壱拾壱幕〜美しきツインテールには棘がある(後編)〜
俺と梨本は公園のベンチに横並びで座った。
「これうっま! 日常的にこんなもん食ってんのお前!?」
どんな高級菓子が出てくるのかと思えば、手作りのチョコブラウニーだった。
一つ食べると、梨本は目を煌めかせた――口調がいつもとは全く違うことから、もう猫をかぶる気がないことを窺える。
「い……いや、俺まだあの城に住み始めて二日しか経ってないし、多分、そんなことないと思う」
状況に困惑しながらも、俺はそう答えた。梨本が怖いので、ブラウニーには手をつけなかった。
いや、本当にどういう状況なんだよ……不良たちの死体(死んでないけど)はそのままだし。
「北海道から来たの? お前」
不良がそれらしいこと言っていたので、俺は梨本に尋ねてみた。
「あちゃー、聞かれちゃってたのかー」
もはや清々しそうににっこりと笑い、彼女は後頭部をワシワシと撫でた。
「そうだよ。中三になるタイミングで引っ越してきたんだ」
「北海道のどのあたり?」
すかさず続けると、梨本は目を丸くした。
「は? ……落部だけど、それがどうしたんだよ」
「俺のおばあちゃん家があんのよ、俺は八雲だけど」
一応言っておくと、その二つの地域は八雲町に属しており、函館の方にある――北海道を片手持ちの鈍器とするときに、持ち手になりそうな辺りだ。
つい驚いてしまった。北海道ってかなり広いし、札幌とか旭川の方かなぁと勝手に思っていたのだが。
ちなみに、毎年夏に帰省しているのだが、両親共々海外へ行っているので、今年がどうなるかはわからない。
ちなみにちなみに、母方のおばあちゃんである。
「嘘だろ……じゃあ私ら、わんちゃん出会ってたかもしんねーじゃねぇか……」
ほんとビックリだわ……。
「それで、北海道でヤンキーやってたお前が、こんな場所でツインテールの貴公子してんだよ」
「だよな。まあ、引っ越したのは家の都合……ツインテールの貴公子?」
「いや、なんでもない!」
本人知らないんだ……もしかしてあれ、山田が勝手に言ってるだけ?
「なら、いいんだが……」
言いながら梨本は立ち上がり、積み重なってる男共の死体(重ねていうが死んではいない――いや、でも全く動かないよな……考えるのやめよ)をビシッと指差した。
「こいつら、私と因縁があるんだよ」
まあ、因縁がなきゃなんで戦ってるんだよ案件だし。
「ただの喧嘩じゃ、こんなとこまで追ってこないよな。流石に」
「そりゃそうなんだよな。なんでここまで追ってきてるんだか……。カツアゲしたんだよな、ゲーセン行きたくて」
「いきなり何してんだ」
そして、ゲーセンって……いや、函館の方に行けばあるか。
「それから、やたらと執拗に追いかけてくるんだよ……」
面倒そうに、頭をボリボリとかく梨本。
まあ、金を取られちゃ誰だって怒るだろうが、こんなとこまで追いかけてくるか? 今まで言ってこなかったけど、ここゴリゴリの関東圏だぞ!?
「……たかが四十万でなんであんなにキレてんだか」
「四十万!?」
いや、いやいや!
取ってて不思議に思わなかったのかよ!
「まあ、スッゲー恨まれてるってより、こいつが金持ちのせいなんだよな。私の正体を嗅ぎつけたのも、金持ってるからだろうしな。悪いことをしたと思ってるけど、あんまりストーカーされるとやんなっちゃうぜ」
最初に襲いかかり横蹴りを喰らったガタイの良い男の頭を踏み、グリグリと圧迫する。
凄惨すぎる現場である。
「金取ったこと、ちゃんと謝った方がいいんじゃないの? 悪いことしたって自覚してるなら」
俺はベンチから立ち上がり、梨本と向き合う。
「まあ、その内な。帰ろうぜ」
「え? そんな悠長なこと言ってたら、こいつら北海道に帰っちゃうだろ……」
「へへっ、バカ言うな」
梨本は苦笑し、歩き出していった。
「このストーカー共が、簡単に諦めてくれるわけねぇだろ。また懲りもせず、私にボコられに来てくれるさ。また会ったときにゃ、謝るよ」
その声色は、少しだけ楽しそうだった。
歪な人間関係だ――そう思ったものの、俺は彼女を見送ることしかできなかった。
一瞬、静寂が流れる。さて、帰るか。
「う……ううぅ……」
ちょうどそんなタイミングで、最初に横蹴りを喰らい吹っ飛んだガタイの良い男が目を覚ましたようだった。リーダーっぽいだけあり、一番最初の起床である。
痛みからか情けない声をあげつつ、体を起こすと、目が合ってしまった。
「なんだ、お前」
「――通りすがりの高校生ですが?」
「こんな時間に高校生が通りすがるわけないだろ。もしかして、梨本の友達か?」
訝しむような目で睨んでくる――怖い。
「い、いや……。ツインテールで元ヤンの超絶美少女なんて知りません!!」
「現実でやっちゃバレバレだろそれ……」
呆れられた。
とはいえ、いきなりぶん殴られるなんてことはなさそうである。それはちょっと加害妄想が過ぎるか。
男はフラフラと歩き、ベンチに座り込んだ。
「俺は垣田。あいつのライバルをやっている」
垣田は両腕でなんとか体を支える、どうも決まらない姿勢でそう言った。
「ライバルという割に、一撃でやられてませんでした?」
「言うな。わかってるよそれくらい」
恥ずかしそうにそっと目を逸らす垣田。なんだこいつ。ゴツいのに女々しい、ちょっと気持ち悪いな。
「やっぱ勝てねぇな。何度挑んでもな……俺も、もっと大人になるべきなんかなぁ……」
「でも、梨本は期待していましたよ? 『また懲りもせず、私にボコられに来てくれるさ』って」
「へぇ、そんなことをあいつが……」
彼は背もたれに体を預けて、星の一つもないつまらない空を見上げた。
薄く笑っていた。
「生意気な奴め。今度は勝つぜ、俺は」
「…………」
感情に浸る彼を尻目に、俺は公園を早歩きで去った。
そして――心の中で、叫ぶ。
バトル漫画かよ!!




