土曜日なの
そして土曜日になった
あたしは玄関で美琴に見送られる
健一くんはもう張り切って車に乗りこんでいた
「ねぇ美琴、約束覚えてる?」
あたしは美琴を真っ直ぐに見てそう聞いた
「わかってるって!ほら、早く行ってよ!急いでケーキ作るんだから」
「避妊と…」
「お父さんに聞こえちゃうでしょ!ホントにわかってるから!」
美琴は今日、好きな人に全てを捧げるつもりでいる
正直、羨ましいと思ってしまう
本当に好きな人とそういうことができることを
「あと変な人がいたらすぐ晴翔くんのテレポートで逃げること!わかった?」
「それもわかってるって!ほらお父さん待ってるよ?早く行って」
「わかったわよ…」
美琴もすごく張り切ってる
まぁ、好きな人の誕生日だし、気持ちはわかる
あたしは健一くんが待ってる車に乗り込んだ
車の中でも健一くんはうるさいくらいにはしゃいでいた
あたしはそんな気分になれない
せめてスキャヴと柊先輩のことが解決したあとなら温泉も楽しめるかもしれないけど
一泊する旅館は車で1時間もかからない
昼くらいじゃないと部屋に入れないので、適当にドライブすることにした
紅葉にはまだ早いが、山道をドライブする
「なんかこうして2人でデートなんて久しぶりですね」
健一くんが嬉しそうにそう言ってくる
「たしかにそうね…」
「最近美里さん仕事で悩みとかあるんじゃないですか?元気ないですよ?」
ドキッとした…
でも健一くんに話したところで何も変わらない
「そう?そんなことないけど」
だからそう言っておく
「俺でよければなんでも言ってくださいね」
「ありがと」
でも無理よ
それに、もし上条が上手くやってくれたとしたら、一晩上条と過ごす約束もしてるの
それは全て柊先輩のため…
ってそんなの言えるわけないじゃん
そんな感じでドライブをして、お昼になった
あたし達は旅館近くのお蕎麦屋さんで昼ごはんを食べてから旅館に行く
色々手続きを済ませてから、部屋に案内された
部屋に入ると和室の畳のいい匂いが広がっていた
思ったよりも広くて、たしかにゆっくりできそうな部屋だ
襖が開いていて、隣にはもう布団が敷いてある
案内してくれた人は、晩ご飯の説明などして部屋から出ていった
「すごいとこですね。美琴に感謝しなきゃ」
「ええ、そうね」
「あ!美里さん!ここ部屋に露天風呂付いてるみたいですよ!!入りませんか?」
入りたいけど、健一くんと一緒は…
絶対健一くん変なことしようとしてるし…
そんな気分になれない
「あー、でも大浴場の方もすごいらしわよ。あたしはそっちが気になるかなー」
あたしがそう言うと、健一くんは明らかにガッカリしたような表情になった
しかし、何かを発見したのかまた笑顔になる
「でもほら美里さん!大浴場は午後15時からですよ。まだ入れないです!そこに書いてますよ」
なんでそんなに嬉しそうなの?
「あー、じゃああたし少し寝ていい?美琴に早く起こされて眠いのよ」
また健一くんの表情が暗くなる
「まぁたしかに早かったですもんね。昼じゃないとチェックインできないのに。なんで美琴はあんなに朝早くに行かせようとしてたんだろ…」
ヤバい!
もちろん健一くんには晴翔くんの誕生日のこと言ってない
美琴が晴翔くんと今日の夜を一緒に過ごすために、あたし達に温泉旅行をプレゼントしたこと
「夜!夜に部屋の露天風呂入ってみましょ!?晩ご飯食べて落ち着いたら、星空の下ゆっくり露天風呂に浸かるなんて素敵じゃない?」
あたしは慌てて気を逸らさせる
「ああ!いいですね!!たしかに!今から楽しみになってきました」
健一くんは嬉しそうに喜んだ
危なかった
健一くんにバレたら"帰る"って言いかねないから
あたしは布団の上に横になる
せっかくの休みなのに、なんか疲れた…
あたしはゆっくり目を閉じた




