Ⅲ〜百合が始まる!?〜
体育祭練習も激しさを増し、クラス対抗リレーの話題で教室は持ちきりだった。ここまでクラスの団結が高まったのは、灼熱を体現しているかのようなスピーチで民衆を沸かせた松前先生――そして、競技練習に入る前、本番でもないのに円陣を組み始めた委員長、風来のおかげでもあるのだろう。
そしてそして、クラスの団結を高めた真のMVPかもしれぬ彼女――セミリア・スターリングは、我ら三組学年優勝を果たしたら、最高の打ち上げを開くと約束してくれた。
高級カラオケ店という、存在そのものが疑問視されるような場所へクラス総出で突撃し、祝いのメロディを奏でるとのことである。
城に皆を招いて何かするのかと俺は思っていたのだが、セミリアは頑なにそれを拒否していた。何かあるのかもしれない。
放課後。
「今日も走ってこようと思うんだけど、山本くんもくる?」
と、誘ってきたのは風来である。
「え、今日も走るのか? ちょっと追い込みすぎじゃねぇの」
「大丈夫大丈夫、無理はしないから!みんなのために、私が頑張らないとだし!」
最近、明らかに目の輝きが増している。こんなキラキラした宝石があったら、ダイヤモンド以上の価値を誇るかもしれない。
「そうか……。だけどあいにく、今日は呼ばれてるんだよな」
言いつつ、俺は立ち上がる。
「何かあったの? 副委員長に問題を起こされちゃ、私、困っちゃうんだけど」
「先生にじゃないよ。相談があるからって、セミリアのやつが」
「ああ、いつも一緒に学校来てるあの子…………じゃ、もしかすると告白なんじゃないの。仲良いし」
「そんなわけないだろ」
「というか、もう付き合ってるんじゃないの?」
「そんなわけないだろ!」
風来がにんまりと嫌な笑みを浮かべるので、俺はそそくさと教室を去った。
相談があるから一階の空き教室まで来てほしい――と、セミリアは俺の元へやってきて、とても緊迫した様子で言った。思い返してみれば、どうも朝から不安げな表情だった。
もしかしたら、彼女の身に何か起こったのかもしれない。
今日は委員長と走ってたから一緒じゃなかったし、登校中の出来事に対処することはできないのだ。
「セミリア、来たぞ」
空き教室のドアを開けると、中にはもちろんセミリアがいて、数枚の紙切れを持っていた。窓から差し込む夕日で、思い悩むように眉をしかめる彼女の表情が照らされていた。
「あ、山本……」
「何かあったのか? その紙切れは?」
「これ、下駄箱に入ってまして……」
「ちょっと見せてみろ」
危機感を覚えた俺は、バシッとその紙切れを奪い取る。それはどうやら手紙のようだった。達筆な文字で、短めのメッセージが記されている。
『セミリア様へ。話があります。放課後、屋上へ来てくださりますか?』
「…………」
ラブレターだ!!
ラブレター以外ならなんだというくらいにラブレターだ!!
俺は口をあんぐりと開き硬直する。
「や、山本。これって行った方がいいのでしょうか……。おそらく、待たせてしまっていて……」
「早く行ってきなさい! 帰っちゃったらどーすんだよ!」
「た、確かに困らせちゃうかも……」
「ほら早く!」
「わ、わかった!」
セミリアは戸惑いを隠せぬままに走り出した。俺は、こっそりその跡をつけていく――あいつに告白しようと図る男が、一体どんなやつなのか見定めるためだ。
というか、屋上は立ち入り禁止である。そんなルールを守れないやつってだけで、すでに認めたくない――いや、俺はお父さんかよ!
相手が告白して、セミリアがそれをOKしたのなら、おめでたいという話じゃないか!
屋上へつながるドアの前に、セミリアがちょうど入ったタイミングでたどり着いた。
「私、羽田圭子といいます。ここに来てくれてありがとう。あの手紙を受け取った時点で、私の気持ち、受け取ってくれたよね?」
……え?
俺は、ドア越しに、そのラブレターを出したであろう人物の声――つまり、羽田圭子の声を聞いた。高く細く、明らかに男性のものとは異なっていた。
俺は、察する。
まさか――セミリアのやつ、初めて告白される相手が女の子になるってことか!?
「手紙の意味……? いえ、全くわかりません」
案の定わかってないし!
ここまできてなんだが、俺にはもう手を出すことができないようだった。このドアを開けて突入でもしてしまった日には、俺がセミリアのことを好き――なんて噂を流されてしまってもおかしくはないだろう。
迷惑になるだろうし、そんなことは避けたい。
ただ、何もかも状況次第だ。もしもの時、すぐにあいつを助けられるようじゃないと……。
「嘘だぁ。下駄箱に手紙が入ってたなんて経験、あなたの容姿ならいくらでも――」
おちゃらけたような口調で、羽田は言う。
「私、小中学校通ったことがないので」
「…………」
通ったことがないって言い方もおかしいがな?
「……そ、そうなんだ。それも、また一つの道だと私は思うよ」
嘘つけ!
「それはどうも。それで、一体私にどのような用があるのかしら? 人を待たせているもので」
「あ、うん。そうだね。じゃ、早速――」
改めるような沈黙が聞こえたので、俺は思わず気を引き締めた。これから、人の告白を耳にするのだ、それ相応の覚悟を持って望まなければならない。
……というか、今の俺、ドアに全力で耳を押し付けている状態なんだよな。このタイミングで誰か来たら、何が起こるんだろう。
いや、想像しないでおこう。
「あの、セミリア――さん」
「はい、羽田さん」
「実は、聞きたいことが、あるんです。私にとって、とても重要なこと」
「どうぞ」
変な告白の仕方をするやつだ……ここから、どうやって好きな気持ちを伝えるというのだ?
正直、もう性別とかなんでもいいから、セミリアの反応が気になる。
「――好きな人、いる?」
「ピュアかよ!」
思わず俺はドアを開け、ツッコミを入れてしまった。
羽田とセミリア、二人の困惑一色な目線が飛んでくる。だが、セミリアはハッとすると告白(告白ですらないが)相手の方を向くと。
「いないわ」
と、それだけ言うのだった。
その後、羽田圭子は上機嫌そうに帰って行った。ラブレターを出すくらいなら告れよと、俺は呆れた。
全く、めんどうな人間がまた増えてしまったじゃないか。
これもそれも、セミリアが美人すぎるせいだ。美人は罪――はっきりわかんだね。
「あの子、なかなか面白い子でしたし、名前を聞いておけばよかったのですがね」
「いやすぐに名乗っただろ! 羽田圭子な!」




