第22話 たまには。
最近、桜藍が顔を合わせてくれない。
もしかして、仕事し過ぎてるのかな。
すぐに目を逸らされる。
最近は恋育もできてないし。
理想の女の子に必要なのは、優しい心。
だから、外出に誘うことにした。
エプロン姿の桜藍に声をかけた。
「桜藍。明日、映画を観に行かない?」
自分の言葉なのに、心拍数が跳ね上がる。
桜藍は、丁寧にエプロンを外した。
「わたしも、映画を観たいって思ってたんです」
「はぁー」
自室に戻った俺はベッドに身体を投げ出した、
こんなにドキドキしたのは、いつ以来だろう。
手を握りしめる。
こういう感覚、忘れたくない。
タタッと階段を上がる音。
「何を観にいきます?」
桜藍がドア越しに聞いてきた。
「なんでもいいけれど」
すると、桜藍の声がくぐもった。
「そんなのダメです。デートのサイトに『計画をたてるところからデートははじまってる』って書いてありましたもん」
「これ、デートなの?」
カラン。
桜藍が何かを落とす音。
「ち、違います。これはそう、『逢引き』です」
「そうか、分かった。デートって単に約束って意味だったんだけど」
「ええっ、そうなんですか?」
「ごめんな。桜藍が英語苦手なの忘れてたわ」
桜藍がドアをポカポカと叩いた。
「わたしだって、誰かにプロポーズする時は、英語でしちゃうんですからっ!」
「たとえば?」
「えっ? えーと。大好きな人に、ラブorライク? とか聞いて指輪をはめて貰うんです」
「ふむふむ。簡単な単語で攻めてきたね。うちの桜藍は、案外、ロマンチストと」
ドアを叩く音が止まった。
「もう、一緒に遊びに行きません!」
「ごめんー。冗談だよ」
「そうですよぉ。そんなに馬鹿にしてると、自分がいつか後悔するんですからね」
「ってか、部屋に入ってきたら?」
結局、映画は、最近CMで流れてるやつにした。
♦︎
日曜日の約束した時間に、それぞれの部屋で準備をして玄関で落ち合う。それは、日常の延長なのに、ひどく新鮮だった。
桜藍が片足をあげて、サンダルのベルトを足首のところで留める。すると、銀色の髪の毛が、肩を滑ってさらりと落ちた。
自分の視線が、真っ白で細い足首に釘付けになっていることに気づいて、俺は視線を逸らした。
「どうしました?」
桜藍が髪の毛をかきあげて耳に挟む。
「いや、なんでも」
『見惚れてしまった』なんて言ったら、明日から気まずくなってしまう。
(俺が桜藍と同い年だったらなぁ)
家をでると、桜藍が振り返った。
長めの袖から、ネイルの先だけがチラリと見えている。
今日の桜藍は、たぶん、すごくすごく背伸びをしてくれている。
「春馬さん。今日は元カノさんのこと思い出したら……ダメですから」
「しないよ」
「本当?」
袖口のリボンが揺れる。
だから、たまにはいいよね?
「桜藍が一番……可愛いから、思い出す必要ないし」




