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第12話 夜の祠

村長の家は、村の中心にあった。

古い木造。

やたら広い。


「どうぞどうぞ!」


村長はさっきの老人とは違い、妙に愛想が良かった。

痩せた男だ。

笑顔なのに目が笑っていない。

つめはちょっと苦手だった。


「冒険者様方が来てくださって本当に助かります」


「被害状況を確認したいんだけど」


ガルドが真面目な顔で言う。

村長はすぐ頷いた。


「はいはい、もちろん」


机に地図を広げる。


「魔獣は主に北の森から現れます。夜になると家畜を襲いまして……」


話は普通だった。


でも。

つめは妙な違和感を覚える。


なんか。

みんな、変に静かだ。


村人達が。

特に女の人。

家の隅で座ってるだけ。

誰も口を挟まない。


「……」


つめはちらっと視線を向ける。

目が合った瞬間、女の人はすぐ俯いた。


(なにこれ)


居心地が悪い。

空気が重い。

SNSで炎上した後のオフ会みたいだった。

全員、「余計なこと言うな」って顔をしている。


「それと……」


村長が少し声を落とした。


「夜はあまり出歩かれないよう」


「魔獣が出るから?」


ルカが聞く。

村長は一瞬だけ言葉を止める。


「……ええ、まあ、それもあります」


歯切れが悪い。

つめは少し眉をひそめた。


「他にもあるの?」


「いえいえ。ただ、北の祠には近づかぬよう」


「祠?」


 村長は曖昧に笑う。


「昔からの決まりでして」


「またそれ?」


つめが小さく呟く。

ガルドが横から軽く肘を入れた。


「痛っ」


「黙ってなさい」


村長は気づかないふりをして続ける。


「特に夜は、決して」


「なんか出るの?」


「……村の者は、近づきません」


答えになっていない。

つめは余計に気になった。


夜。


一行は村外れの空き家を借りることになった。


「古……」


つめは埃っぽい部屋を見回した。


「屋根あるだけマシよ」


ガルドは慣れた様子で荷物を置く。

ルカは窓を確認していた。

ミリは黙って床を掃いている。


「……食べる?」


干し肉を差し出される。


「ありがと」


つめは受け取った。


硬い。


でも昨日よりマシだった。


「で、どう思う?」


ガルドが聞く。


「なにが」


「村」


つめは少し考える。


「……嫌な感じ」


「まあね」


「なんか全員ビクビクしてない?」


ルカが頷く。


「閉鎖的なんだろうね」


「女の人全然喋らないし」


「気づいた?」


ガルドは腕を組んだ。


「昔ながらの価値観が強い村なんでしょ」


「昔ながらで済ませていいやつ?」


「よくはないね」


「じゃあ――」


「つめ」


ガルドが遮る。


「分かってると思うけど、私達は救世主じゃない」


「……」


「依頼は魔獣退治。それ以上は余計なこと」


正論だった。

つめは少し黙る。


でも。

あの空気は嫌だった。


思い出す。

何か言えば、「空気悪くするな」って言われる感じ。

嫌なものを嫌と言う方が悪者になる空気。


(……ムカつく)


その時。


こんこん。

窓が鳴った。


「?」


全員が振り向く。


窓の外。

小さな影。

昼間の女の子だった。


「……あ」


つめが窓を開ける。

女の子はおずおずと袋を差し出した。


「お、お母さんが……」


中には焼いた芋が入っていた。


「余ったから、って……」


「えっ」


つめは少し驚く。


「くれるの?」


女の子は小さく頷く。


「……ありがとう」


女の子はほっとした顔をした。


でも次の瞬間。

びくっと肩を震わせる。


後ろ。

暗闇の中に、誰か立っていた。


男だ。

顔は見えない。


ただ、じっとこちらを見ている。

つめはぞわっとした。


「……誰あれ」


女の子は怯えた顔で首を振る。


「帰らなきゃ……!」


そのまま走っていってしまった。


沈黙。


つめは窓の外を見る。

男の姿はもう消えていた。


「……なにあれ」


ルカが眉をひそめる。


「監視されてる感じだったね」


「気味悪……」


ガルドは少し考え込む顔をしていた。


その時。

ミリがぽつりと言った。


「……祠」


「え?」


「さっき、村長が言ってた」


ミリは視線を窓へ向ける。


「……夜、近づくな」


つめは少し目を細めた。


「……絶対なんかあるじゃん」


ガルドが即答する。


「行かないよ」


「まだ何も言ってないけど?」


「顔に書いてあるの」


つめは口を尖らせた。


でも。

気になってしまった。


そういう“触れるな”って空気。


昔から、言われるほど見たくなるタイプだった。

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