壱拾肆幕〜登校一週間お疲れ様会〜
登校五日目、金曜日――の終礼後。
初めての土日ということもあり、教室内ではどうやって過ごすかの議論が巻き起こされていた。待ち合わせの約束をしていたり、最適な過ごし方を語り合う勢いでディベート対決へ発展していたりした。
そんな中、俺とセミリアは足早に教室を去り、帰路に就いていた。
『今週の土曜日は空けておいてくださいね。やるべきことがありますから』
ソフィアの放った一言によって、俺たちはその議論に参戦できなかったわけだ。
「一体、何をするんだろうな?」
「さあ。心当たりはないんですか? 空き地で野球をしていたら、近隣の家の窓ガラスを破ってしまい、謝らなければならない――とか」
「今時空き地なんてねーよ……」
呆れていうと、セミリアは目を丸くする。
「ドラえもんで、そんなシーンを見かけたのですが」
「あれ、現代設定ではないぞ」
「そうなんですか!?」
「普通に見りゃわかんだろ……いや、思えば、アニメの方なら現代設定でも説明はつくな……」
俺は見てないけど、スマートフォンとか普通に使ってたって聞くし。
でも、アニメだとしたらいつ見たんだ? 子供時代の思い出を辿ってみりゃ、あれって土曜日放送だろ……?
じゃあ、漫画を読んだのだろうか。いや、だとすれば流石に時代設定が昔だとわかる。
んん?
……まあ、いいや。
二人で土曜日の『やるべきこと』がなんなのかについて、話し合いながら帰宅する(後半はほとんど大喜利だった)。
玄関のドアを開けて、ロビーへ入ると、目線を少し上げれば見えるちょうどいい位置に、横断幕があった。白い布へ、カラフルなペンで、その文字は書かれていた。
『~登校一週間お疲れ様会~』
…………タイトル回収だ!!
そういえば、話し合い(大喜利)の最中に俺が出したな! お疲れ様会!! 意見を出したのは自分だったのに、その時はドカ笑いしちゃった気がする!!!
実際にやるとは思わなかった……!
「おかえりなさいませ、お二人とも。今日は豪勢にやりますよ」
ソフィアは、ダイニングと階段の踊り場へと繋がる扉から勢いよく飛び出してきた。無表情のくせに、動きだけはアグレッシブ。
裸エプロンだった。
「え、何をしているの……」
戦闘機もビックリな旋回スピードで後ろを向いた俺の横で、セミリアは尋ねる。声からもうわかるドン引きだった。
「そりゃもう、読者へのサービスですよ。もし仮にこの物語が書籍化されるとしたら、いい挿絵が描けるようにネタを提供するべきじゃないですか」
「タイトル回収~のくだりで俺がもうメタ発言したから! やめなさい!!」
「じゃあ、着替えてきます。もうすでにパーティの準備がなされていますので、席についてくださいね」
なぜか不服そうに、ソフィアは戻って行った。
「なあセミリア。そろそろ休暇を取らせてやった方がいいんじゃないか……」
「いえ、羞恥心がほとんどないせいで、ギャグでやっていい範囲がわからないらしいのよね。これも、私くらいしか披露する相手がいなかったし、見過ごしていたのだけれど……」
その後。
俺とセミリアがダイニングテーブルにつく。戻ってきたソフィアは、普段通りのメイド服だった。
もっと目に焼き付けておけばよかったな……なんてことを、思ったり思わなかったり。
まあ、高校生なんてそんなもんじゃん?
「それにしても、一週間登校したからって、よくこんな用意できるもんだよな……」
テーブルいっぱいに広がる料理たちを見渡し、俺は言う。
量もすごいし、質もやべぇ。こんなの、高級レストランのコース料理でもそうそう見ないだろ(行ったことないけど)。
セミリアは席に座って早々に手を合わせて、食べ始めてしまった。自分の家とはいえ、ちょっとがめついが過ぎるような気がしないでもない。
偏見だけど、元の家はマナーとか厳しそうだしな……付き人のソフィアが結構フリーダムな人なので、厳しく言われなくなった反動が来ているのかもしれない。
まあ、俺はそれでもいいと思うのだが。
「祝う気持ちもありますが、パーっと料理をするきっかけが欲しかったんですよね」
ソフィアは席につきつつ、呟くように答えた。
「食べ切らなきゃお裾分けするので、無理はしないでくださいね」
「お城からやってきたやつにお裾分けされちゃ、お隣さんもビックリするだろうな……」
今はこの城の隣に外国人が来ているんだっけ――というか、前まで住んでた俺の家にいるんだよ確か。
なんだっけ……ジョセフ? ジョナサン? いや、そんな波紋使いみたいな名前してなかったよな……。
明日あたりに、挨拶へ――あ、土曜日はやるべきことがあるんだった。お疲れ様パーティだって、二日連続でやるわけじゃないだろうし。
聞こうとしたちょうどその時、ソフィアは告げた。
「明日はみんなで、遊園地に行きます。楽しい休日を過ごそうではありませんか」
「え、マジで!?」
思わず仰天してしまう。
遊園地なんて、ここ数年全く行っていなかったではないか。
なぜ遊園地なのか。
なぜそれを前日の夜に伝えるのか。
疑問はいっぱいあるけど関係ない! 思春期男子はこういうところで強がり、嬉しくなさそうな態度をとってしまいがちだが、俺は違う!
ひたすらに嬉しいではないか!
飛んでいくような気持ちで、眠れるではないか!
「とても嬉しそうですね、山本」
唐突にはしゃぎ出す高校生男子に引くこともなく、セミリアは微笑する。
「えぇえぇ! 嬉しいですとも!」
「私も嬉しいわ、行ったことがないもの。明日のために、ドレスを選ばなくちゃ――」
「え」
一瞬、沈黙が流れる。
「ドレスで遊園地行くの……?」
「? もしかして、日本なら着物の方がいい?」
セミリアは小首を傾げてそう言う。
着物で歩いてるやつなんて今時いないんだなぁこれが。
「いや、洋服でいいよ……極めて一般的な服装の方がいいよ……」
「じゃあ、高校の制服で行くことにするわ。ドレス以外の服なんて持っていないし」
「もうそれでいいんじゃないですか……」
だとすれば、俺も制服で合わせた方がいいのだろうか。
制服の男女二人にメイド――修学旅行にしてはいささか時期が早過ぎると言うか……あれ?
俺はソフィアへ目線を向ける。
「……メイド服はよろしいでしょうか?」
「ダメだよ!!」




