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第10話 北の村

翌朝。


「いたた……」


つめは身体を起こした瞬間、顔をしかめた。

全身痛い。

特に腕。

昨日、魔獣に押さえつけられた場所が紫になっていた。


「生きてる……」


「残念だったね」


ガルドが焚き火を片付けながら言う。


「もっと心配して?」


「したでしょ昨日」


つめはむっとする。

でも昨日、本当に助けられたのは事実だった。

あのままだったら普通に死んでいた。

異世界、命が軽い。


怖い。


「……食べる?」


ミリが小さな木皿を差し出してきた。

干した果物だった。


「あ、ありがと」


つめは受け取る。

ミリはこくっと頷くだけ。

相変わらず喋り方が小さい。

でも嫌な感じではなかった。


「黒髪、意外だったなぁ」


ルカが笑いながら言う。


「……まだ言う?」


「いや、ずっと金髪だと思ってたから」


「私もそう思ってた」


ガルドも頷く。


「でもそっちの方が自然よ」


「……」


また言われた。

自然。

普通。

つめは少し複雑な顔になる。


昔から、「普通っぽい」と言われるのは好きじゃなかった。

だからコスプレしてた部分もある。

目立ちたかった。

綺麗になりたかった。


“別の何か”になりたかった。

なのに。


「……別に普通でいいじゃない」


ガルドが薪を袋へしまいながら言う。


「普通って一番難しいんだよ」


「なんか年寄りくさい」


「失礼ね」


つめは少し笑った。


昼前。


一行はようやく北の村へ到着した。


「うわ……」


つめは思わず声を漏らす。


村はボロボロだった。

柵が壊れている。

畑も荒れている。

家の壁には爪痕。


「結構ひどいね……」


「思ったより被害出てるな」


ルカが眉をひそめる。

すると村人達が駆け寄ってきた。


「冒険者様!」


「来てくださったか!」


「助かった……!」


すごい歓迎だった。

つめは少し驚く。


(あ、こういう感じなんだ)


異世界っぽい。

なんかRPGみたい。

でも。


「……そちらの娘さんは?」


一人の村人がつめを見る。


視線。

ボロボロの衣装。裂けた袖。ボサボサの黒髪。疲れた顔。


そして。


「ずいぶん変わった格好だな……」


来た。

つめはちょっと顔をしかめる。


「趣味なので」


「しゅみ?」


「好きで着てるってこと」


「あ、ああ……」


微妙な空気になった。

ガルドが横で苦笑する。


「この子、ちょっと変わってるのよ」


「余計な紹介しないで」


その時。

村の奥から、子供達が顔を出した。


「あっ」


「冒険者さんだ」


「変な服のお姉ちゃんもいるー!」


「服ボロボロだけどきらきらしてる!」


「貴族?」


「違うけど」


子供達がわっと集まってくる。

つめは少しびっくりした。

大人達みたいな、値踏みする視線じゃない。

ただ、「珍しいものを見た」って顔だった。


「お姉ちゃんも冒険者?」


「……まあ一応」


「魔法使える!?」


「使えない」


「よわい!」


「うるさい」


子供達が笑う。

つめは少しだけ口元を緩めた。

なんか照れる。


その時。


「きゃっ!」


小さな女の子が転びそうになる。

つめは反射的に支えた。


「危な」


「えへへ……」


女の子が笑う。

つめは少し目を細めた。

子供は嫌いじゃなかった。

空気読まないから。


「……優しい」


ミリがぼそっと言う。


「え?」


「子供には」


「……」


つめは言葉に詰まる。


「別に普通じゃない?」


「大人にはすぐ怒るのに」


「うるさい」


ガルドが吹き出した。


「否定しないのね」


つめはそっぽを向く。

でも。

村の子供達に囲まれている時間は、少しだけ心地よかった。

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