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NTR復讐のはずが、義妹が可愛すぎて自分がデレた  作者: 白井 緒望


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第131話 再会

 煌びやかなドレス。

 艶々でシルクかな。高そう。


 俺は、咄嗟に無精髭をマフラーに隠した。


 ボロボロのコートにチノパン。

 両手をポケットに入れると、底に穴が空いていた。


 この場から、消えてなくなりたい。


 「柚子。どうしたの? こんなとこで」


 俺が聞くと、柚子は隠すようにコートの前を閉めた。

 「ここ、座っていいかな」


 「うん」

 ベンチに積もっている雪を押し退ける。


 柚子が座ると、ふわりと風が吹き抜けた。

 微かにアルコールの匂い。


 「寒いね。どこかお店でも入る?」


 「ごめん。俺、いま、金ないから」


 俺はコンサル男みたいに良い感じの店なんて知らない。


 「そっか。じゃあ、久しぶりに、ここでコーヒーでも飲もうよ。わたし買ってくるね」


 「うん」


 「えへへ。これ」

 柚子が缶コーヒーを渡してくれた。


 「早かったね」


 「1号館の自販機、まだあったよ。だから、すぐに戻って来れた」


 カコン。

 缶コーヒーから湯気があがる。


 足元をみると、柚子のつま先が雪に埋もれて赤くなっていた。


 「あの、やっぱ、どっか店に行く? 俺、いま仕事してなくてさ。あまり高いとこは無理だけど」


 柚子は、少しだけ寂しそうな顔をしてから、微笑んだ。


 「ううん。ここでいい。あの時、春馬と過ごしたここがいいの」


 「そういえば、前はこのベンチでよく一緒に昼飯食ったよな」


 「そうそう。午前の講義が終わったら、よくここに集合してさ」

 柚子は両手で缶コーヒーを持って、曇天を見上げた。


 「一度、柚子がお弁当作ってくれたことがあったよね」


 「うん。生まれて初めてのお弁当。家にあったソースの小袋を持って来たら、5年前ので。春馬が『これ、チョコレート?』って」


 「あぁ。おれも覚えてる。だってチョコレートくらい固かったんだよ? 普通、家の時点で気づくでしょ」


 「ごめーん。だってわたし、ソースは永遠に腐らないって思ってたから」


 「うわー。料理しない人あるあるだ」


 声が弾む。


 そうか。

 だから俺は。


 さっき、このベンチを選んだんだ。



 「あのさ、柚子。そのドレスは?」

 すると、柚子は俯いた。


 「ごめん、春馬には言いたくない」


 柚子の髪が揺れた。

 前よりずっと明るい髪色。耳には大きなピアス。派手なネイル。香水の匂い。


 「そっか」


 「ごめんね。でも、他のことなら答えるよ?」


 「じゃあさ、前に俺がフラれた時。柚子も辛かったの?」

 柚子は胸元に拳を当てた。


 その様子を見ながら、俺の心臓の動きが早くなって、口の中が渇いた。


 「……なかったよ」


 「え? ごめん。よく聞こえなかった」


 「辛くなかったよ。涼君に夢中で、なにも思わなかった。ごめん」


 「あ、いや。うん、仕方ないよ」


 俺は、何を期待しているのだ。


 「わたしも、一ついい?」


 「いいけど。何?」


 「わたしが酷い事を言ったのに、なんですぐに文句を言わなかったの?」


 「言えるわけないよ。いきなりあんな事言われて、しかも子供ができたとか」


 柚子のお腹が視界に入る。

 スリムなウエスト。


 「いっぱいごめんね」


 「いや、もういいんだ」

 

 「わたし、謝るタイミング無くなっちゃったよ」


 「柚子……」


 「あのね、実はわたし。いま、銀座で働いてるんだ。これから仕事だったんだけど、色々あって嫌になっちゃって。現実逃避してここに来たの」


 「あー、俺もだよ。仕事辞めて司法試験を受けはじめてさ。でも、色々と辛くて。逃げ出して来た」


 柚子は目を細めた。


 「春馬。司法試験うけるの?」


 「ああ。30歳越えて無謀だよな」


 「そんなことない。頑張ってね」


 「柚子、嬉しそうだね」


 「だって嬉しいんだもん。あの頃のわたしに聞かせてあげたいよ」


 「どういう意味?」


 「なんでもない。わたしは、全然、変われてないなあ。むしろ、昔の方がマシだったかも」


 「俺だって同じだよ」


 「違うよ。春馬は変わったじゃん。色んな経験をして、きっと変わったんだよ。もしかしたら、誰かに出会って変わったのかな?」


 「いや、まあ。養わないといけなかったし」


 「ふぅん。女の子か。そうだとしたら、その女の子のことが、少し羨ましいな」


 「えっ?」


 「ごめんね。わたし、春馬のこと沢山傷つけて」


 「いや、もう昔のことだし」


 すると、柚子が手のひらを空に向けた。


 「いつの間にか雪が止んでる。暗いのに暖かくなってきた。やっぱ、わたし。仕事に行こうかな」


 俺は時計を見た。

 『17:15』


 「そうか。頑張ってな」


 柚子は立ち上がって、コートをはたいた。


 「あのね。春馬」


 「なに?」


 「わたし嘘ばっかりで信じてもらえないかもだけど」


 「うん」


 「大学生の頃のわたしは、ちゃんと春馬のこと『大好きだった』から」


 柚子はそう言って口を綻ばせた。

 俺が知ってるあの頃の柚子の顔。


 柚子は通りでタクシーを拾うと、そのまま仕事に行った。


 俺は夜空を見上げた。


 南の空に青白い星。

 シリウスだ。


 俺を変えた女の子……か。

 そう思うと、口が綻んだ。


 「帰って勉強するか」

 

 不思議と気分は悪くなかった。



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