壱拾弐幕〜恋愛マスターの策略〜
登校三日目、俺は例によってセミリアを起こしに行った。
「…………あーもう、また……」
寝てる最中に上半身がはだけるその癖を、もう治す気はさらさらないようである。下品な話だけれど、今日のブラジャーは水色だった。
朝食を済ませて、登校――今日から教科授業の始まりだった。
とはいいつつ、最初に行われるのは自己紹介と教材配りだ。ぼーっとしているだけで終わってしまう。
終礼が終わって放課後に入る。俺が自分の席で呆けていると、セミリアと梨本が話しかけてきた。梨本は、いつもの姿に戻っている。
昨日のあれは、幻覚だったのかもしれない。
「部活動見学、一緒に行かない?」
梨本は綺麗な上目遣いを見せつけた。
「俺、高校では部活入るつもりないし、いいかな」
「中学の時はどこ入ってたの?」
「……バスケ部」
「えぇ! 意外! 卓球部とか入ってそうなのに」
卓球部の人には申し訳ないけど、それそこそこ悪口じゃないか?
俺はバッグを肩にかけ、立ち上がる。
「ともかく、もう部活なんてまっぴらなんだわ。じゃあな、お前ら。楽しめよ……あ」
視界に山田が映り込んだ。梨本を見つめ、目を輝かせている。
「やっぱり俺も同行するわ」
「え、あぁ、うん」
目を丸くする梨本の後ろで、山田がすごい形相で俺を睨んでいた。
「でも、あんまり大人数で押しかけるわけにもいかないし、二組になった方がいいだろ。ほら、山田も行きたそうな顔してるし。グーとパーで別れようぜ」
俺はそう提案しながら山田に詰め寄る。
そっと耳に顔を近づけ、小声で言った。
「――俺はグーとパーを交互に出す。お前は逆にしろ。そうすりゃ、どっちにしろ女子と当たるし、長く続いても怪しまれない」
「わかったっ!」
山田は実に感心したような顔をした。
四人で円になり、まずはじゃんけんの派生であるところのグーパーについて、セミリアへレクチャーした。
その間、これから山田の陥ることとなる絶望を想像して、俺は内心ほくそ笑んでいた。
「グッとパーで別れましょ!」
セミリア&梨本、グー。
山田&俺、パー。
よーしっ!! 恋愛マスター(笑)を騙し取ってやったぞ!!
「お前という人間を、俺はどうやら買い被っていたようだよ。狡猾な悪魔め……裁かれてしまえばいいのに……」
山田はヘコみ半分な怒りをあらわにした。
まあ、男子二人ペアになるよう仕向けたのは、男女で回ったら色々不便だろうな――という俺の心遣いも多少はあるわけで。
大体二割くらいは、俺だって親切な気持ちを働かせたんだぜ?
いやー! それにしてもいい作戦だった! 急に考えついた故に、そこそこ穴はあるけど、一発で決まってとにかくよかった。
「で、どの部活に行く気なんだ?」
部活に興味のない俺は、山田にひたすらついて行くのみである。
「愚問だなそりゃ。俺みたいな人間が、なんのために部活に入ると思うか?」
「あーはいはいモテたいのね。わかったわかった」
「そう! モテたいわけだ!」
ブレないなぁ、こいつは。
梨本にアピールするためってのももちろんあるのだろうが、それ以上にチヤホヤされたいっぽい。
そういう意味でも、なんだかブレないやつだ。
俺は学校の部活動紹介パンフレットをペラペラとめくり、運動部のラインナップを確認した。うわ、バスケ部あんじゃん……そりゃそうか。
「モテたい――というと、テニス部とか?」
あとは、サッカーとか、かな?
「テニス部はダメ、ウチの高校強豪じゃん。そういう面ではサッカー部もダメダメ。入るならもっと緩いところのほうがいいんだよ。レギュラーで出たほうがモテるだろう?」
「そうなのか」
「ならば――バスケ部だ!」
「………………………………………」
「え? どういう表情それ」
多分、すごく微妙そうな顔をしていたのだろう。
まあ、バレなければ別に問題はない――もし競合だったら、経験者なだけでそこまで注目はされないだろうに、ある程度緩い部である以上(初心者大歓迎がそれを物語っている)勧誘でもされたらたまったもんじゃない。
いや、ダメだ。山田だって一応俺の大事な友達である。今日はその上に彼の恋愛成就チャンスを潰してしまった。そのことに全く引け目を感じていないといえば嘘に――ならないけど。
とにかく、いい点を考えよう。俺がバスケ部に見学へ行くことによって発生しうる幸運を考えよう。
それをわざわざ考える必要が出てくる以上、もう行かない方がいいんだろうが。
「……なんでもいいからついてきてくんね?」
「あ、うん」




