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NTR復讐のはずが、義妹が可愛すぎて自分がデレた  作者: 白井 緒望


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第132話(最終話)桜藍

 「終了時間です。筆記をやめてください」


 7月19日 4日間の司法試験が終わった。


 イルカの腕時計と筆記用具をバッグに突っ込んで、立ち上がろうとした。


 あれっ。


 膝に力が入らない。頭がボーッとして、机に手をついて立ち上がった。



 「結果は11月か」

 正直、あまり自信がない。




 帰り道の電車。


 吊り革に掴まっていると、隣に女子高生が立った。鷺乃谷高の制服だ。


 桜藍は元気にしてるかな。

 きっと今頃は大学の2年だ。


 卒業したら帰って来てくれるのかな。

 イギリスでの生活が楽しすぎたら、帰って来てくれないかも知れない。


 でも、桜藍が幸せだったら。

 それでもいいか。


 「はぁ……」


 最寄駅についた。

 夜空を見上げると、厚い雲。

 

 なんとなく家に帰りたくない。

 三条君に電話をかけた。


 「たまには飲みに行かない?」

 「いや、これから用事があって無理っす」


 睦月も誘ったが、断られてしまった。

 今日に限って、誰も相手にしてくれない。


 「スーパーで惣菜でも買うか」


 スーパーにいると電話がかかって来た。


 亜梨沙だ。

 あれ、三条君と一緒じゃないのかな?


 「どうした?」


 「春馬っち? 試験お疲れ様。おかず作りすぎちゃったから。後で持って行くね。だから、飲み行ったりしちゃダメだよ?」


 「有難いけど、亜梨沙が転んだりしたら大変だから。いいよ」


 「じゃあ、あーちゃんに持って行かせるから。まっすぐ帰って家で待っててね」


 断る前に、電話が切れた。

 三条君も大変だな。


 俺は惣菜を棚に戻した。

 

 疲れてるし、腹も減ってるし。

 今日は早めに寝るか。



 ♦︎



 ギィ。

 門扉を開ける。 


 すると、真っ暗な玄関先にユラリと人影。


 泥棒か?

 俺は身構えた。


 「……だれ?」



 雲が切れて、月明かりが差し込んだ。


 銀色の髪に、グレーの瞳。

 白磁のような肌。桜色の唇。

 


 物憂げな表情。

 俺は思った。



 ——この光景を、見たことがある。



 少女は俺と目が合うと言った。


 「ここ、わたしの家ですよ」

 艶々な口元が綻んだ。


 (あぁ、やっぱり)



 桜藍だ。


 少しだけ身長が伸びて。

 もっと女性らしくなっていた。


 「春馬さん!」


 桜藍はそう言うのと同時に、俺の胸に飛び込んできた。銀髪が光に揺れて、甘い林檎の香りがする。


 「帰って来ちゃった」

 桜藍の声だ。


 「どうして?」

 ——状況が飲み込めない。


 「春馬さんに会いたかったから」


 「学校は……」


 「いいの」


 「……んっ」

 桜藍の唇が俺の言葉を遮る。


 いつも見ていた艶々の唇。

 温かくてしっとりしていて、微かに震えていた。

 

 桜藍の頬が、みるみる桜色になっていく。


 「キス……しちゃった。わたし、頑張ったよ? それにわたし、ちゃんと大人の女の子になったし。だから、だから……」


 桜藍が抱きついてくる。

 懐かしい匂い。


 「とりあえず、家の中に入ろうな」


 玄関から入ると、桜藍は両親の写真に頭をさげた。


 「パパ、ママ。ただいま」


 「お腹はすいてない?」


 「胸がいっぱいで食べられないよ」

 


 「ギュルルルル〜」

 桜藍がお腹を押さえた。


 「桜藍のお腹、猛アピールしてるね」


 「ううっ。理想の女の子……」


 「まぁ、簡単に何か作るから、くつろいでいてよ」


 「春馬さんお料理できるの?」


 「俺だって、少しは成長したんだよ」


 俺はエプロンを巻いた。

 桜藍にはソファーに座って待ってもらうつもりだったのに、ずっと背中にくっついてくる。


 とりあえず、喉が渇いた。


 野菜ジュースを冷蔵庫から出してストローをさすと、先に桜藍が口をつけた。


 トン。

 桜藍の希望でソファーテーブルに皿を2つ並べた。


 パスタだ。

 

 「簡単なものでごめんな。って、桜藍の腕が当たるんですけど」


 ソファーなのに距離が近すぎて、桜藍の肘がいたい。

 

 「離れたくないから」

 桜藍は頬を膨らませた。


 「いや、食事しにくいし」


 「やだ。だって、不安なんだもん」


 「なにが?」


 「亜梨沙ちゃんが、春馬さんの周りに可愛い子がウロウロしてるって」


 葛城のことか?

 三条君から亜梨沙に伝わったのかな。


 「そんなに心配することは……」


 「ないよね?」


 俺は唇に触れた。

 桜藍が目を細めてジーッとみている。


 「……ない」


 「その間は何ですか?」


 「ごめん。ちょっとだけある」


 俺は葛城とのことを話した。

 すると、桜藍の顔が、熟れたさくらんぼうみたいに赤くなった。

 

 怒り顔もかわいい。


 「婚前不倫はダメですっ」


 「え。婚前?」


 桜藍が口に手を当てた。


 「とにかく、ダメなんですっ。わたしは春馬さんだけなのに、ズルい……」


 「分かった、ごめん。もう心配させるようなことしないから」

 

 「わかれば宜しいです」

 桜藍はソファーに正座した。

 

 「ところで、さっき玄関で『帰って来ちゃった』とか言ってたけれど、まだ大学を卒業してないの?」


 「……春馬さんが不安にさせるから悪いの」


 「……」


 「あと卒論だけだもん」


 「卒論って、どれくらいかかるの?」


 「一年くらいは」


 「さっ、帰りの飛行機のチケットを探そうか?」


 「春馬さんのいじわる」

 桜藍は、頬をぷくーっと膨らませた。


 「んで、いつまでいられるの?」


 「11月」


 「そっか。ありがとう」


 「えっ?」


 「ほんとは、桜藍がいなくて死ぬほど辛かったから」


 もういいよね?

 素直になっても。


 「わたし、理想の女の子になれたかな?」

 桜藍の吐息が頬に当たった。


 「初めて会った時から、俺の理想だったよ」



 初めて会った日。

 桜藍は、玄関先でただ心細そうに震えていた。


 通帳には30万円しか入ってなくて、互いのポケットには何も入ってなくて。

 

 笑った日も、泣いた日も。

 幸せな時間も、どうしようもなかった時間も。


 ——それでも、全部が愛おしい。




 「妹でも良いの?」

 少しだけ不安そうな、桜藍の声。


 「あぁ」

 俺の答えに、桜藍が微笑む。



 「その気持ちは『Like or Love?』 春馬さん、証明してください」


 桜藍は目を閉じて、顎を少し上げた。

 艶々の唇が微かに開いている。



 俺は桜藍の肩を抱き寄せた。 

 ——触れた唇から桜藍の熱が伝わってくる。



 (おわり)

 


ご愛読、ありがとうございました!

もし面白いと思っていただけましたら、評価★やブクマをいただけますと、今後の励みになります。


ありがとうございましたm(_ _)m

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