Ⅸ〜学校をブッチしてやったぜ〜
さて、とりあえず学校をサボって外に出てきたぞ……。
「なんでこんなことやってんだか……」
風来は風邪を引いたっぽい、と松前先生は言っていた。確証はないけれど、過労発熱としか思えない。
昨日からずっと心の中でモヤついていた。何かヤバいことが起こるんじゃないかと、予兆のようなものを感じていた。だが、まさか的中してしまうとは——自分が恐ろしい。
放課後まで待つつもりだったが、ついつい昼休みに抜け出してきてしまった。もちろん、無断ではない。ソフィア(今日のことを考えると、ソフィア様って感じだ)に連絡し、学校を抜け出す口実を作ってもらった。
借りを作ってしまったようだ。
現に今、彼女から電話越しにお見舞いの持ち物を伝授してもらっている。
『一つ、聞いてもよろしいですか?』
唐突にソフィアは尋ねる。
「え、なんですか? 構わないですが」
『いてもたってもいられないという気持ちがわからない——とは言いませんけど、学校を抜け出してまでお見舞いに行きたいほどなんて、山本様はそのお方が恋愛的に好きなのですか? 男性か女性かは知りませんが』
なんでも恋バナに繋げてくるムーブを真面目そうにやってくるのがこの人である。
「そういうことじゃねぇよ。相手が男だった場合がグロすぎる!」
『多様性の時代にそんなことを言ってはいけませんよ』
そう言って彼女は苦笑した。
「それは、なんかすまん…………いや、あいつは女だよ。だけど、別に好きってわけじゃない、恋愛的にはな。友達かつパートナーだって、俺は認識してるつもりだよ」
『はぁ……なら、何故?』
「あいつは体育祭のために人一倍頑張っていたからな。その努力が水の泡になるかもしれないんだぜ。体調が心配——ってよりかは、一人にしたくないって感じかな」
『なるほど。優しいんですね、山本様は』
「そりゃどーも。なんか照れるなぁ、そう言われると……」
両親に言われても何も思わないのに——。おい、出てるぞ思春期高校生が。
というわけで、俺はお見舞いのために購入する物を一通り聞かせていただいた。
一度城に寄り、学生服から着替えておく。念の為である。
それからスーパーに向かい、一通りレジを通しレジ袋に詰め込んだ。自費なのであまり使いたくはなかったが、そうは言ってられない。
重いビニール袋を引っ提げて、電車に乗り昨日初めて来訪した彼女の家の最寄り駅へ移動する。思えば、彼女を家に送ってあげて本当によかった。そうしなければ、学校から抜け出して右往左往するだけの高校生男子だった。
いや、ソフィアさんだったら簡単に見つけ出しそうだよなぁ……これは、偏見だけれど。
太陽が燦々と輝く晴れだった。明日も、こんな感じだったらいいなと思う。
ただ、それ以上に、俺はあいつがいてほしい。リレーで勝つために必要だから——じゃない。
単純に、俺とは違うのだ。体育祭にかける思いが違うのだ。
『私、今年は変わるって決めてるんだ。昔の、弱くて意気地なしな私じゃなくて、ちゃんと強い私になるんだって』
俺は昔のお前なんて知らない——けど、きっと変わったんだろうなお前は。
いきなり変わりすぎたんだろうな、お前は。
「ねえ」
唐突に、甲高く子供らしい声に俺は足を止める。後ろからだった。振り返ると、そこにいたのは下校中の小学生の集団だった。
抜け出してからそんな時間が経っていたのか……。
「お前がヤマモト? 風来ねーちゃんが言ってたの」
「え……そ、そうだけど? なんでわかるの? そんなこと——」
坊主の少年がいきなりそう言うので、俺は目を丸くする。
「風来ねーちゃん、たまにヤマモトがどうこう言うの! 写真で見たー!」
「写真……?」
いつのやつだ?
マジでいつのやつだ?
いや、なんでもいいなそんなこと。今は、こんなガキどもに構っている暇なんてない。
「ご、ごめんな。お兄ちゃん今ちょっと忙しいからさぁ」
「風来ねーちゃんのカレシなんでしょ!? 学生服じゃないのに、風来ねーちゃんと一緒じゃないのー?」
「違うよ!?」
これは子供達の拡大解釈なのか!?
それともあいつが実際に言っていることなのか!?
ことによっては風邪ひいてても説教だぞ!? 流石に!!
「……風来ねーちゃんは、体調崩して一人で寝てるんだよ。だから、俺が今からお見舞いするの。わかったら、俺もう行くから」
「一人っきりなの……?」
不安気に男の子は首を傾げる。
「まあ、そうだな」
「えー寂しい~。オレも一緒に行く!」
「騒がしくして風邪が悪化したらどうするつもりだよ。こういう時は、誰か一人だけでいいんだ」
「……ふーん。やっぱり付き合ってるんだー」
「うるさい!」
大人気なく俺は走り出すのだった。
「寂しい——ね」
そりゃ、そうだろうな。あいつは、とてつもなく、寂しいんだろうな……。




