Ⅺ〜打ち上げ、そして〜
結局、我ら一年三組は惜しくも二位という結果となった。
「乾杯ー!」
というわけで、打ち上げである。半ば強制参加で、クラス全員がカラオケルームに集まっていた。いや——全員ではなかった。
「セミリアちゃんなら、なんか大事な用があるって」
委員長は言った。
「えぇ? 嘘だろあいつ。体育祭の後だってのに大変だな」
用事があるなんて話は聞いたことがないのだが…………まあ、俺の知らないことも、もちろんあるのだろう。
秘密にされていたことも、あったわけだし——。
「トップバッター誰行く~?」
とある女子(淡海というらしいが、話したことはない)が言うと、委員長は立ち上がった。
「——その、歌う前に一つ」
そして、委員長はマイクを手に取る。
「その…………」
恥ずかしそうに斜め下を見る。
「昨日は、練習を無理した挙句に体調を崩してしまい、みんなを不安にさせてしまいました。ごめんなさい……今日はみんなの力を合わせて頑張れて、本当によかったです!」
話し終えると、カラオケボックス内には一瞬の沈黙が訪れた。
「体調を崩して、ごめんなさい…………なのか?」
とある男子が不思議そうに言う。
「いやさ。委員長は優勝するために頑張ってたんだから、胸張っていいと思うんだけどね」
「そうそう! 山本が言ってたぜ! 朝も放課後も走ってたんだって!」
「委員長のおかげでみんなまとまったわけだしね~」
次々とクラスメイトは委員長の罪悪感を溶かしていく。
いや、そもそも……こいつがおかしいのだ。体育祭が終わった後でも、前日に体調を崩してしまったこと——というより、体調を崩してしまうほどに自分を追い込んでしまったことを後悔しているのだ。
責任感の塊にも程がある。
「おい、風来」
俺は立ち上がると、視線が一気に向く。
「気持ちはわかるが……いや、わからないが、お前だってただの女子高校生なんだぜ。努力して、それが裏目に出てしまうこともあるし、責任を背負い込んで、限界を迎えてしまうことだってある。だから——」
そう言って、胸をドンと叩く。
「頑張るときは、俺をこき使ってくれて構わないぜ」
「山本くん……」
委員長ははにかんで、目に涙を浮かべた。
……なんだか、クラス全体の視線が俺に集中しているような気がする。
「え、もしかして告白?」
とある女子(羽月という名前で、本好き仲間なのでよく話している)が言い出すと、カラオケボックスはざわめいた。
「ちょっとちょっと大胆すぎるんですけど!」
「えーそこで成立しちゃう感じ~!?」
「なんかセリフダサくね…………?」
俺は、何も言わずにデンモクを操作して、『違う、そうじゃない』を入れるのだった。
それからこの出来事はクラスの大事な思い出として語り継がれることとなる——そう考えると、どうして俺は、普通に違うと言わずにネタに走ってしまったんだろうかと後悔する気持ちはあった。
だけど、俺の精一杯のギャグで起こってくれた笑いを、忘れないようにしたいと今でも思う。
打ち上げはあっという間だった。
俺は不在のセミリアに寂しさを覚えながら、帰宅していた。城がすぐ近くのところで、その前に一台の車が止まっていることに気がついた。
来客か?
ちょうど、その車に誰かが乗り込もうとしていた。
まあ、お金持ちの家だもんなぁ。いろんな来客があってもおかしくはない——それにしては、来客なんてほとんど見たことがなかったのだが。
乗り込んで、エンジンをかけたあたりで城の目の前に到着したので、その中をこっそりとのぞいてみた。
女性だった。
「………………もしかして……」
なんなら確信だった。
普段から見ているセミリアの顔にそっくりだった。よく見てみれば車は高級車で、SPも乗せている。
発進する車を、俺はひたすらに眺めていた。
「……………………」
城の中に戻り、自室へ向かう最中、螺旋階段でセミリアを見つけた。
「な、なぁセミリア!」
俺は思わず声をかける。
すると、バレバレな作り笑いを浮かべるセミリア。
「何かしら?」
「えっと…………今日——」
尋ねたい——さっき見たあの女性について尋ねたい。もっともっと、踏み込んだ事情を教えてほしい…………。
でも…………。
「今日は——お疲れ様!」
聞けない。俺に、そんな度胸、ありゃしない。
セミリアは作り笑いを浮かべたまま。
「そうね。仲がいいとか悪いとか関係なく団結して、みんながみんなを高め合っていたわ。優勝できなくて残念だったけれど、来年は………………」
そう言いかけて、彼女は沈黙してしまう。
あーもう、バレバレだよ。知っていたとはいえ、もっと隠す努力をしないとダメじゃないか。
「だよな! 来年も同じクラスかはわからないけど、頑張りたいよな!」
「ええ、そうね——」
彼女は、一体どんな気持ちでそう答えたのだろう。




