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NTR復讐のはずが、義妹が可愛すぎて自分がデレた  作者: 白井 緒望


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第128話 動物園

 「せんぱーいっ」

 

 葛城だ。


 肩が出た黒いブラウスに、短めのデニムのスカート。胸元ではリボンが結ばれている。


 走るたびに胸のリボンが揺れる。


 「よぉ。葛城」


 「待ちました?」

 いつもよりピンクの唇。


 「いや、さっききたところ。それよりも、胸になんか入れてるの?」


 すると、葛城は胸を隠すように腕を組んだ。

 ジト目だ。


 「天然ですし。それよりも、何か言うことは?」


 「いやあ、葛城って若い女の子なんだなって。女子大生で全然イケるよ」


 「素直に受け取っておきます。それよりも、他に何かないんですか?」


 俺は視線を逸らした。

 すると、逸らした先に健康的な太もも。


 「いや、すげー可愛いよ。葛城って、仕事着でデバフされてなのな」


 葛城はむくれた。


 「今日はデートなんですから。ちゃんと彼女を褒めてください」


 『彼女』か。

 葛城の望みは、今日一日、『彼女』としてデートをすることだった。


 葛城が手を差し出す。

 なにやら指を開いてアピールしている。


 「はぁ」

 俺が手を繋ぐと、葛城は笑顔になった。


 「よろしい。あと、今日は『このは』って呼んでください。先輩は先輩のままで」


 「……分かった。んで、このはは、どこに行きたい?」


 葛城はまた身を守る動きをした。


 「そんなにあっさり名前呼びするなんて、先輩って実は遊び人なんですか?」


 「自分で呼べっていったんだろ?」


 「そうですけど。ええっと……動物園いきたいです」


 「動物園ねぇ。何か希望はある? 好きな動物とか?」

 

 「パンダ」


 「ごめん。パンダは中国に帰った」


 「じゃあ、広い動物園」



 ♦︎



 俺たちは、横浜にある動物園に向かった。

 チケットを買って、蔦が絡まったゲートを通ると、中はジャングルのようだった。


 「わぁー」

 葛城は手を広げてくるくる回った。


 「なんか動物園って久しぶりかも」


 「ええっ? 本当ですか?」

 

 「あぁ。20代後半になってからかな。こういうところに来ると、すごく疎外感を感じるんだ」


 「悲しい話ですね」


 「いうなよ。今まで無自覚だったんだから」


 しばらく歩くと『仔象生まれました』の文字。

 葛城が立ち止まって俺の袖を引っ張った。


 「先輩っ。ゾウさん! 子供を連れてますよ」


 手すりの向こうでは、大きな象が子供とゆっくり歩いている。


 「子供か〜。子連れならまた疎外感を克服できるのかな」


 すると、葛城が俺を見上げた。

 「先輩の子供なら、産んであげてもいいですけど」  

 小声だった。


 「お前な、そういうジョークは……」

 袖から指先のこわばりが伝わってくる。


 俺は言葉を止めて言い直した。


 「サンキューな。でも、それ。わりと本気で?」


 「わりと本気」

 葛城は俯いた。


 「そうか。なんか、ありがとう。でもな」


 「でも?」


 「せっかく仕事を覚えてきたんだから、まだ辞めるのには早い! それに、おいそれと言っていい言葉じゃないっ」


 俺はデコピンした。

 

 「いったーい。おいそれとじゃないですぅ」

 葛城が額を押さえた。

 

 この口元、どこかで見たことがある。


 「悪い。葛城さ。俺とお前って、前にどこかで会ったことある?」


 葛城は立ち止まって、バッグのベルトを握った。


 「やっと……思い出してくれた」


 「え?」


 「なんでもないです。さぁ、次の動物をみましょう!」


 葛城は、動物をみるたびに、目をキラキラさせた。見たことがない動物も多くて、気づけば辺りは茜色になっていた。



 「痛っ」

 ベンチに座った葛城は、右の足首を押さえた。


 「こんなヒールの高い靴を履いてるから。ほら、足を見せてみろ」


 俺は葛城の前で片膝をついた。


 「だって、せっかくのデートだから可愛い靴が良かったんです」


 サンダルのベルトをずらす。


 「あっ。靴擦れになってるじゃん。ちょっと待って。たしか……」


 俺は財布の小銭入れから絆創膏を出した。

 

 「えっ。絆創膏? 先輩すごいっ。でも、すごくボロボロなんですけど」


 前にどこかで買ったやつだ。


 「ま、大人の男だからなっ。ちょっとサンダルを脱いでみろよ」


 サンダルを脱がすと、足の指には可愛いペディキュアが塗られていた。


 「先輩。足の指を凝視されると恥ずかしいんですけれど」


 俺は葛城を見上げた。

 この口元、やっぱり前にも見たことがある。


 「なんかありがとうな。頑張ってくれて。あのさ、俺、前にも葛城に会ったことある?」


 葛城が片方の肘を抱き寄せた。


 「思い出してくれるの、遅すぎですよ」

 葛城の声が震える。


 「え?」


 葛城はバッグからメガネを出した。

 飾り気のない黒縁メガネ。メガネをかけると葛城は微笑んだ。


 「一年前に会った時は、こんな感じでした」


 ♦︎

 一年前。


 「ハッハッ」

 俺は駅の改札を駆けぬけた。


 「やべぇ、大遅刻だ。柚子、まだ待っててくれるかな」


 新宿駅のエスカレーターを駆け降りる。

 人と人の間をすり抜けて、地上に飛び降りた。


 ガチャン!


 大きな音で振り向くと、地下からの上りエスカレーターの入り口で、女の子が転んでいた。


 膝をついて足首を押さえている。

 横では、スーツケースが開いてしまって、中の丸い缶がエスカレーターの段々を勢いよく転げ落ちて行った。


 エスカレーターは緊急停止している。

 人は沢山いるのに、誰も助けようとしない。

 

 時計を見た。

 『22:04』



 「大丈夫?」

 俺は女の子に駆け寄った。


 つばの大きな帽子に、メガネをかけた女の子。


 「あっ、大丈夫です」


 女の子は立ちあがろうとしてよろめいた。

 エスカレーターの手すりに、スカートの端が巻き込まれてしまっている。

 

 「ちょっと待って」

 俺は破らないように、ゆっくりとスカートを引っ張り出した。


 転がり落ちた缶は、開いて中身が飛び出していた。


 女の子がヨロヨロと立ち上がった。

 膝から血が流れている。


 「ちょっと待ってて」

 俺は売店で絆創膏を買った。


 「これ使ってください。あ、こんなに大きい箱の困るよね」

 絆創膏を数枚渡した。


 「あの、ありがとうございます」


 女の子が絆創膏を貼ってる間に、転げ落ちた缶の中身を集めて渡した。


 誰かが呼んだのだろう。

 駅員がやってきた。


 「いえ。じゃあ、俺急ぐんで」


 その数十分後。

 俺は柚子に振られた。


 

 ♦︎



 「そんな偶然って……」

 口の中が乾く。


 「あるみたいです」

 葛城が微笑む。


 「なんで、言わなかったの?」


 葛城の顔が近づいてくる。

 「ずっと先輩に恋してた……から」


 チュッ。

 葛城の唇が、俺の唇に重なった。


 

 「ちょっと……」

 俺は唇を離した。


 肩を押し戻そうかと思ったが、できなかった。

 すると、葛城は微笑んだ。


 「あのね。会社の面接で先輩を見かけて『運命かも』って。それで再販部を希望したんです」


 「そういうことか」

 葛城が仲介ではなく再販部にきた理由。


 「でも、再会した時の先輩は、桜藍ちゃんに夢中で。……ひどいよ」


 「ごめん」


 葛城は首を横に振った。


 「わたしも言わなかったし。でも、部長に色々されたとき、わたし、先輩だけには知られたくなくて。こんなことになっちゃって、ごめんなさい」


 「俺こそ。気づかなくて、ごめん」


 「少しでも可愛くなりたくて。コンタクトにしてメイクも勉強して、わたし頑張ったよ?」


 「あぁ。分かってる」


 「それって、わたし可愛くなれたってこと?」


 「メガネの時から普通に可愛かった」

 俺は視線を逸らした。


 「そっかあ。そうなら嬉しいな」


 葛城は微笑んだ。

 頬が茜色に染まる。


 「そうだな」


 「あのね、この恋を終わりにしたいから。『わたし頑張ったぞ』って褒めてあげたいの。だから……もう一回だけお願いします」


 肩に添えた葛城の指……震えていた。

 葛城の唇が近づいてくる。


 「今日だけは、わたしが彼女だから」

 小さな声。


 俺は目を閉じた。


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