第13話 祠
深夜。
つめは目を開けた。
「……」
静かだった。
隣ではガルド達が寝ている。
寝息。
炉の火の残り香。
古い木の軋む音。
でも。
つめは眠れなかった。
(気になる……)
祠。
“近づくな”。
“昔からの決まり”。
そう言われると見たくなる。
悪い癖だとは思う。
でも。
昔からそうだった。
「……ちょっとだけ」
つめはそっと立ち上がった。
外は暗かった。
月明かりだけ。
村は静まり返っている。
「こわ……」
普通に怖い。
でも戻るのも悔しい。
つめは昼間聞いた方向へ歩き始めた。
北。
森の方。
風が冷たい。
木々がざわざわ鳴っている。
その時。
かすかに声が聞こえた。
「……え?」
誰かいる。
つめは咄嗟に物陰へ隠れた。
村人達だった。
数人。
ランタンを持っている。
その中心には――
女の子。
昼間の子だった。
「……は?」
つめは眉をひそめる。
女の子は俯いたまま歩いている。
周囲の大人達は無言。
空気が重い。
嫌な感じ。
つめは息を潜めながら後を追った。
森を少し進むと、古い石造りの祠が見えてきた。
小さい。
でも異様だった。
縄。札。黒ずんだ跡。
なんか嫌。
本能的に嫌な場所。
村人達が祠の前で止まる。
老人が前へ出た。
昼間、怒鳴っていたあの男だ。
「今年も捧げねばならん」
低い声。
女の子が震える。
つめは意味が分からなかった。
(……捧げる?)
老人は続ける。
「穢れを祓わねば、村は滅ぶ」
周囲の村人達も頷いている。
つめの背筋が冷えた。
(え、なにこれ)
まさか。
本当に?
「この娘を祠へ入れろ」
女の子がびくっと震える。
「い、いや……!」
「静かにしろ」
老人が腕を掴む。
女の子が泣き始めた。
でも。
誰も止めない。
母親らしき女ですら、俯いているだけだった。
「……っ」
つめの中で、なにかが切れた。
「ちょっと待ちなさいよ!!」
全員が振り向く。
沈黙。
「……また貴様か」
老人が顔を歪める。
つめは祠の前へ出た。
「なにしてんの?」
「儀式だ」
「見れば分かるわ!!」
つめは女の子を見た。
泣いてる。
完全に嫌がってる。
「嫌がってるじゃん!」
「村のためだ」
「だから何!?」
老人が杖を鳴らす。
「外様は黙っていろ!」
「黙れないから言ってんの!」
空気が荒れる。
村人達がざわつく。
でもつめは止まらない。
「子供泣かせてまでやること!?」
「必要な犠牲だ!」
「それを子供に押し付けてる時点で終わってるでしょ!!」
老人が怒鳴る。
「この儀式のおかげで村は守られてきた!」
「魔獣来てる時点で守れてないじゃん!!」
一瞬。
空気が止まった。
村人達の顔が変わる。
言ってはいけないことを言われた顔。
でもつめは止まれなかった。
「意味ないならやめれば!?」
「黙れぇッ!!」
老人が杖を振り上げる。
その瞬間。
ぎぃ……
祠の扉が、勝手に開いた。
全員が凍りつく。
冷たい風。
暗闇。
そして。
奥から、低いうなり声が聞こえた。
「……え?」
つめの顔から血の気が引く。
次の瞬間。
赤い目が、闇の中で光った。




