第11話 因習?
「村長呼んでくる!」
子供の一人が走っていく。
つめはその背中をぼんやり見送った。
「元気ねぇ……」
「子供はあんなものよ」
ガルドが肩を回しながら言う。
村の中に入っていく。
さっきとは打って変わり空気は思ったより重かった。
大人達の顔が暗い。
笑っている人がほとんどいない。
家も古い。
どこか湿っぽい。
「なんかこの村、暗くない?」
つめが小声で言うと、ルカが頷いた。
「かなり疲弊してる感じだね」
「魔獣のせい?」
「それもあると思う」
ミリは無言で周囲を見ていた。
その視線を追って、つめも気づく。
女の人が少ない。
いや、いる。
でも。
全員、妙に静かだった。
「……?」
その時だった。
家の前で、小さな女の子が転ぶ。
荷物が散らばった。
「あっ……!」
慌てて拾おうとする。
でも。
「何をしている!!」
怒鳴り声。
年老いた男が杖を鳴らしながら近づいてきた。
女の子がびくっと震える。
「す、すみません……!」
「謝る前に頭を下げろ!」
つめの眉がぴくっと動いた。
なんだこいつ。
老人はさらに怒鳴る。
「女が道の真ん中で騒ぐな!」
「……っ」
女の子が泣きそうになる。
周囲の大人達は見て見ぬふりだった。
つめはその空気に妙な既視感を覚える。
(あー……)
これ。
“そういう空気”だ。
誰も逆らわないやつ。
「……ねえ」
つめが口を開く。
ガルドが横目で見る。
「やめときなさい」
「でも」
「でもじゃない」
低い声だった。
珍しく本気で止めている。
でも。
つめは、あの女の子の顔を見てしまった。
泣くのを我慢している顔。
昔の自分とは別に似てない。
でも。
なんか嫌だった。
「荷物落としただけじゃん」
空気が止まった。
老人がゆっくりこちらを見る。
「……なんだ貴様」
「だから、そんな怒鳴るほどのこと?」
村人達がざわつく。
ガルドが頭を押さえた。
「あーもう……」
ルカは苦笑い。
ミリは静かに目を逸らした。
老人が杖を鳴らす。
「余所者が口を出すな」
「いや普通に怖いんだけど」
「これは村の規律だ」
「規律ぅ?」
つめは思わず鼻で笑った。
「ただ偉そうに怒鳴ってるだけじゃん」
「つめ」
ガルドの声が低くなる。
でももう遅い。
老人の顔が真っ赤になった。
「無礼者が!!」
「うわ声でか」
「女は慎ましくあるべきだ!」
「それで村良くなってる?」
沈黙。
村人達の顔が強張る。
つめは続けた。
「魔獣来てる時点で全然上手くいってないじゃん」
「貴様ァ!!」
老人が杖を振り上げる。
つめは反射的に身構えた。
その瞬間。
がしっ。
ガルドが杖を掴んだ。
「その辺にしなさい」
笑ってない。
村人達が息を呑む。
「依頼受けて来てるのよ、私達」
ガルドの声は静かだった。
「揉める気はない。でも仲間に手を出すなら別」
老人は悔しそうに歯を噛み締める。
しばらく睨み合い。
やがて舌打ちした。
「……穢れた外様共め」
そう吐き捨てて去っていく。
空気が重い。
つめは小さく息を吐いた。
「……なにあれ」
「だから止めたのよ」
ガルドが疲れた顔で言う。
「でもムカつかない?」
「ムカつくけど」
「でしょ?」
「でも、正しいこと言えば全部解決するわけじゃないの」
つめは少し黙る。
正しいこと。
昔から、それを言った時ほど揉めた気がする。
でも。
「……嫌なものは嫌だし」
「知ってる」
ガルドはため息をついた。
その時。
さっきの女の子が、小さく頭を下げた。
「……ありがとう」
聞こえるか聞こえないかくらいの声だった。
つめは少し目を丸くする。
それから。
「別に」
ちょっと照れ臭そうにそっぽを向いた。




