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寝取られて壊れた俺に、あの子がいびつにハマってくる♦︎♦︎♦︎義妹を養うために、ブラック業界(不動産)で頑張ります!  作者: 白井 緒望


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第12話 夕食

 「何を食べに行こうか」


 「わたし、お寿司食べたいかも」


 「寿司が好きなの?」


 「うんっ」

 桜藍は笑顔になった。


 「どこの店にしようか」


 「くるくるするの」

 桜藍は人差し指をクルクルと回す。


 回転寿司のことかな。


 いや、さすがにそれは……。

 少しくらいは見栄を張りたい。


 あぁ、たしか。

 前に柚子と行った店がこの近くだった。


 あそこなら本物の寿司を出してくれるし、価格も程々だ。


 俺は桜藍の方を見た。


 柚子と行った店に連れて行くのは、少し気が引けるけれど。仕方ない。


 「このあたりに知ってる店があるんだ。そこにしよう」


 「知ってる店って、なんか大人みたいでカッコいいです」


 「大人を通り越して、オッサンですので」

 そう言いつつも、俺は少し気分が良かった。



 ♦︎


 ガラッ。

 「いらっしゃい」

 

 引き戸を開けると、懐かしい出汁の香り。

 威勢の良い板さんが出迎えてくれた。


 案内されたカウンター席に、桜藍と並んで座る。


 「ふぅ」

 ため息がもれた。


 (よかった、あの子はいなそうだ)


 柚子と来ていた時に、よく接客してくれた女の子。柚子によく懐いていた。たしか、高校生って言ってたし、もう辞めたのかも知れない。


 「春馬さん?」

 桜藍が心配そうな顔をしている。


 ここは板さんが2人だけの小さな店だ。席数もそんなにない。そして桜藍の向こう側には知らない男性客。


 桜藍は俺寄りに座り直した。

 膝と膝が当たる。


 「こほん……。こんなに近くに座るの初めてだね」


 「そう……ですね」

 桜藍は俯いた。


 あれ、もしかして俺、臭い?

 自分のジャケットを匂ってみたけれど、大丈夫そうだ。

 

 「お客さん、何を握りますか? 良いマグロが入ってますよ」

 大将が声をかけてくれた。


 「ええと、じゃあマグロ。桜藍はどうする?」


 「えっと、何があるのかな」


 頼み方が分からないのかな。


 「大将、メニューはある?」


 大将はパンと手を叩くと、メニューを出してくれた。写真が出ている分かりやすいメニューで、英語で説明が書いてある。


 んっ。英語?

 ってこれ、英語メニューじゃないか!


 この子、英語4点なのよ?

 ダメでしょ。


 「あっ、じゃあ、わたしは納豆巻き」


 桜藍はメニューの写真を指差した。


 「はいよ!」


 大将は海苔とシャリを手際よく巻きに乗せて、納豆を叩く。


 タタタンという包丁の小気味いい音。

 甘くて酸っぱいお酢の香り。


 こういう空気感、久しぶりだ。


 桜藍は珍しいらしく、ずっと大将の手元を見ている。


 「ねっ、あの手につけてるの何ですか?」


 「あぁ、あれは手酢っていって、手にご飯粒がつかないようにするんだよ」



 『へぇ。そうなんだぁ。すごい』

 桜藍のその言葉に、俺は既視感をおぼえた。


 この席に座って、同じように大将を見て。

 目をキラキラさせて。


 かつて、柚子も同じことを言ったのだ。

 一言一句違わず、同じことを。


 たしか、就職して初めての給料で来たんだっけ。大将がサービスで豪華なサラダを出してくれて、柚子も喜んでくれて。


 でも、その時の柚子は、もういない。


 メリッ。

 手に持っていた割り箸が軋む。



 「春馬っち? 新しい箸をもらう?」

 桜藍がちょいちょいと俺の袖を引っ張った。


 「春馬っちってなんだよ」


 「なんか可愛いかなぁって。そう呼んでもいいですか?」


 「イヤです。アラサーが女子高生に『春馬っち』って呼ばれるとか。なんだかすごい絶望感」


 「女子高生?」

 大将がギロリと俺の方をみた。


 ヤベッ。

 援交と勘違いされたかも。


 すると、桜藍が言った。

 「大将さん。わたし。英語が分からなくてメニュー読めなくて。あの、せっかく出してくれたのにごめんなさい。日本語のメニュー欲しいです」


 大将が桜藍の方を見た。

 さっきとは違う、優しい眼差し。


 「すいません。違うメニューもって来させますんで」


 「わぁ。このマグロ、三陸産なんだって。すごーい」

 受け取った日本語のメニューを、桜藍は嬉しそうに眺めている。

 

 「納豆巻き、美味しいです!」

 桜藍は海苔巻きを頬張りならそう言った。


 納豆に違いとかあるのか?

 そう思ったが、言わなかった。

 

 「よかった。次は何を食べる?」


 すると、桜藍が首を傾げた。

 「それよりも、春馬さん。お酒は飲まないんですか?」


 「えっ、どうして?」


 「だって、前にパパが言ってました。春馬さん、日本酒が好きだって。でも、家ではあまり飲まないじゃないですか」


 「あぁ、まぁそうだけど。桜藍といる時は飲まなくてもいいなって」 

 

 桜藍は泣きそうな顔になった。


 「それって、わたしのご飯が美味しくないからお酒を飲みたくないのかなって」


 そんなことを考えていたのか。


 「いや、桜藍のご飯はふつーにうまいよ。むしろ最高。酒は違くて」


 「どう違うんですか?」


 深酒して桜藍が女の子に見えたら困るからだ、なんて言えない。


 「やっぱ、日本酒もらおうかな。大将、熱燗ひとつ」


 海苔巻きを食べる桜藍を眺めながら、たまに刺身をつまんで、お猪口の酒を啜る。


 なかなか心地がいい。


 ふと俺は気づいた。

 桜藍のやつ、納豆、カンピョウ、玉子とか。そんなのしか食べていない。


 会計を気にしているのか?

 それとも。


 「桜藍。もしかして、生魚が苦手とか?」

 

 桜藍は頷いた。

 「実は、そうなんです。焼いたお魚は好きなんですけれど。生だとなんか……いえ、いいんです」


 「じゃあ、焼肉とかの方が良かったんじゃない? ごめんな」


 「ううん。わたし、春馬さんがお酒飲めるお店が良くて」


 桜藍はお茶を一口飲んで、言葉を続けた。


 「お酒は一緒に飲めないけれど、こうして話し相手をするくらいならって。わたしは子供だから……」


 桜藍の頭を撫でた。

 「楽しいよ。だから桜藍も楽しんで」


 「はい。あの……」

 桜藍は口を綻ばせかけた。


 「どうした?」


 桜藍の視線が俺の手元に向いた。

 「春馬さんは、何か頼まないの?」


 「うーん。俺はいいかな。そんなに腹減ってないし」

 桜藍が美味しく食べてくれれば、それでいい。


 「あの。いま、おうちお金なくて大変なのに……わたしばっかり食べてごめんなさい」


 胸がキュッと締め付けられる。


 「やっぱ、俺も食べようかな。大将、マグロちょうだい」


 ——俺は馬鹿だ。

 また桜藍に気を遣わせてる。



 すると、誰かに声をかけられた。

 「あれっ。お客さん久しぶりじゃん」


 この図々しくて気さくな感じ。

 聞き覚えがある。


 柚子に懐いていた店員さんだ。


 「違う人じゃないですか?」

 いま、この子に余計なことを言われたくない。


 すると、店員さんは俺の顔を覗き込んできた。

 「いや、絶対に間違えないって。わたし、人の顔を覚えるのだけは得意なの。お客さん、彼女変わったの?」


 まじかよ。

 地雷を踏むにも程があるだろう。


 「彼女……?」

 桜藍が立ち上がった。



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