第113話 完工
葛城と別れて、会社に戻った。
リフォーム部に駆け込んだが、誰もいない。
時計を見ると『21:03』だった。
「いつもダラダラ残業してるくせに、なんでいないんだよ!」
ガンッ。
ゴミ箱を蹴飛ばす。
丸めた紙が床に転がった。
……山田さんに電話するか。
「お世話になってます」
「山路さん、どうかしましたか?」
周りがガヤガヤしている。山田さんの声が明るい。
「現況確認しました。例えばなんですが、11日に引き渡してから、宮園さんがいない時とかに完工させることは厳しいですかね?」
山田さんの声のトーンが下がった。
「無理だと思いますよ。宮園さま、引き渡し後に他人が入ることをあんなにイヤがってたじゃないですか。まさか、期限までにリフォームを終えられないとか……ないですよね?」
「いや、まさか。リフォーム部で工程の点検をしているみたいで、形式上、お聞きしただけです」
山田さんは、また陽気な声に戻った。
「いやだなぁ。ビックリさせないでくださいよ。念の為に言っときますが、11日にキチンと渡さないと、たぶん、この契約、……飛びますよ」
電話が切れた。
宮園さんに会ったことがあるから分かる。
飛ぶというのは大袈裟な話ではない。
なんとしてでも終えないと。
よりに寄って今日は金曜だ。
帰ってしまったら、月曜まで何もできない。
なんとかリフォーム部を動かす方法を考えないと。デスクに戻って、リフォーム部とのやり取りを見直してみる。
22:21。
「こんなことしても意味ないよな」
机につっぷした。
「山路。何をしてるんだ?」
顔を上げると専務だった。
専務とは、指値の件からまともに話していない。
気まずい。
「例の物件なんですが、リフォーム部がいきなり4月完工とか言い出して」
専務に話しても意味のないことだ。
でも、言葉が止まらなかった。
「おい、どうすんだよ。こっちは、3月引渡しの前提で指値を受けてるんだぞ……!」
専務の声が低くなった。
(やっぱ、言わなければ良かった)
「……」
「ちゃんと工程を確認したのか?」
「はい。工程表上は『完工』になってたんです」
「リフォーム部には? 確認はしたのか?」
「しました。その時は『終わってる』って言ったのに、いきなり『そんなこと言ってない』って」
「その時、電話に出たのは誰?」
「それが聞いてなくて」
「お前なぁ。名前の確認は基本だぞ。特に口頭でやり取りする時はな。山路は仮にも課長なんだから、しっかりしてくれよ」
「すいません」
すると、専務が隣の席に座った。
PCを開いて、何かを調べ出した。
「おい、山路。この工程表『4月完工』になってるぞ?」
「そんなはずは……。え? なんで?」
画面を覗き込むと、本当に4月完工になっていた。
専務はファイルの編集履歴を開いた。
「これ、昨日更新されてるな」
「もう無理じゃん」
視界がぼやける。
専務は俺を横目で見ると、腕を組んだ。
目を閉じて背もたれに寄りかかる。
その度に、ギシギシと音がした。
「引き止めてすみません。なんとかしますんで」
「引き渡しは月曜だぞ? なんともならんだろ」
専務は目を閉じたまま言った。
「……しかたねーな」
専務は目を開けると、廊下に出ていった。
どこかに電話をかけているらしい。話し声が聞こえた。
「山路。いくぞ」
「どこに?」
「物件だよ」
ジャラッ。
専務は、車のキーを指に引っ掛けた。




