逃げていたのは…なの
「やっぱり上条達を襲ったのはスキャヴだったのか?」
しばらくの沈黙のあと、柊先輩が静かにそう聞いてきた
「…………」
あたしが何も言えず下を向いていると
「そうか……。やっぱりスキャヴだったか…」
とため息を吐くように柊先輩は言った
「お前、上条となんか取引したのか?」
「…………」
「さっきも言ったけど沈黙は答えてるの一緒だからな。ほら、顔あげろ」
あたしは言われた通りにゆっくり顔をあげたが、全てを見透かされてるような柊先輩の目を見れず、すぐに視線を横に向けた
「上条となんか取引したんだろ?あいつがお前の嘘にタダで付き合うはずがねぇ。あいつはヤクザもんだぞ!?」
あたしは何も言えない…
「金なんて上条が欲しがるわけねぇしなぁ。おい白守、俺の顔を見ろ!」
柊先輩の口調が強まる
あたしはゆっくり柊先輩と目を合わせる
「今すぐ上条に電話しろ。番号も知ってんだろ?お前がした取引は無しだ」
あたしは言われた通りに携帯電話を取り出す
「ほら、俺に見えるように電話をかけろ」
あたしは上条の番号を出すと、通話ボタンをタッチした
するとあたしの携帯電話を柊先輩が奪って耳に当てた
「よう上条。俺だ。………あん?わかんだろ?」
上条が電話に出たのか柊先輩は話しだす
「お前らを襲ったのはスキャヴだったらしいじゃねえか。………フン、とぼけんなよ。この電話で俺からかかってきてる時点で察しろよ。白守は認めたぞ」
「……………なんでもいいけどよ、白守がお前とした約束は無しだ。もう白守に関わるな」
「………………あ?うるせぇよ。何度も言わせんなよ、もう白守に関わるな。ちょっかいかけるようなら俺がお前らを潰すぞ?」
「わかったか?………あぁ、わかったならいい。…………あん?………お前に心配されたくねぇわバーカ」
そう言って柊先輩は電話を切った
そしてあたしに携帯電話を返してくる
「ほら、上条の番号は着信拒否しとけよ」
あたしはなにも言わずに携帯電話を受け取った
柊先輩は深くため息を吐く
「あのなぁ、お前…。こんなことして俺が喜ぶと思ってんのか?」
「……………」
「聞いてんのか白守!」
あたしはビクッとした
「俺がどれだけお前のことを…」
お前のことを…?
柊先輩はゆっくり口を閉じた
そしてポリポリ頭を掻いて
「便所……」
と言ってトイレに行ってしまった
柊先輩がトイレに行ってすぐに、大将があたしの所にきた
「あ…すいません…。空いてる皿下げますね」
そう言ってテーブルから空いている皿を手にした
「すいません…。柊さんとの会話聞こえてました…」
大将が申し訳なさそうにそう言ったので
「あ、いえ…。こちらこそうるさくしてごめんなさい…」
とあたしは返した
「白守さんですよね?柊さんがここに飲みにきて酔ったときは必ずあなたのこと言ってました」
「え?あたしのこと?」
「はい。失礼ですけど、子供が産まれてすぐに離婚されて…」
「はい。離婚しました」
「そのときあたりから、"白守は1人で大丈夫かな"とか"白守は元気にしてるかな"って…。だから私は"そんなに心配なら会いに行けばいいじゃない"って言ったんですよ。そしたら…」
「そしたら?」
「そしたら"俺は白守の気持ちと向き合うのから逃げてきたんだ。今更会えねぇよ"って…」
柊先輩が前に言ってた…
『俺はずっと逃げてんだよ…』
もしかしてこのこと…?
あたしの中のなにかが込み上げてくる
「だからさ…さっきもあんなに怒ってたけど、本当にあなたのことが心配だからなんだよ?」
あたしの目に涙が溜まって溢れ出しそうだ
ガチャっとトイレのドアが開く音が聞こえる
すると大将は小声で
「これ言ったの内緒ね。私が怒られちゃうから」
と微笑みながら言い、カウンターの中に戻っていった
柊先輩がまた席につく
「先輩…」
「んー?」
あたしの目に溜まっていた涙がボロボロと溢れ出す
「柊先輩…ご、ごめ…んな…さい…」
あたしは嗚咽で上手く言えないが、柊先輩は微笑み
「わかりゃいいんだよ…」
と優しく言った




