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II〜運動不足ランニングー

 テストが終わり、体育祭が近づいてきた。教室内は、どこかそわそわとした雰囲気が漂っている。まだ二週間もあるというのに、そんな様子では逆に直前になり熱が冷めてしまうのではないか。

 とはいえ、俺も俺で心を躍らせていた。

「明日から本格的にクラスでの練習が始まるぞ! 優勝目指して、全力ファイト!!」

 松前先生も、全身から火を放出しているかのような熱だった。ジャージが燃え尽きてしまいそうだ。

 放課後になり、俺が席を立つと、突然、クラスの学級委員長、風来弥生が話しかけてきた。俺は副委員長なので、最近は風来と行動する機会も多い。

「明日の朝、近くの森林公園でランニングしようと思ってるんだけど、山本くんもくる?」

「ランニング?」

 意気揚々とそう口にする風来を前にして、俺は戸惑う。

「なんで俺を誘うんだ? こう言っちゃうと悪いが、一人でやればいいものを――」

「やっぱり一人じゃ虚しいし、それに山本くん、どうせ運動不足なんでしょ」

「……まあ、運動は全くしてないが」

 見透かすような笑みだった。俺という人間がバレてしまっている。

「しょうがないな。少し拒んだけれど、お前の誘いを断る道理なんてないさ。お前は委員長で、俺は副委員長なんだからさ」

「そう! 委員長命令ってことで!」

「はいはい、わかりましたよ」


 翌日、早めに朝食を作ってもらい、靴を履いていると、トボトボ歩いてくる足音が聞こえた。

「……セミリア? どうした、こんな時間に一人で起きてるなんて」

 振り向いた俺は目を丸くする。

「……ランニング……するって……話してたから……私……も……」

 途切れ途切れに言葉を発すると、セミリアは背中からぶっ倒れた。痛そうな音が響くが、彼女は深い眠りに入ったようである。

 少し離れた場所に、ソフィアが立っていた。

「やはりダメでしたか……。お嬢様は私が部屋へ戻しておきます。いってらっしゃいませ、山本様」

「あ、うん」

 肩をすくめつつ、俺は城を飛び出した。学校近くの公園で集合し、そのままジャージ登校しようという算段である。

 ほとんど毎日セミリアと登校していたし、あいつもついて行きたかったのだろうが、無理はよくないだろう。

 電車に乗り、今日は学校の最寄駅から一つ前で降りる。

 そこから五分ほど歩くと、巨大な森林公園があった。思えば、公園のどこに集合するんだったか。何せ初めて来る場所なもので、よくわからない。

 まだ五月だというのに、なんだか気温が高く感じられる。

「山本くーん!」

 迷いそうになったが、風来の声が聞こえてきて胸を撫で下ろす。

「ごめんごめん! ちゃんと集合場所伝えておけばよかったよ、これは私のミス!」

 ジャージ姿の彼女は、体のラインが強調されていて、この前山田の『委員長は隠れ巨乳だと思われ』という発言が説得力を増した気がした。

 ちなみに、別に見るのが初めてというわけではない。毎度毎度、同じようなことを思っているだけだ。

「じゃ、早速走ろうか!」

 近くのベンチに荷物を置くと(不用心だが、人通りがないので問題はなかろう)ランニングコースを二人で並走する。ほのかに風が当たって気持ちが良かった。

「こんな時間から走っちゃうなんて、パーフェクトすぎないか俺たち」

 俺が言うと、風来はクスクス笑った。

「そう? こんなの序の口だよ。今年は最高に楽しい体育祭にするんだから!」

 風来はいかにも張り切っているようだ。すり足に見えるほどに足を上げずにランニングしている俺とは反対に、彼女は兵隊の行進を思い出させるくらいには足を上げている――なので、すぐに体力が切れるだろう。

「私は委員長だからね。クラスのみんなが、後悔なく終われる体育祭を作る義務があるんだよ。そのために、山本くんにもついてきてもらうから!」

「もちろんだ。頼る時は、しっかり頼ってくれよ」

 

 二十分ほどで体力を使い果たした俺たちは、ぐったりとベンチに座り込んだ。スポーツドリンクが喉を通り、体を蘇らせていく。

「委員長と副委員長の両方がこんな体力じゃ、クラスのみんなに呆れられちゃうな……。お前は女子だし多少は仕方ないけれど、俺は身長だってそこそこあるし」

「男女なんて関係ないわ。私はこれから体力をつけるもの」

 手をギュッと握りしめて、念じるように宣言する風来。

「強気だよなぁお前。尊敬するよ……。それになんか、責任感があるというか、自分に厳しいというか……俺とは正反対だ」

「ありがとう。私、今年は変わるって決めてるんだ。昔の、弱くて意気地なしな私じゃなくて、ちゃんと強い私になるんだって」

「……へぇ」

 そう語る彼女の表情は、とても力強く感じられた。成り行きで副委員長になった俺が、こいつのパートナーを勤められるのか少し心配になってくる。

 確かに今までは大丈夫だった。それに、こいつは俺の助けがなくてもどうにかできるやつだ。所々ドジな部分があるとはいえ。

 しかし、責任感というのは危険だ。重圧は、人を間違った方向に傾ける時があるのだ。

 彼女が足を踏み外した時、しっかりと手を伸ばせるかが不安だ――暗闇に飲み込まれた彼女を、光に連れ戻せるかが不安だ。

「でも、私一人じゃできないこともあるから、頼りにしてるよ山本くん」

「……そりゃどうも」

 頭がついつい熱くなり、俺はそっと目を逸らす。

「体育倉庫に二人きりで閉じ込められた時も、私一人じゃ危なかったよー!」

「誤解を招く言い方をするな!」

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