参幕〜出会って初日にデートとかマッチングアプリかよ〜
セミリアの大号泣により、パーティは水に流れるような終わり方をしてしまった。
「歩けるか?」
「ええ、なんとか。しっかりと街を見ないとダメだから、頑張るわ」
「そんな無理しなくてもいいんだけど……」
母親の指示通り、俺は彼女を家の外に連れ出していた。目的は、街の案内である。小学校でも中学校でも、新入生に学校を案内させるための行事はあった――しかし、街というのはいささか範囲が広すぎるように感じる。
というか、デート何かこれは。
デートと呼んでもいいのかこれは。
仮にデートであると認められたとして、出会って初日の男女ってデートしていいものなのか?
あ、マッチングアプリとかあるのか。いや、それは事前にしっかりチャットとかで話したりするわけで……。
考えるのやめよう、動揺が激しくなるだけだ。
「街を案内って言われても、どこに行けばいいのかね。お前からしちゃ知らないものだらけなんだろうが、説明の順序がわからん」
「山本さんの好きなところに連れて行ってくれたら嬉しいわ」
「好きなところ……ねぇ……」
そう指定されると、いくつか思い浮かぶ場所がないわけでもなかった。
ただ、俺の思い出参りにセミリアを巻き込むような真似をしていいのだろうか? 頭の中で候補が浮かんでは、消えていく。
嘘だろ……マジでデートみたいじゃん。
「そういやお前――いや、なんでもない」
「何かしら? 気になることがあったなら、遠慮せず聞いてちょうだい」
「あれじゃん、やっぱ女性って年齢聞いたら怒るんだろ……? 明日から俺、高校通うんだけど、もしかしたらお前もなのかなって」
俺が肩をすくめて言うと、セミリアはクスクスと笑う。
「怒らないわよ、私のお母さんなら怒るかもだけどね」
「そうなのか」
怒る人も、いるんだろうな、世の中に結構――って危ない危ない、うっかり質問の本質を忘れるところだった。
「で、どうなんだ?」
「ん? ああ、高校の話ね。そうよ、私も明日から、あなたと同じ高校に通うことになっているの」
「なるほど。来日してすぐに入学なんて、災難だよな」
「側から見たらそうかもしれないわね。でも、私自身はとても楽しみだわ。お寿司は辛かったけど、美味しかったし」
寿司はわさびが辛いだけなんだが……。
「……本当に、どこへ行こうかって感じなんだよな」
家からしばらく、目的もなく歩いていたのだが、足も疲れてきたので公園のベンチで休憩することにした。
まだ四月とはいえ、暑い時は普通に暑いのだ。ポカリスエットを二本購入し、セミリアに一本渡した。
思ったより体力が削られており、ベンチにぐったりとのけぞってしまった。
「歩くだけでも楽しいわ」
セミリアがそう言ってくれただけ、まだよかった。
日曜日の公園は、子どもがまばらにいて、楽しそうに遊んでいた。少子化って、やっぱり影響しているのかな――なんて、ちょっと考えたりする。
ぼんやりと頭動かしてるだけじゃ、何も変わらないんだけどさ。
「みんな、楽しそうね」
セミリアがうっとりとした様子で言った。
「子ども好きなの?」
「ええ。羨ましく思うわ。私はもう、あんな風にはしゃぎ回れるような歳でもないから」
「あ、そういう感じ?」
予想外の方向からのアプローチ……と一瞬思ったのだが、普通に的を得ている。
みんな気づかないだけで、子どもという存在が羨ましいのではないか。そう考えると、心の奥底を突かれているような気分になった。
「昔を思い出すのか?」
「……いえ。そんなことはないわね。私はずっと家に篭りきりだったから」
「え、なんで?」
思わず聞いてしまう。
「毎日忙しかったからかしらね。一日中、勉強だったり稽古だったりで、遊ぶ暇なんてまるでなかったわ」
「うわぁ、それはキツイわ……」
そういうやつ、クラスに一人二人いた気がする。金持ちの精神は羨ましいけど、その多忙は流石にいらないな…………。
そんなら、今すっげー楽しいだろうな。セミリアは俺と同じ高校に明日から通うことになっているけど、別に偏差値が高いわけでもない。昔からずっと習い事漬けだったくらいだし、充実した学校生活を送れそうではないか。
高校生活って意味でも、エスコートしていかないとなのかな……俺が。
金持ちだし、すぐ友達できそうではあるけど、最初の二日くらいは役に立てると嬉しいな。
「高校生活は、遊んだほうがいいってお父さん毎日のよう言ってんだよね。偏差値高い大学目指して、早めに受験勉強始めたんだってさ」
なんとなしに、俺は言った。
「わかっているわ。高校生の内は、自分の好きなように生きてもいいらしいと言われているから」
「親にか?」
「親によ」
セミリアは笑わずに言った。
切ない表情をしていた。
「親の仕事を継ぐことになっているから、高校なんて行かなくても問題はなかったわ。それでも、私、このままじゃダメだって思ったからここに来たのよ」
このまま――つまり、親の言いなりのままってことか。
俺は、言葉にし難い不快感を覚えた。もし俺がセミリアの立場だったら、どんなことを思うのだろう。
「でも、親を恨んだりなんかしていないわ。むしろ感謝しているくらい」
「……そうか、すごいな」
少なくとも、俺なら恨む。
三年だけに飽き足らず、百年は好き勝手に生きたいと喚くだろう。
金持ちの余裕など関係なく、このセミリア・スターリングは、人間として強い――俺がどう足掻いたって、届かない場所にいる。
……いや、違う。
「強がってるんじゃねーの、お前」
「え?」
「なんかこう……さ。俺に何がわかるんだって話だけど、顔が暗いし。お前は確かにお嬢様で、金持ちの子どもで、スペックも高い――」
でも。
「事実として、お前は逃げたわけだろ? それって、迷いのある確固たる証拠なわけじゃん?」
「………」
セミリアは、俺の言葉を耳にして、悔しさ噛み締めるような表情を浮かべた。
俺は、背筋が冷えた。
自分はなんてことを言っているのだ。
お前に何がわかると怒鳴られて、殴られてもおかしくはないほどの失言だ! 本心ばかり喋って、それでコミニケーションが成り立つと思っているのか!?
「いや、その――」
咄嗟に発言を撤回しようとしたが、セミリアはぷはっと息を吐いて、ベンチの背もたれに体重を預けた。
「……よくわかっているわね、人の心が。その通りよ、嘘をついたようなものだわ」
「嘘なんて、あんまりつくもんじゃねーぞ。相手が自分なんだったら尚更だ」
「ごめんなさい……」
「……こっちこそごめん。逃げてるだなんて、悪いこと言ったよ」
俺は立ち上がり、セミリアの前に立つと手を伸ばした。
「そろそろ行こうぜ。小腹も空いたしな」
「そうね」
彼女はギュッと俺の手を取った。




