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寝取られて壊れた俺に、あの子がいびつにハマってくる♦︎♦︎♦︎義妹を養うために、ブラック業界(不動産)で頑張ります!  作者: 白井 緒望


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第19話 お爺さん

 今日は、三条君と立退交渉に来ている。


 こじんまりとした喫茶店で、4人がけの席。

 自家焙煎のコーヒーが人気のお店だ。


 コポコポというコーヒーを淹れる音がする。


 目の前には、70代のお爺さん。

 もうすでに競売が終わっていて、うちが落札した案件だ。


 だが、出て行ってくれない。


 お爺さんはコーヒーをずずっと飲み干した。

 「あっ、これ。お代わり。いやぁ、死んだ妻にもらったメモリアルなエアコンでね。是非、もって行きたいんだよ。電気屋に聞いたら、移設費用が30万円かかると言われちゃってぇ」


 「いやぁ、うちとしても。引越し費用で準備できるのは18万円が限界なんすよ」


 三条君の言葉に、お爺さんは眉を吊り上げた。


 「15万? そんなはした金じゃ話にならないね」


 このお爺さんはパチンコで身持を崩した。そして競売でうちが落札、所有権はすでにウチの会社にある。


 債権者は工場を営むお爺さんの知人で、うちが限界の金額で落札した。


 つまり、このお爺さんは、法的にはただの不法占拠者だ。

 

 「そこをなんとか」

 三条君が頭を下げる。


 「だから、話にならないよ。もう帰るんで、ここの支払いしといて」


 そう言い捨てると、お爺さんは帰ってしまった。


 俺は伝票を手に取った。


 俺と三条君のアイスティーが600円。

 お爺さんのブルーマウンテンNo.1が2,500円。


 合計3,700円。


 なんだか釈然としない。



 帰り道、三条君に聞いてみた。


 「ねぇ、今回の物件って、うちの所有権なんでしょ? なら無理に追い出せばいいじゃん。あのお爺さんの態度、正直、どうかと思うんだけど」


 すると三条君がレシートの写真を撮りながら答えた。


 「それがっすね。強制執行すると、手間もお金もめっちゃかかるんっすよ。爺さんのマンション、オートロックでしょ。しかもディンプルと暗号併用の同時に開けないといけないやつ。あれ、マスターキーがないと交換に超お金がかかるっす。もはや嫌がらせっすね」


 「なるほど。鍵のタイプも大切なのか」


 「それに前に、ゴミを捨てた後に、債務者から貴重品も捨てられたとかイチャモンつけられて、うちの会社が裁判で負けたことがあるんすよ。だから、強制執行は最終手段っす」


 「でも、お爺さん任せじゃ進まなそうだよ」


 「まぁ、これがラストチャンスってなかなかご理解いただけないっすけど。うちとしては、毅然とした態度でやるべきことをやるだけっすね」


 正直、退去費用をふっかけられているだけだ。


 「じゃあ、任意売却ってどうなの?」


 「任売できれば、それが最高っすよ。ま、普通に難しいっすけど」


 課長、やっぱりやり手なのか。


 中にはあの親子みたいに自力ではどうしようもない人もいるのに、あの爺さんは、お金が欲しいだけでしょ。ほんと、なんなんだよ。


 俺はイライラして、口を何度も擦った。



 それからお爺さんと連絡が取れなくなった。

 数日に一回、玄関ドアに封印のシールを貼って、家賃相当額の損害賠償の請求書を置いてくる。


 その度に封印のシールが破られていて、中に入られている。


 だが、結局、お爺さんに連絡がとれず、退去期限が来た。


 執行官立ち合いのもと、業者が鍵にドリルを入れる。すると、お爺さんがすっ飛んできた。


 「おい、この盗人どもが。今すぐ帰れ」


 三条君が前に出た。

 「いえ。こっちももう後戻りできないんで。やるとこまでやらせてもらいます」


 すると、お爺さんの口調が柔らかくなった。


 「もう18万でいいから、なんとかならんかね」


 やっぱり、金が欲しかっただけなんじゃないか。どうせ妻からもらったエアコンだって嘘に決まっている。


 三条君は答えた。

 「今更、どうにもなりません。こっちはもうそれ以上の費用がかかってますんで」


 「死んでやる」

 お爺さんはそう叫んで、三条君を叩こうとした。


 三条君はお爺さんの手首を掴んで言った。

 「死ぬなら、他で死んでください」


 その言葉を聞いて、俺は胸のつかえが取れた気がした。



 その翌日。

 お爺さんの首吊り死体が発見された。



 ——今思えば、あれが。

 不動産屋としての、俺の原点だったのかも知れない。

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