玖幕〜委員長と担任教師(後編)〜
なぜこんなことになってしまったのだろう。
「これから二人には、委員長と副委員長として、全力を尽くして頑張ってもらいたい!」
みんなが帰った放課後の教室内にて、松前は声を張り上げた。
「ええ、任せてください」
確信的な笑みを浮かべつつ頷く風来。
「まあ……やるからには、頑張りますけども」
そして、肩をすくめて気のない返事をよこす俺。
まあ、ここまでの経緯は実に単純なものである――話は数時間ほど前に遡る。
委員長には、風来が立候補した。聞いてみると、前々からやってみたかったらしい。
こういう決め事って、長くなる時はどこまでも延びてしまうものなので(中学生時代にそんなことがあって、正直トラウマだ)、助かる気持ちでいっぱいだった。
しかし――
「副委員長をやってくれる人はいませんかー?」
風来の声は教室の静寂に吸い込まれていく。
そう。
風来以外にやる気のある人物が、本当に誰一人いなかったのである。
セミリアはまだ日本に来てすぐだからと自重してしまっているし、山田も梨本もそういうタイプじゃない。俺の知ってるクラスメイトの中で、やりそーな人がいないというのはわかっていた。
しかし……誰か一人は出てくれるだろうと、思っていたのだが。
気の詰まるような雰囲気に松前先生は見かねたようで、クラス全体をしばらく見回すと、言った。
「風来と隣だし、山本、頼む!」
「はい?」
「それじゃ、決定だ!」
そんなわけである。
何をするかは知らないが、放課後に教室へ残らされてしまった。理不尽という言葉は、このような状況のためにあるものなのか――なんなら、この出来事によって理不尽という言葉が生まれたんじゃないかすら錯覚してしまう。
まあ、風来は悪いやつじゃなさそうだし、一緒にクラスのため頑張りたいと思わないわけでもないが。
せめて、自分で手を挙げたかった。
嫌ってより、情けない。
「特に連絡事項があるわけでもないし、決め事があるわけでもないんだが……せっかくだし円陣を組もうと思ったんだ!」
松前先生は片手をギュッと握りしめて言った。
「……」
「……」
組んだ。
割としっかりめに肩を組み、叫んでしまった。結構、楽しかったり……。
本当に用事はそれだけだったようで、俺と風来は共に教室を出た。
「ねえ、山本くん。これから予定空いてる?」
「え?」
時刻は夕方の五時半くらいだった。
まあ、家に帰ってそろそろ始まる授業の予習とか、しなければならないことはある。さらに、今は読みたい本が山積みなのだ。
咄嗟に忙しいと答えそうになって、すんでのところで留めた。
もしや、これからの活動方針を話し合いたいんじゃないか。遊びに誘われているんじゃないか――と思ってしまったけれども。
「ああ、暇だ。何か話し合うのか?」
「ううん、違う違う」
風来は慌てて首を振る――じゃあなんだというのだ。
「ほら、私たち高校生でしょう?」
「うん」
「それで、放課後でしょう?」
「うん」
「したくなるでしょう。青春を」
「うん……」
こいつ、このまま二人で遊びに行ったら放課後デートになってしまうことをわかっていないのか?
いや、待て待て、それは流石に俺の考え過ぎだ。
「まあ、確かにそうだな……あんまり中学校でもキャピキャピできなかったし、高校生になったんだからな」
「そう! だから、カラオケ行かない? 私、友達とカラオケ行ってみたかったんだ!」
「へえ……友達……」
友達?
もう友達判定されてるのか、俺。
友達判定が凄まじく早い割には、まだ友達とカラオケに行った経験はないんだな。
それって矛盾してない? それも俺の考え過ぎなのか? 今日の俺、やたらと思考を回転させているような気がする。
うーん……………………でも、断る理由もない。
「……わかった! 駅のすぐ横に確かあったし、そこにでも行ってみよう」
「わーい! うったうぞー!!」
意外とアグレッシブだなぁ――と呆れつつも、何気に心躍る自分がいた。
うん、これはデートじゃない。そうだ、出会って一日の女子と二人きりでカラオケのどこがデートなんだ。
……いや、デートっちゃデートか。
あんまりカラオケ行かないし、気まずい雰囲気になったら嫌だなぁと思いつつ入ったカラオケボックスだったのだが、一曲歌ってみると意外に楽しくて、盛り上がった。
「イェーイ! 行くぞー!」
ちなみに、これは俺でなく風来のセリフ。
思い返してみれば、俺よりあいつの方が倍くらい盛り上がっていた。
よほど楽しかったんだろうなぁ……それにしても、歌下手だったなぁ……。
カラオケから出てきた俺たちは、酒屋から出てくる酔っ払いのようなテンションになっていた。というか、体力が無さ過ぎてヘロヘロだった。
「山本くん、それじゃあまた明日! 一緒に頑張ってこーね!」
「おう! 俺にできることならなんでもするし、いつでも相談しろよな!」
電車の路線が別なので、駅の改札に入ってすぐ俺たちは別れた。
ふぅ――と一息をつく。
するとほとんど同じタイミングで、バッグの中からスマホの着信音が聞こえてきた。
電話なんてあまりする機会がないので、少し驚きながらも確認すると、ソフィアの名前が入っていた。そういえば、連絡先の交換は済ませておいたのだっけ。
「はい、もしもし」
『遅れるなら一言伝えるようにしてくださいね、以上』
それだけで電話は切れた。ブツリ――というその音が、死刑宣告のように感じられた。
俺は何かを悟り、駅のホームの天井を見上げる。
「友達慣れしてない弊害がこれかよ……」
あの人、怒ったりするのかな。わからないけれど、怒ったら怖いってのは確かだろうな……。




