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第9話 魔獣

「ぎゃあああああッ!!!」


悲鳴で目が覚めた。


「っ!?」


つめは飛び起きる。

まだ夜だった。


焚き火の火が揺れている。

でも空気がおかしい。


張り詰めていた。


「起きて!」


ガルドが短剣を抜きながら叫ぶ。


「魔獣よ!」


「えっ」


その瞬間。

藪の奥で、何かが動いた。


どすん。

重い音。


次の瞬間、巨大な影が飛び出してくる。


「うわっ!?」


狼。


……いや、狼にしてはデカすぎた。

馬くらいある。

目が赤い。

牙もおかしい。


「なにあれ!?」


「だから魔獣!」


ガルドが前へ出る。

ルカが弓を構え、ミリが詠唱を始める。


つめだけ何もできない。


(いや無理無理無理!!)


狼型魔獣が唸る。

低い。

怖い。

完全に「人を食う側」の生き物だった。


「つめ、下がって!」


「言われなくても!!」


つめは慌てて後ろへ下がる。


その時。


ばきっ!!

別方向の茂みが弾けた。


「えっ」


もう一体いた。


「っ、まず――」


ガルドの声。


遅い。


魔獣がつめへ飛びかかる。


「きゃっ!!」


押し倒される。

重い。

息が詰まる。

牙が近い。


「やだっ、無理!!」


つめは必死に腕で押し返す。


臭い。

熱い。

怖い。


魔獣の爪が衣装を裂いた。

びりっ、と布が破ける。


「っ……!」


さらに。

ぐいっ。


「え?」


頭が引っ張られた。

次の瞬間。


ずるっ。

金髪が外れた。


「……あ」


宙を舞うウィッグ。

黒いショートヘアが露わになる。

一瞬だけ、周囲の動きが止まった。


「つめ!?」


ガルドが目を見開く。

でも今はそんな場合じゃない。


魔獣が牙を剥く。

つめは反射的に近くの石を掴んだ。


「このっ!!」


がんっ!!

石を頭に叩きつける。

当然ほぼ効かない。


「うそでしょ!?」


泣きそうになる。


その時。

魔獣の視線が、地面へ向いた。

落ちた金髪ウィッグ。

それを獲物みたいに噛みちぎる。


「……」


びりびりに裂ける金髪。

つめは一瞬、動けなかった。


お気に入りだった。

高かったし。

手入れもしてた。

イベント前、鏡の前で何回も調整した。


なのに。

ぐしゃぐしゃになっていく。


「……っ」


妙にショックだった。

その隙に。


「伏せて!」


ガルドが飛び込んでくる。

短剣が閃く。

魔獣の首から血が吹き出した。


悲鳴。

暴れる。

つめの横を転がっていく。


「ルカ!」


「了解!」


矢が飛ぶ。

ミリの火球が炸裂する。


数分後。


ようやく静かになった。


「……はぁ、はぁ……」


つめは地面へ座り込む。

震えが止まらない。


怖かった。

本当に死ぬかと思った。


ガルドが息を整えながら近づいてくる。


「怪我は?」


「……だいじょぶ」


声が掠れる。

ガルドはしゃがみ込み、つめの顔を見る。

そして少し目を細めた。


「黒髪だったんだ」


「……悪い?」


「別に」


ガルドは普通に答えた。


「金髪より似合うかもね」


「……」


つめは少し黙る。

なんか。

予想していた反応と違った。


もっと、「なんで隠してたの?」 とか、「偽物だったのか」とか言われると思っていた。


「……変じゃない?」


「何が?」


「黒髪」


「普通よ」


「……」


普通。

その言葉が、少しだけ引っかかった。

つめは破れた衣装を見る。

裂けた布。泥。血。


そして。

ぐしゃぐしゃになった金髪ウィッグ。

もう使えない。


「……終わった」


「そこまで?」


「高かったのに……」


つめは本気で落ち込んだ。

ガルドが吹き出す。


「そこなんだ」


「そこだよ!」


ルカまで笑っていた。

ミリもくすくすしている。

つめはむっとする。


でも。

なぜか少しだけ、空気が軽かった。

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