第17話 初同行
次の日、三条君も出社してきた。
「いやぁ、昨日、ハエトリちゃんが死んじゃったっすよ。あ、俺は三条天音。『あーちゃん』って呼んでくれっす!」
三条君は、身長はそこそこ高くて茶髪。そして、イケメン。正直、アイドルレベルに顔が整っている。
そして、なんていうかチャラい。
(それにしても、昨日、あれだけ怒鳴られたのに、すごいメンタルだよ。この人)
課長は、ため息をつくと俺たちを集めた。
「えー、彼は山路君。司法試験に挑んでたエリートだ。今日から高橋さんについて学ぶように。あぁ、三条。君もまたOJTからやり直しだから」
「ええーっ。それはないっす!」
三条君は不満を言ったが、却下された。
午前中は社内システムの説明で、午後から現場で流れを追うことになった。
課長が説明してくれる。
「まず、仕事の流れだが、①競売不動産に入札して落札、②入居者の立ち退き、③物件化、④再販 だ。この中の①から②までがうちの部署の仕事。どうだ? 簡単そうだろ?」
「は、はぁ」
「当面は、三条君とやってもらうから心配するな」
(いやいや、その三条君が一番心配なんですけれど)
「他のことは、まぁ、君は法律に詳しいから大丈夫だろ? 即戦力予定の中途採用だしな」
そういうと、課長は俺の背中をバンッと叩いた。
中途だと大半の説明を端折られる。
前の職場と同じだ。
午前中はコピーなどの雑用をしているうちに終わった。午後になって、高橋さんが早退になってしまって、課長と現場に行くことになった。
社用車で落札物件に向かう。
沈黙が気まずい。
俺が運転していると課長が声を荒げた。
「山路くん、人が乗ってるって分かってる? ブレーキとハンドルも急すぎ!」
「す、すいません」
手足が強張る。
昨日の怒声を聞いたからだろうか。
理屈よりも怒鳴るタイプ。
(俺、この人、苦手だ)
「これから行くのは、物件調査だから。楽なもんだよ」
そう言ったきり、課長はまた無言になった。
現場はマンションだった。
「ライフラインを確認して、次はポスト、新聞受け」
課長の指示で、郵便受けの中、新聞受けの中を覗く。すると、債権者からのビラしか残ってなかった。
「荷物の不在通知は?」
課長は腕を組んでそう言った。
「いや、ないっすね」
新聞受けを覗くと、子供の靴が見えた。
「オートロックを通ったり室内を覗いたりとか、違法じゃないですか」
すると、突然、課長が怒鳴った。
外廊下に甲高い声がこだまする。
「馬鹿やろう! 借金取りから逃げてる奴がインターフォン押して出てくるわけねーだろ。そんな良い子ちゃんしてて良い物件が落とせるわけねーだろうがよ! 現地にきたなら手ぶらで帰るな!」
俺は肩がすくんだ。
(何、この人。ヤクザかよ)
課長は鍵穴とドアの覗き穴を調べて、メモ帳に何か書いた。そして、非常口から眺望を確認する。
何をしているんだろう。
分からないことは聞かない訳にはいかない。
「あの、何をなさってるんです?」
すると課長は手を止めて教えてくれた。
普通の口調に戻っていた。
「ドアロックのタイプと、覗き穴から解錠が可能か確認すること。眺望は抜けてるか。どうして確認すると思う?」
「売れる値段を確認するとかですか?」
「そうだな。鍵の交換費用と周辺に何があるか。墓地は嫌われるし、駐車場なら建物が建つ可能性がある。うちの部署で物件化したマンションは、最後は再販に出る」
「でも、もう社内的には入札額とか決まってるじゃないですか」
すると課長はギロリと俺を睨んだ。
「本当にそうなのか? 上振れ要素を見つけておけば、この物件に使える金が変わるんじゃねぇのか?」
つっけんどんな口調だが、聞いたことには答えてくれる。
俺はメモを取った。
課長は電気メーターを見た。
ゆっくりと回っている。
「あれは、居ないってことですよね?」
課長は首を横に振った。
「あれは、エアコンを動かしてるな。冷蔵庫だけならもっとゆっくりだ。この家はガキがいるからな。つかわねー訳にはいかないんだろ。靴はガキのだけだったか?」
「いや、安全靴みたいかのがあったかも」
「テレビの音は?」
「してました」
「アニメだったか?」
「いや、バラエティみたいなの」
課長は顎に触れた。
つまむ力で、顎の肉が歪む。
課長が歩き出した。
一通りの事を終えた。
そろそろ帰るのかな。
すると、課長はいきなりインターフォンを押した。
ピンポーン。
ピンポーン。
出てこない。
ドンドンッ。
課長がドアを叩く。
「いるのは分かってるんですよ。出てきてください」
「ギャー」と子供が泣き叫ぶ声。
鳴き声が何度も響いて、周りの家の人が出てきた。
「おい、出てこいって言ってるんだよ。子供が泣いてるでしょ」
課長がドア越しに叫んだ。
おいおい。泣かせたのはアンタだろ。
うちはまだ権利者じゃない。
こっちが不法侵入だ。
「止めるか?」
胃がギューっと縮むのが分かる。
この会社、しんどすぎる。




