壱拾伍幕〜やっぱり休日はテーマパークに限る〜
朝、気持ち良い日の光を浴びて目を覚ます。最近は少々寝不足なので、普段はまるでそっと頭を撫でるようにして朝を告げてくれるこの日光たちも、脳天をガンガン叩いて俺を叩き起こしてくる。
大迷惑――しかし、寝不足気味な自分が悪い。
「まあ、高校生なんてみんな寝不足だろ。知らんけど」
ベッドから這い出て、部屋を出るとダイニングルームへ向かう。朝ごはんを食べたら、もう出発するのだろう。
それにしても、楽しみである。
遊園地が――という意味でもあるのだが、休日に美女二人とお出かけができるわけなのだ。そんな不純な気持ちを抱くのはあいつらに悪いけれど、嬉しいことは確か。
俺はとても機嫌が良かった。
「おはよ~」
どうせ早起きしてもう朝食の準備をしているのだろう、と挨拶をしながらダイニングルームへ入る。メイド服姿の彼女が出迎えるかと思えば、違った。
「おはようございます、山本様。メイド服はダメだとおっしゃるので別の服を用意したのですが、どうでしょうか」
「おぉ……」
感嘆の声を漏らすことしかできなかった。
灰色でダボっとしたズボンに、黒を基調とした半袖のTシャツ――いかんせん癖のあるのがこのソフィアという女性なので、とんでもない柄の服をチョイスするかと思えば、無難も無難だ。
何着ても様になるのだろうが。
「セミリア様を起こしてきてください。そろそろ朝ごはんができます」
「わかった。そろそろあいつ、上半身が脱げないよう対策しているといいんだが……」
「いいじゃないですか、どうせあなたくらいしか見ないんですもの」
「お前にも男だって思われてないんだな俺は……まあ、なんでもいいよ」
俺は階段を上がり、隣にあるセミリアの部屋へと入った。
しっかりと、今日も下着姿だった。
「もうここまでくると痴女の領域だわさ……」
ちなみに、本日のブラジャーは赤色だった。
朝食を済ませ、三人は城から出る。
電車を使うのかと思っていたが、どうやら車らしい。車の種類には詳しくないのでよくわからないが、黒い車体は細長く、のっぺりとした印象を与える。高級車という色眼鏡をかけずにみれば、そんなものであろう。
その遊園地へ向かうための経路を調べると、満員電車は必須だったので、やめておいたらしい。
「来日してまだ日も浅いのに、満員電車には無理があるでしょう。しっかりとした訓練を行うまでは乗れません」
それが当然の理であるかのようにソフィアは言って、運転席に乗り込んだ。
誰も満員電車の訓練なんてしないんだよなぁ……。
「実際、都会の電車はキツイよ」
嫌な記憶が想起され、苦虫を噛み潰すように俺は言った。
「舐めてかかると痛い目を見る――あんなのに毎日乗って通勤してるサラリーマンの気が知れないっつーか」
「日本人は、すごい民族なのね……」
セミリアは、何かの伝説でも耳にしているかのような表情だった。
俺とセミリアは車の後部座席に乗り込む。
滑らかなエンジン音と共に、車は発進した。
「一週間登校したってだけで、よくも遊園地のチケットなんて取ったよな。あんたらの出身は知らないけど、何事も祝う精神性が強い日本で生まれ育った俺ですらビックリだよ」
「登校しただけ――なんて言い方はよしてください」
ソフィアはわりかし強めな口調で俺を制した。
「セミリアが今に至るまで送ってきた人生は、孤独そのもののようなものだったのですから。小学校も中学校も通わず、ただ自らのスキルを高めていく日々を過ごして、それからいきなり高校生なのですよ? 心配するのも無理はありません」
「え、忙しかったとは聞いてたけど……そんなに?」
思わずセミリアを見る――やりづらそうに、こくりと頷いた。
友達がほとんど作れなかったというのも、小中学校の子たちと遊べる機会が少なかっただけだと勘違いしてしまっていた。
新しく始まった高校の授業も難なく理解していて、相当勉強してきたんだろうなと感心していたのだが……。もしかすると、ちょうど昨日やった数学の公式だって、とうの昔に覚えきったものかもしれないのだ。
想像なんてつかない。学び、習う――それだけの日々。
「思い返してみると、今までの時間は必要なものだったわ。私はいずれ、アングラード家の主として、奮闘していくのだからね」
「そんなこと……お前が言っちゃっていいのかよ。前に強がるなって言ったじゃんか」
「強がってなんかいないわ。これは本心……」
表情から、その言葉が本心か否かはわからなかった。
多分、本心であっているのだろう。
やたらと強がりがちな彼女だが、それでも精神力が強靭であることは確かだ。不満を抱えつつも、生まれた頃から宿命を背負い続けているわけだ。
強い人間になるという宿命を――だ。そのために、想像もできないほどの努力を尽くしてきた。
中学生の頃の俺なんて、部活くらいしか脳になかったのに……!!
俺は、セミリアの小さなその手を握った。セミリアは戸惑いを隠しきれず、目を見開く。
「本当に偉いやつなんだな、お前。今日は、楽しもうぜ」
「……ええ、そうね」
そっと視線を逸らし、彼女は肩をすくめた。
車から降りた先にあったのは、夢の国であった。
「すごいわね……」
海外にもあるテーマパークだが、セミリアの反応を見る限り初めてのようだった。
「日本で一番有名な遊園地はどこかと調べた結果――ここ、ディズニランドが出てきました」
ソフィアはそう語る。
モロに名前出してんじゃねーか……怒られるぞ多分……。
「大丈夫です、私たちが来たのはあくまでディズニランドですから」
「英語発音風にして誤魔化しても無駄だよ!?」
「あ、ちょっと失礼――」
いきなりソフィアは少し離れ、スマホを耳元に当てた。電話が来ていたようである。
「えー、はいはい。はい、わかりました」
しばらく会話した後、こちらに戻ってくるなりソフィアは深々と頭を下げた。
「申し訳ありません。急用につき、私は帰らなくてはならなくなりました。ホテルを一室取ってありますので、明日の朝に迎えに行きますので」
「え!?」
「では――」
車に戻り、有無を言わせず発進してしまう。
立ち尽くし、無情に走り去る車を見守る俺とセミリアがいた。
……クソ! この状況を作り出すのが目的だったのか!
俺が男として見られてないって話をしたばかりなのに!!




