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NTR復讐のはずが、義妹が可愛すぎて自分がデレた  作者: 白井 緒望


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第121話 途方

 なんだか、全部が嫌になってしまった。


 もともと、桜藍と生活するために飛び込んだ業界だ。桜藍がいないのに無理に続ける必要はない。


 会社のエントランスから出ると、三条君に声をかけられた。


 「山路さん、何してるっすか?」


 「いや、色々あってさ」


 「あっ、あの部下のカワイ子ちゃんの悩み事っすね。もう付き合ったらいいんじゃないですか?」


 「お前なぁ」


 「まあ、いいっす。山路さん、どうせ暇っすよね? 2〜3時間、そのへんでブラブラしててくれっす。帰りに飲みましょ」


 「分かった。適当に時間を潰してるよ」


 普段ならきっと面倒に感じていた誘い。

 でも、今日は有り難かった。



 ♦︎


 

 「かんぱーい」


 何もおめでたくないのに、取り敢えず乾杯をした。来たのはタッチパネル注文のチェーン居酒屋だ。


 テーブル同士が近くて騒がしい。


 俺は、三条君にヒアリングでの経緯を説明した。でも、注文に夢中で、三条君はあまり聞いてくれない。


 酒が美味くなる話じゃないしな。


 「俺のこともだけど、三条君の方はどうなのよ?」


 「いま、師匠のとこで修行中です。今度、アマ竜王戦の地方大会に出るつもりっす」


 「まじで? すごいじゃん」


 「あと、亜梨沙に子供ができたっすよ。ますます頑張らないとなーって」


 「おおっ。おめでとう」


 もちろんおめでたい。

 でも、自分の中の何かが奪われた気がして。気づけば俺は膝を摩っていた。


 「俺のこともですけど、問題は山路さんっすよ。桜藍ちゃんいないんだし。律儀に待ってても、帰ってこないかも知れないじゃないっすか」


 「三条君、えぐってくるね」


 「いや、イギリスのセレブなんでしょ。ぶっちゃけ、俺だったら戻らないっす。まあ、桜藍ちゃん、山路さんにゾッコンだったっすから。どうか分かりませんけど」


 「なんだよ?」


 「俺が言いたいのは、山路さん、本当は『このはちゃん』のこと好きなんでしょ?」


 「なんでそう思うの?」


 「だってこの前、ホワイトボードのこと頼まれた時、山路さん、葛城がヤバいって必死だったじゃないっすか」

 三条君は、来たばかりのたこ焼きを口に放り込んだ。


 「それがどう関係してるんだよ」


 「頭が固いっね。『嫉妬して殴った』それで結構じゃないですか。山路さんは『好きな子が内海部長に乱暴されそうになったから、ムカついて殴った』。これってすごく自然なことじゃないっすか」


 「だから、何が言いたいんだよ」


 「『好きでもない子が襲われたから激昂した』、『好きな子が男といただけで激昂した』どちらも事実じゃないから不自然なんですよ」


 「そんなものかね」

 俺もたこ焼きを食べた。


 「あ、そういえば、内海部長と陣野人事部長って、同じハウスメーカー出身なんですよ。知ってました?」

 三条君はビールを飲み干した。


 「いや、初耳なんだけど」

  

 「確か内海部長が陣野人事部長を、ウチの会社に誘ったんじゃなかったかな」


 「それ、本当?」


 「本当っす。前に陣野人事部長と飲んだ時に、『内海部長に恩義がある』って言ってましたから」


 「三条君は本当に顔が広いね」


 ゴクッ。

 ビールを飲み干した。


 ぬるくて、すごく不味い。



 なるほどね。

 それなら、あの不自然な態度に合点がいく。


 それからは、三条君にノロケ話を散々聞かされて解散になった。


 帰り道、電車に乗りながら人事部長の話を思い出した。すると、何度考えても同じ結論に至った。


 ——あの査問委員会は、とんだ茶番だ。


 もう、どうでもいい。

 考えるのも面倒だ。


 ……俺がやめたら、葛城は悲しむかな。



 つい飲みすぎてしまった。

 視界がぼやけて、歩くとフラフラする。


 なんとなく、コンビニで時間を潰してから家に帰った。


 「明日は二日酔いだろうな。ま、謹慎中だし関係ないか」


 ぼやきながら、最後の十字路を曲がった。



 玄関先で人影が動いた。 

 俺は目を凝らす。


 植栽越しの街灯に照らされる艶々の髪。

 華奢だけど女性らしい体つき。



 『桜藍だ』

 そう思った。


 俺は抱きついた。

 柔らかくて温かくて、甘いフルーツのような良い匂い。


 「桜藍。いつ戻ってきたんだ?」


 すると、背中を優しく叩かれた。


 「桜藍ちゃんじゃなくて、ごめんね。春馬先輩」


 身体を離すと、睦月だった。


 「どうして?」


 「心配だからだよ。この前、相談してくれたじゃないですか。 社内で査問会に呼ばれたなんて言ってたのに、音信不通だし」


 「あぁ、ごめん。色々あってさ。……ちょっと寄っていく?」


 俺は睦月に触れようとして、手を引っ込めた。

 睦月の視線が俺の指先を追う。

 

 「うーん。本当は隙があればつけ入りたいですけど。うんっ、今だけは違うかな」


 睦月は俺に紙袋を渡してくれた。


 「これ、お弁当。明日の朝にでも食べてください。こんなに痩せちゃって。ちゃんとご飯食べてるの?」


 「ああ、なんとか。心配してくれてありがとう。睦月って、実は良い女なんだな」


 「気づくのが遅い! 初ハグが他の女と人違いなんて。春馬先輩は最低だよ」


 睦月は笑った。


 「ごめん」


 「ほんとだよ。あっ、言ったことはやってくれました?」


 「ああ。でも、もう俺は、あの会社に戻りたくない」


 「ふーん。ま、やってくれたならいいよ。んじゃあ、わたしはそろそろ帰ります。ちゃんとお風呂に入ってテレビでも見て、心を落ち着かせてください。あとね」


 「あとなに?」


 「1人で無理しないでください。頼ってもらえれば、力になりますから」


 「……うん。ありがとう」


 睦月は帰って行った。

 ピンクの軽自動車が見えなくなるまで見送ってから、家に入った。


 紙袋を覗くと、緑とピンクのお弁当箱が見えて、唐揚げみたいな匂いがした。


 手作りだ。

 もしかして、群馬から持ってきたのかな?


 往復で何時間かかるんだよ。

 嬉しいけど、少しだけ怖い。

 


 相変わらず、家の中は暗い。

 けれど、弁当の良い匂いで寒くなかった。


 言われた通りに、風呂に入って。

 すぐに寝ようと思ったけど、寝れなくて、ソファーでテレビを見ていた。


 すると、スマホに着信。

 「ったく、睦月か?」



 画面を見ると『山路桜藍』の名前。


 指先が震える。

 俺は、ゆっくりとスマホを耳に近づけた。



 「……春馬さん?」


 聞こえたのは、桜藍の声だった。

 

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