第104話 告知
売るには3月中の引渡しが絶対条件。
リフォーム部は、すぐに終わると言っていた。
あと1ヶ月もある。
どう考えても完工できるだろう。
普通——なら。
俺は宮園さんの顔を見た。
ひどく狼狽している。痛々しい。
「ご安心ください。3月中には引き渡せます」
俺はそう答えた。
「……良かったぁ」
宮園さんの顔がぱあっと明るくなった。山田さんもつられてニコニコしている。
「それで、売主さんとお会いしてみて、どうでしたか?」
山田さんは言った。
「はい。信頼できそうだし、部屋も気に入ったし、ここ……いいかなって」
宮園さんの声が元気になった。
いけそう。
そう思った瞬間、俺の心臓はドクッと脈打った。
まだ、告知事項の話をしていない。
もしかして、既に山田さんから説明があったのか?
山田さんの方を見ると、宮園さんと盛り上がっていた。
「ここのオートロックは、大規模修繕で最新のものになってるんですよ。きっと宮園さんも安心してお住まい頂けると思います」
「うんうん」
「それに南向きバルコニーで眺望も抜群」
「へぇ〜」
宮園さんの声がますます明るくなる。
(絶景の下側は墓場なんですが……)
俺と目が合うと、山田さんは何度もまばたきをした。何のサインか分からないが、ここは任せた方が良さそうだ。
「価格も良心的だと思います。良い売主さんですし。いま、この物件を扱えるのは当社だけなんですよ。公開されたら、たぶんすぐに売れちゃいますよ」
「いつくらいに公開予定なんですか?」
山口さんは眉を下げた。
「本当は宮園さまのためにずっと非公開にしたいのですが、あと4日で公開しないといけないんです。宅建業法上のルールなので私にはどうにもできなくて。すみません……」
すると、宮園さんは両手を左右に振った。
「いやいや、山田さんのせいじゃないですし。もし、他のお客さんも気に入ったら売れちゃう可能性があるんですよね。うーん……」
「ご心配でしたら、仮押さえしますか? 申し込み金は必要になってしまいますが」
(仮押さえの前に、告知事項の説明をして欲しいんですが)
俺は額の汗を拭った。
「それって、おいくらくらいですか?」
宮園さんの表情が曇る。
「1万円で大丈夫です。押さえられるのは数日ですけれど」
山田さんの朗らかな声。
「それだけでいいんですか?」
宮園さんの表情が明るくなった。
山田さんは頷いた。
そして、ポンッと手を叩く。
「あっ、そうそう。この物件、ちょっとだけお話しとかないといけない事がありまして」
「なんですか?」
宮園さんが俺の方を向いた。
黒い瞳が艶々している。
山田さんと視線が交差した。
「いわゆる告知事項にはなってしまうのですが……。ええっと、これは売主さんからお話してもらった方がいいかな。ねっ、山路さん?」
おおおい。
ここで俺にふらないでくれよ。




