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閑話 怪盗アバンス

※本エピソードは、第38話付近で起きていた出来事を描いた補完的な閑話です。

本編の進行には影響しませんので、気楽にお読みください。

王都に来てからと言うもの。


実に多くの民が暮らすマイハルド王国の首都。

様々な事件が巻き起こっていた。


王宮ご用達の貴金属を取り扱う商会の執務室では、会頭であるメビュルッドが頭を抱えていた。


「…それで?…その『怪盗アバンス』とか言う奴の要求は何なのだ」

「はあ。…翡翠の涙、そのペンダントをよこせ、と」


実は商会。

すでに数度にわたり“怪盗アバンス”とか言うものに侵入を許していた。


何より神出鬼没。

幾重にも張り巡らしてある結界など、何の役にも立っていないのが現状だ。


「フフッ♡お父様、ここは従うほかありませんわ」

「…メディーニ…お前な」


そんな中何故か同室し、うっとりと顔を赤らめとんでもない事を宣う長女であるメディーニ。


実は彼女、すでに怪盗アバンスの虜になってしまっていた。

どうやら以前忍び込まれたとき。


湯あみを終え一人自室にいた彼女は、例のアバンスに…


ごにょごにょ…

コホン。


何はともあれ心までをも奪われてしまっていた。



実は幾つかの魔術の応用なのだが。

この時点で気付いている者はいなかった。




「…しかし『翡翠の涙』だと?…あれはまさにこの世界最高峰のお宝だ。さすがに奴とて、あの封印は解けなかったということか」


翡翠の涙。

非常にレアな宝石で、あるダンジョンにしか存在していない希少価値の高い宝石だ。


いわゆる秘宝。

今これを保有している商会、おそらくここだけだろう。


王国随一の宝石商。

実はすでにライトの開発した暗号式のロックが出来る金庫を購入していた。


当然だが、陛下からの推薦だ。


「お父様。無駄な抵抗は美学に反しますわ。ここは潔く…アバンス様に…」

「メディーニ」

「っ!?」


普段聞かない低い父の声に、びくりと肩を跳ねさせるメディーニ。


さすがに軽率な発言。

彼女は自身がなぜこんなことを口にしたのか…疑念が沸き上がる。


挙動不審な様子に、父であるメビュルッドは大きくため息をついた


「ロルイド卿」

「…ふむ。…これは確かに私の出番のようだな」


部屋の隅で様子を見ていた紳士が口を開く。


彼の名はロルイド・イリーギッド。

イリーギット子爵家当主の男性。


彼の二つ名『解呪の貴公子』。


高レベルで聖魔法を習得。

特に解呪スキルについては王国一と言われるほどの実力者だ。


当然だが、依頼料は驚くほど高額だ。

だが。


今のこの状況、万が一娘であるメディーニがアバンスの言いなりになれば。

秘宝である翡翠の涙、まさに失う事態になるだろう。


「…ふむ。どれ…」


放心状態で椅子に座るメディーニの瞳を見つめ、何事か呟くロルイド。

やがて立ち昇る清廉な魔力、メディーニからピンク色のおどろおどろしい魔力が吹き上がり始めた。


「うあ、あうっ?!…うぐ、ア、アバンス…さま…」


瞳の色が目まぐるしく変わっていく。

さらには怖気の走る異質な魔力。


恐らく数分――


解呪はどうにか成功したようだった。




※※※※※



「えっと…『怪盗アバンス』…ですか?」

「うむ」


マイハルド王国、国王執務室。


今僕とティアは内密な書状、いわゆる『影の騎士』へのオーダーの確認のため陛下の執務室を訪れていた。


リーディルド聖協国の事件時に変装し、あの国を救った僕とティア。

なぜかその活躍にいたく感動した陛下は、事あるごとに僕たちとの連絡を取っていたのだけれど…


「はあ。あのですね?…“影の騎士ノワール”については僕の身分を隠すものです。別に裏家業で世直しをしたいわけではありません」


僕の言葉にうなずくティア。

僕はまだ9歳。

しかももうすぐ学園の入学式だ。


これ以上こういうことに時間を割いていると、本気でサルツさんに怒られる。


何よりティアリーナ。

“あの格好”がいまいちお気に召さないらしい。


…メチャクチャ色っぽくて、格好可愛いのに。

解せぬ。



「う、うむ。それは承知している。だがな?…一筋縄ではいかぬ相手、最近特にそういう輩が増えたのだ……お主の『魔力による改変』…影響していないと何故言える」



魔王ルイとティアとの決戦の日。

僕は確かにあのクソじじいの魔力でこの星を改変させた。


どういう理屈かは分からないけど。

なぜかそのことにたどり着いている陛下。


だから実は今この部屋には、結界魔術が展開され。

何と陛下と僕とティア、3人しかいない状況だったりする。


『重要な案件。ワシ以外は立ち入り禁止じゃ』


とか陛下に言われちゃえばね。

宰相であるウィリニード侯爵までシャットアウトしている徹底ぶり。


でもこういう事が続くなら、宰相には話通した方がいいと思うんだけど…

コホン。


まあ。

ロキラス殿下は知っている、と言うか。

僕から直接報告しているのだけれどね。


「…はあ。分かりました。…取り敢えずその怪盗?捕縛すればいいのですね?」

「うむ。報酬は白金貨5枚だ。頼む」


白金貨5枚――日本円で5000万だ。

もう笑うしかない。


何はともあれ、齎されたオーダー。

僕はため息をつき、詳しい話を聞いたのだった。



※※※※※



影の騎士ノワールと、美しすぎる従者アラタイト。


その活動は人知れず――



王都を中心にこの世界へと知れ渡っていくのであった。




ライトのスローライフ。

ますます遠ざかっていく事。



ライトは背中に嫌な汗をかいていた(笑)


世界の理解を深める閑話です。

すこしでもお楽しみいただければ幸いです。

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