閑話 怪盗アバンス、解決しました
※本エピソードは、第45話付近で起きていた出来事を描いた補完的な閑話です。
本編の進行には影響しませんので、気楽にお読みください。
「いたぞっ!こっちだ…ぶわっ?!」
「ふん。ここにも衛兵だと?…やけに手際が良い…潮時か」
深夜。
国立博物館宝物庫――
黒いマントから煙幕のようなものを噴出させ、マスクのようなもので顔を隠している人物がつぶやいた。
5月の初旬、誰もいないはずの施設の中では十名以上の衛兵がその様子に目を細める。
「…おい、連絡をつなげ。…今日こそ奴を捕まえるぞ」
「はっ」
怪盗アバンス。
ここ最近王都を中心に盗みを働く不審人物。
その正体はいまだに特定されていない。
しかし王都の宝石商や金融機関がいくつもその被害にあう。
それを重く見た陛下は、遂に最終兵器である『影の騎士ノワール』に捕縛を依頼していた。
そして今日。
ついに影の騎士ノワールの策により、アバンスを追い詰めていた。
※※※※※
「ふうん。どうやら彼『転生者』だね。魔力パターンがこの星の住人と違うし」
「そうなのですね。…やはりあの時のライ…コホン。ノワール様の魔力の影響でしょうか」
博物館館長室。
今ここでは僕と“美しすぎる従者アラタイト”が魔力を投影するモニターで、例のアバンスと衛兵たちの様子を確認していた。
「コホン。アラタイト」
「うう、す、すみません」
まったく。
すぐに僕の名前言いそうになるんだよね。
僕はじろりとアラタイトを睨み付け、ため息交じりに問いかける。
「ふう…注意してよね?…確かに強いね。彼レベル200くらいだよ」
「は、はい。…200?…それは…普通の兵士では太刀打ちできませんね」
正直僕から見れば小者だ。
あっさり捕まえることはできるだろう。
でも。
僕は違和感を覚える。
目的のために手段を選ばない暴虐ぶり。
場合によっては家族までをも精神的・肉体的に篭絡しているくらいだ。
だけど。
そう、彼はいまだに誰一人殺していない。
そして。
「…ねえ、あの話は本当なの?」
「ええ。裏が取れました。…“義賊”のつもりなのでしょうね」
彼は盗んだものを金に変え、孤児院や地方の教会へ寄付をしていたのだ。
さらには狙われた宝石商や金融機関。
その後の調べで“黒い事実”がいくつか露見していた。
「…まったく。…世直ししてるつもりなのだろうけど。…噂だけで動いたら駄目だよね」
「そうですわね。襲われた宝石商。…いくつかはまっとうな経営していましたし」
そして。
どうやらこの国の第3王子であるブリューノ殿下とのつながりがあるようなのだ。
(…陛下もロキラス殿下も…苦い顔してたっけ)
ブリューノ殿下は…
まあ。
すこし夢想家のようで。
ついこの前まで隣国であるルガード聖王国に留学していた御仁だ。
正直あの陛下の息子としては、残念ながら能力的に劣る王子。
そのせいなのだろう。
彼はどうやら王族としてではなく、個人としてこの世界に貢献したいようだった。
(怪盗アバンス…ルガード聖王国宰相の長男アルバース…はあ)
つまりこれはいわゆる“世直しごっこ”の範疇。
しかも幾つか許されない魔術まで使用していた。
「…魅了に洗脳…どうしてそういう力に頼るかな」
「ええ。人の信念を捻じ曲げる精神に干渉する魔術…強度的におそらく禁呪でしょう」
僕はちらとモニターに目を向ける。
凄まじい身体操作で、あっという間に無力化されていく衛兵たち。
「直接問いただしますかね」
僕はティア…コホン。
アラタイトの手を取り、怪盗アバンスめざし転移したんだ。
※※※※※
一方王宮。
今ここでは国王の執務室で陛下とロキラス殿下、そして件のブリューノ殿下が重い雰囲気の中お互いを見つめていた。
「…ブリューノ」
「…はっ」
じろりと息子を睨み付ける陛下。
肩をびくりと跳ねさせつつも、どうにか平静を装うブリューノ。
そんな様子にロキラスが口を開く。
「…お前、私たちに言う事があるだろう?」
「なっ?!…あ、兄者…わ。私には何のことだか…」
圧を増すロキラスの瞳。
冷や汗を流すブリューノ。
すでに同様の問答、1時間は経過している。
同席している宰相がポツリと口を開く。
「…ルガード聖王国…宰相の長男アルバース…この名に聞き覚えは」
「っ!?」
明らかに動揺するブリューノ。
その様子に大きく陛下がため息を漏らした。
「…話、聞かせてくれるか?」
「くっ…ち、違う、わ、私は…ひぐっ?!」
陛下からとんでもない冷気を伴う魔力が噴出する。
まさに研ぎ澄まされた魔力。
実に殺傷能力を含むそれに、ついにブリューノは重い口を開いた。
「…じ、実は…」
※※※※※
まあね。
この世界におけるレベル200。
きっと誰も敵わない全能感に支配されたんだろうね。
すでに拘束し、魔力のロープでぐるぐる巻きにした怪盗アバンス。
あっさり確保した僕はアラタイトとともに陛下の執務室へと転移していたのだけれど。
どうやこっちも片が付いていたようだった。
「ふむ。こちらも片が付いた…そういう認識でよいのかな?陛下」
「おお、これは影の騎士ノワール殿。…そうであるな。此度の助力、まことに感謝する」
正直陛下とロキラス殿下は僕の正体は知っている。
でもまあお約束?
一応影の騎士として僕は不遜な態度を許されていた。
「くっ、アルバース?…まさか…そんな」
その様子に慌てて口を開くブリューノ第3王子。
ピクリとも動かない彼を見て、顔を青ざめさせる。
「うん?ああ、今彼は気絶している…命には別条ないぞ」
「っ!?…そ、そうか…」
うなだれるブリューノ殿下。
なにはともあれ。
これで一応の解決を見た。
後は王族でどうにかしていただこう。
「陛下」
「うむ」
「任務達成、そういう事でよいな?」
「そうであるな…報酬は」
ふんぞり返る僕は、決め台詞を吐く。
「女神の思し召し…すでに前金は頂いた。残りは孤児院の皆に旨いものでも届けてくれ」
「ふふ。相変わらずだな。相分かった…ノワール殿」
「む」
深々と頭を下げる陛下。
思わず背中に冷や汗が流れる。
「…ありがとう。この恩、我が名を懸け一生刻ませていただく」
「うぐっ…ほ、ほどほどにな?」
むう。
僕だって知っているでしょ?
まったく陛下は本当にまじめだよね。
何となくやらかした感はあるものの。
僕はそそくさとアラタイトとともに寮へと帰っていったんだ。
※※※※※
結果と言うかなんというか。
どうやらブリューノ殿下、側近のレリッタ侯爵家の長男にいらぬ入れ知恵をされていたらしい。
『民の不満が爆発している。何より特権階級の腐敗、あの国にいる者には見えないらしい』
劣等感を募らせていた王子に、その言葉はまさに起死回生の悪魔のささやき。
自分が、自分こそがその窮地をどうにかして見せると。
そして覚醒した同級生、アルバースとの邂逅。
ついに揃ってしまったピース。
彼は行動を始めたのだった。
「ふああ…まったく。…どうしてこう短絡的なのかな」
「それこそヒューマンの業ですわ…ライト様と違って、普通の人は弱いし覚悟も無いのですから」
何故か僕にべったりと寄り添い、うっとりとした瞳を向けるティア。
もう深夜。
正直僕は眠い。
色気よりも僕は既に睡魔に襲われ、ティアに抱き着かれながら僕は意識を手放した。
影の騎士ノワール。
また一つ、王都の問題。
解決を見ていたんだ。
世界観拡充のお話です。
タイミング的に少し遅いですが…
楽しんでいただければ幸いです




