く前ですよ?」


 通帳を確認すると、最初の入金は、俺が生まれてすぐの頃だった。それから毎月、1,000円ずつ振り込まれている。


 「そうだな」


 「あれ、毎年1月だけ3,000円だ」

 桜藍はページをペラペラとめくった。


 「1月は、俺が生まれた月なんだよ」


 桜藍が教えてくれなかったら、きっと気づかないままだった。


 俺の妹……か。



 「パパからのお手紙、いいなぁ。あっ」


 顔が近い。ミントの香り。

 桜藍の指先が手紙に触れた。


 「……この手紙、君がもっててよ」


 桜藍は手紙を受け取ると、胸に抱いて、口を微かに綻ばせた。



 リビングに戻ったが、落ち着かない。

 

 桜藍は、せわしなく動き回っている。たまに座っても、唇の端が下がりそうになると、また席から立ってしまう。


 「桜藍さん。大丈夫?」


  桜藍は足を止めた。


 「わたし年下だから、さん付けは嫌です」


 「ごめん」


 「わたしこそ、ごめんなさい。すごく悲しいし寂しいけれど、春馬さんがいてくれるなら、ひとりぼっちにならないで済みますから」



 それにしても、30万なんてすぐになくなる。急場凌ぎにしかならない。交通事故の相手は無免許の無保険……賠償金は期待できないだろう。


 俺は桜藍の方を見た。

 桜藍の制服は俺と同じ高校。

 

 私立の高校だ。


 つまり、高校の学費と大学の学費。生活費。あと、桜藍の服とかにもお金がかかる。


 早く仕事を見つけないと。

 現状は相当にマズイ。


 顎に触れた。

 ジョリっという感触。


 実は仕事のアテがひとつだけある。

 気が進まなくて、一度、断った仕事。


 目が合うと、桜藍は足を止めた。

 

 「あの。わたし、服とかいらないです。制服あるし、家だったら体操着もあるし」


 ——すごく気を遣われている。


 

 「はぁ」

 ため息がでた。


 すると、桜藍がタタッと駆け足で寄ってきて、俺の横にパフッと座った。


 ふわりと林檎の良い香り。

 俺は咄嗟に身体を離した。


 「ぷっ」

 自分でおかしくなってしまった。

 すると、桜藍が俺の顔を覗き込んだ。


 「春馬さん。どうしたの?」


 「いや、本能的に若い子にビビっちゃった。俺もオッサンになったなって」

 苦笑いが止まらない。


 目が合うと、桜藍は首を傾げた。



 飯島は、大学の時の友人だ。

 大学を卒業してすぐに独立した。今では不動産関係の社長をしている。


 その飯島から誘われていた。

 『うちの会社きついけど、稼ぎはいいぜ? やらないか』と。


 キツイのは嫌だ。お金の問題じゃない。

 だから、その時は全くやる気がなかった。



 俺は桜藍の顔を見た。


 父さんも母さんも居なくなって。

 ——残った妹。


 俺はスマホを手に取った。

 「あぁ。飯島か? この前の仕事の話、詳しく聞かせてくれないかな」


 「あぁ、やる気になったか?」


 「それで給料のことなんだけど」


 電話口で提示されたのは、俺と桜藍が暮らしていけそうな金額だった。


 横で聞いていた桜藍の肩が当たった。


 「春馬さん。無理しないで。わたしバイトするし、夜のバイトもすれば、おじさんとお話する仕事とかで少しはお金入れられると思うし」


 ……すごく頼りにされていない。


 「桜藍。未成年は、おじさんとお話する仕事はできないから。それに、君にはもっとして欲しいことがある」


 「えっ?」

 桜藍は何故か、頬を桜色にした。


 「それは、勉強だ」


 「ええーっ。つまらないっ。春馬さんが、わたしにさせたいことって何なんですか?」


 「桜藍には、俺を裏切らない女の子になって欲しい」


 桜藍は少し悲しそうな顔をした。

 「そんなこと思うなんて……春馬さん、誰かに裏切られちゃったの?」


 「ぐっ」

 図星すぎる。


 「他には、何かありますか?」


 「優しくて、男を値札で見なくて、コンサル男についていかない。あと美人な女の子」


 桜藍は頷きながら、ぽつりと言った。

 「コンサル? そこだけやけに具体的なのが気になるけれど、全体としてはフワッとした感じですね」


 「しょうがないじゃん。いきなり聞かれてもうまく言語化できないんだよ。次までに考えておくから」


 桜藍は唇に人差し指を当てた。

 「次までって……ふふっ。可愛い。要は、春馬さんの『理想の女の子』ってことですか?」


 「まさにそれ。俺は桜藍に『理想の女の子』になって欲しい」


 「裏切られるのは辛いもんね……。うん、分かりました」


 「本当にいいの? これはなんていうか……支配。そう、支配的な契約なんだよ?」


 「上手にできたら、わたしを捨てたりしない?」


 「しない。約束するよ」


 「そっかあ。それなら、頑張っちゃおうかな。あっ、でも」


 「でも?」


 「わたしが理想の女子になったら、それって春馬さんの理想のタイプなんですよね? わたしのこと好きになったりしないんですか?」

 

 「自意識過剰は減点です。それに年下には興味ありません」


 「ええーっ。ひどーい」


 「あのさ、桜藍」


 「なんですか?」


 「こんな、支配だとか契約だとか言ってる危ない男。怖くないの?」


 「ほんの少しだけ……怖いかも。でも、信頼してるんです。パパもママも春馬さんの話をすると、いつも笑顔でしたから」

 桜藍はそう言って笑った。


 理想の女の子のための『恋育』。

 その先には何があるのだろう。


 笑顔の桜藍を見ながら、そう思った。

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