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寝取られて壊れた俺に、あの子がいびつにハマってくる♦︎♦︎♦︎義妹を養うために、ブラック業界(不動産)で頑張ります!  作者: 白井 緒望


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第14話 煙たい案件

 その晩、夢を見た。

 

 大きな手。

 俺はそれを見上げる。

 「母さん、僕、兄妹が欲しいな。どっちもいいけど、妹の方が嬉しいかも!」


 すると、はるか頭上の顔が微笑んだ。

 「ごめんね、兄弟を作ってあげられなくて。お母さんの身体が弱いから……」


 ぽたっ。

 頰に何か落ちてくる。


 雨かな?


 ——天にかざした手は小さい。




 目を開けると、見慣れた屋根だった。

 手をかざすと、大人の手。


 「夢か」


 俺、子供の時にあんなこと言ったのかな。全く覚えのない夢だ。


 「おはよぉ」

 居間におりると、誰もいなかった。


 「桜藍は部活か」


 テーブルの上には、メモと弁当箱。

 メモには『面接頑張ってください。トンカツのお弁当です』と書いてある。


 「またピンクの巾着に入れてくれたのな」

 俺は弁当箱を鞄に入れた。


 

 今日は二次面接の日だ。


 面接は午後だけれど、終わってから食べよう。

 胃もたれしたら困るし。


 「胃が痛い……」

 昨日、飯島の会社について徹底的に調べた。でも、不安がなくならない。


 ぶっちゃけ、俺の面接は縁故だ。

 通るとは言えないけれど、他の志願者よりは確実に有利なはず。


 でも、他の会社の面接でこんなに不安に思ったことはない。


 落ちたらと思うと……。

 「胃薬を飲んでから行くか」


 桜藍には申し訳ないけれど、味噌汁だけ飲んで家を出た。



 電車に乗りながら、プリントした資料を開いた。


 会社の理念。設立経緯。


 意味はないかも知れないけれど、マーカーで線を引いて、何度も読み返した。


 持続可能な成長。

 社会に貢献できる企業。

 

 世界の幸福の増加こそが、企業の使命。


 美辞麗句を眺めながら、今更ながらに気づいた。


 「俺が自分のことだけ考えて柚子にうつつを抜かしていた間に、飯島や杉山は、こんなことを考えていたんだな」


 そりゃあ、周回遅れの差が開くはずだ。


 ——どっちが美辞麗句なんだよ。

 本気じゃない奴が、こんなに成り上がれるはずがない。

 



 ♦︎


 横浜のオフィスビル。


 「どうぞ」

 呼び声で部屋に入ると、面接官は3人だった。


 杉山と秘書。

 そして真ん中にいるのが、飯島か。


 少し風貌が変わっている。


 飯島は俺に気づくと立ち上がった。

 「よぉ。山路。久しぶり」


 久しぶりに見る飯島はすっかり『社長』だった。


 俺も立ちあがろうとすると、膝から力が抜けて、椅子の背もたれに手をついた。


 「お久しぶりです。き、今日はよろしくお願いします」

 声が震える。


 俺の受け答えに、飯島は笑った。


 「そんなに緊張しないでよ。山路。まだ勉強は続けてるの?」


 「いや、もうしてないです。もう無理だし」


 「会社で全面的に支援するって言ったら、またチャレンジする気はある?」


 「どういうことですか?」


 「だって、お前。もったいないじゃん。5点だろ? 司法試験に足りなかったの。そんなの運の世界じゃん。一年しか勉強してないのに、まじであの時はびっくりしたよ」


 俺は試験と言われるものが得意だ。

 でも、結果は、見ての通りだ。


 ちょっと調子にのっていた。

 身の程知らずだったんだと思う。


 そして、社会に出て俺は、そんな要領の良さが何の役にも立たないことを思い知った。



 飯島は話を続けた。


 「それでさ。いま、信用できる弁護士が足りなくて困ってるわけよ。不動産関係って、泥臭い話が多いだろ? ぶっちゃけ、グレーな事も多くてさ。情報漏洩とか、マジでやばいわけよ。単刀直入にいう」


 「はい。なんでしょう」


 「2年以内に弁護士になって、そういう煙たい案件を処理してくれよ。通常業務をこなしながらになるが……できるか?」


 俺は、飯島の人をくったような言い方が好きじゃなかった。でも、今のこいつは成功して、俺は違う。


 働きながら?

 みんな専業で必死にやってるんだぞ。


 それを2年で受かれなんて、無理な話だ。


 落ちたら? 解雇か?


 ……なんて答えていいか分からない。

 

 杉山の方を見たが、何も答えてくれない。

 当たり前か。



 正直、もう試験なんて全く興味がない。


 煙たい案件?

 俺にできるかも分からない。


 第一、桜藍に胸を張れる仕事なのか?


 でも、生活しないといけない。

 桜藍を守らないといけない。

 守るには金がいる。


 試験は受かるかも分からない。


 俺は、なんて答えるべきなんだろう——。


 「踏み出すのは、こえぇよ」

 気づけば呟いていた。


 俯くと鞄が見えた。

 ピンクの巾着袋。桜藍が待たせてくれた弁当箱。


 美辞麗句。

 俺はまた、ここでも安っぽい正論をかざすのか?


 

 

 

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