第75話 模倣する声
朝。
フィオナが、契約妖精を見ていた。
肩の近くに浮かぶ小さな妖精。
昨日までの、光って浮かぶだけのモノではない。
ルルフェを小さくしたような姿に見えた。
いつもなら、何でもないものとして扱っていた。
仲良しの妖精。
寂しい時の話し相手。
トモダチ。
昨日までは、そうだった。
フィオナは指先を少しだけ上げた。
契約妖精が、ぴくりと揺れる。
「……何よ」
言ったあとで、フィオナは目を逸らした。
自分の声が少し硬かった。
「何よ!」
契約妖精は楽しそうに笑う。
ただ、側にいる。
昨日までと同じように。
昨日までとは違うものとして。
「図書館に行くわ」
食堂で、フィオナはそう言った。
つめがパンを齧りながら顔を上げる。
「図書館?」
「妖精契約について、少し調べたいの」
「昨日の続き?」
フィオナは一拍置いた。
「ええ」
それだけだった。
詳しくは言わない。
言えないのかもしれない。
シエルはその沈黙を見て、すぐに頷いた。
「私も行きます。古い資料なら古語も読めますので」
「助かるわ」
「ヤマナギの図書館なら、種族間契約の記録も残っているはずです」
ユイガが真面目な顔で言った。
「案内します」
フィオナは少しだけ笑う。
「お願いするわ」
つめは三人を見た。
フィオナ。
シエル。
ユイガ。
昨日の夜から、フィオナの空気は少し変わった。
いつもの強さはある。
けれど、その奥に何かが揺れていた。
つめは聞かなかった。
昨日の妖精。
この世のモノとは思えない姿。
“まだ今の貴女達は人間だから”
聞けば答えてくれるだろう。
でも。
今のフィオナは。
答えたくないことまで答えそうだった。
だから聞かない。
「分かった。そっちは任せる」
「ええ」
フィオナは立ち上がる。
その肩の近くで、契約妖精が揺れた。
フィオナはそれを横目で見る。
「行くわよ」
契約妖精が少しだけ動きを止めた。
フィオナは小さく息を吐く。
「貴女のことを調べに行くのだから」
契約妖精が、光を瞬かせた。
シエルは少しだけ目を細める。
ユイガは何か言いかけて、やめた。
つめも何も言わなかった。
人が人ではないものに近づいていく音がした気がした。
でも。
それはフィオナだけの話ではない。
そんな気がした。
「私も、少しやることがあります」
カガリが言ったのは、そのすぐ後だった。
いつも通りの声だった。
低くもない。
高くもない。
怒ってもいない。
焦ってもいない。
ただ、必要なことだけを伝える声。
「教団関係?」
つめが聞く。
カガリは頷いた。
「はい。申し訳ありませんが、今日は案内ができません」
「一人で行く感じ?」
「はい」
短い。
レインがカガリを見る。
カガリはその視線に気付いている。
気付いているけれど、反応しない。
「危なくないか?変な噂を聞いたぞ」
リオンが言った。
「教団は危なくありません」
「断言するんだな」
「危険視される理由がありません」
「嘘じゃないんだよな?」
「ヤマナギなので」
リオンが少し嫌そうな顔をした。
つめはカガリを見る。
「戻ってくる?」
「はい」
「嘘じゃない?」
カガリは少しだけ首を傾げる。
「戻るつもりです」
つもり。
その言葉を、つめは聞き逃さなかった。
でも。
止めなかった。
今止めても、カガリはたぶん何も話さない。
無理に聞けば、決裂する可能性がある。
カガリはそういう顔をしていた。
「分かった」
つめは言った。
「気を付けて」
「はい」
カガリは一礼して、宿を出た。
その背中は小さい。
けれど、真っ直ぐだった。
真っ直ぐすぎて。
危うい。
レインが立ち上がった。
「ちょっと出てくる」
つめが見る。
「どこに?」
「散歩」
「嘘下手」
「ヤマナギだから」
「便利に使うな」
レインは答えなかった。
ただ、扉の方へ歩く。
つめは止めなかった。
レインが何をするかは分かる。
カガリを追うのだ。
つめが行けば目立つ。
リオンが行けば騒がしい。
レインが一番いい。
「いってくる」
短く答えて、レインは出ていった。
その返事が本当に聞いている時の返事か。
聞いていない時の返事か。
つめには分からなかった。
◇
祭り二日目の街は、昨日より熱を持っていた。
でも。
人が多い。
多すぎる。
屋台。
旗。
楽団。
踊り子。
商人。
学生。
観光客。
冒険者。
全部が混ざっている。
声が重なる。
匂いが重なる。
感情が重なる。
つめは眉を寄せた。
「人、多すぎ」
「大祭だからね」
ツヅリが軽く言う。
リオンが横から言った。
「まじで人多すぎ。俺も図書館班に入ればよかった」
「リオンが図書館?」
つめが見る。
「何その顔」
「静かにできる?」
「できるし」
「何分?」
「三分」
リオンは胸を張った。
つめは無視した。
今日は三人で動いていた。
目的は教団の現状確認。
昨日までに見えたもの。
カガリの揺れ。
教団の動き。
全部が繋がっている。
繋がりすぎている。
偶然にしては、出来すぎている。
「なぁ」
リオンが声を落とした。
「聞こえるか?」
つめは足を止めた。
広場の方から声がする。
「サクラ様がまた来るらしいぞ」
「昨日見た人?」
「すごく綺麗だったって」
「祈ってもらった人、泣いてたらしい」
「優しかったってさ」
「サクラ様は人の心を開いてくださるんだって」
足が止まった。
サクラ様。
その名前だけで、止まった。
綺麗。
優しい。
祈る。
救う。
知らない言葉だった。
少なくとも。
私に向けられた言葉ではない。
笑えばよかった。
違うだろ、と言えればよかった。
馬鹿じゃないの、と吐き捨てればよかった。
でも。
喉の奥が冷えた。
私じゃないものが。
私の名前で。
人に感謝されている。
気持ち悪い。
それしか出てこなかった。
「綺麗で、優しいサクラ様ねえ」
リオンが呟く。
つめは笑わなかった。
冗談にできない。
怒りではない。
怒りなら、まだ楽だった。
名前だけが、身体を持って歩いている。
中身のない服が、誰かに手を振っている。
自分ではないものが、自分として感謝されている。
喉の奥が、さらに冷える。
「行く?」
ツヅリが聞いた。
顔はいつものままだった。
けれど声だけが少し違う。
舞台を読む声だった。
つめは頷いた。
「行く」
◇
レイン視点――
レインは、人混みの中でカガリを追っていた。
カガリは足が速い。
急いでいるようには見えない。
迷いがない。
角を曲がる。
狭い道に入る。
人の少ない場所を選ぶ。
慣れている。
ヤマナギの道を知っている動きだった。
レインは距離を保つ。
近すぎない。
遠すぎない。
カガリは気付いているかもしれない。
それでも振り返らない。
やがて、祭りの音が少し遠くなった。
裏通り。
人通りが少ない。
動物すらいない。
祭りの喧騒も遠い。
そこに、教団の者らしき男がいた。
カガリが立ち止まる。
「準備は」
「問題ありません」
男が答える。
「他に問題は?」
「サクラ様の祈祷がやや盛り上がり過ぎているようです」
「開花装置の誤作動は?」
「ないはずです。安全装置も付いているので」
カガリの表情は変わらない。
ほんの少しだけ空気が硬くなった。
「決行は」
「祭りの終盤、十種族会議の場に呼ばれているようです」
それを伝えた後、男は背を向けて歩きだした。
「カガリ様も人目につかないように」
「分かっています」
分かっていない。
レインはそう思った。
こういう言葉を使う人間は、だいたい分かっていない。
その時だった。
「そこで何してんの」
声がした。
レインは振り向く。
黒い髪の少女が立っていた。
年は、つめより若い。
服装は目立たない。
信徒の服ではない。
立ち方が、どこか似ていた。
肩の力の抜き方。
顎の上げ方。
面倒くさそうな目。
レインは一瞬、息を止めた。
見覚えがある。
そう思った。
「盗み聞きするのは良くない、と思う」
少女が言う。
声も少し荒い。
言葉の置き方も似ている。
カノのようだった。
「誰?」
レインが聞く。
少女は鼻で笑った。
「先に名乗るのが礼儀、じゃない?」
その言い方。
その間。
その目。
似ている。
けど違う。
レインはすぐに分かった。
カノは、そういう時。
もっと雑に言う。
言葉を選ばない。
この少女は違う。
言葉を選んでいる。
間を測っている。
怒り方を覚えている。
借り物だ。
「カノ、いや、つめに似てる」
レインは言った。
少女の目が、わずかに揺れた。
「へえ」
「でも違う」
空気が止まった。
少女の顔から表情が消える。
「何が?」
「つめは、そんなふうに話さない」
沈黙。
少女だけが、レインを見ている。
目の奥が暗い。
「つめ」
少女が呟いた。
「あなた、そう呼ぶんだ」
レインは答えない。
「近いんだ」
声が低くなる。
「近いところにいるんだ」
空気が変わった。
殺気だった。
細く。
冷たく。
真っ直ぐに、レインの喉元へ向く。
レインは動かなかった。
身体の奥が先に反応した。
息が熱を持つ。
胸の奥で、何かが開く。
血が鳴った。
竜の息吹。
その言葉が浮かぶ前に。
レインの視界が、金色に染まった。
少女が一歩止まる。
レインは自分の変化に気付いていなかった。
ただ、少女を見ていた。
濃密な殺気を向けられたから。
身体が勝手に反応していた。
空気が重い。
路地の影が揺れる。
足元の砂が震える。
少女の髪が、熱を受けたようにわずかに浮く。
「……竜」
少女が小さく言った。
その声で、レインは瞬きをした。
金色が少し薄れる。
少女は笑った。
笑っていた。
けれど。
目は笑っていない。
「そっか」
少女は言う。
「あなたも、人間じゃないんだ」
◇
広場には、人が集まっていた。
中央には簡素な舞台がある。
白い布。
花飾り。
祈りの鐘。
つめはそれを見た瞬間、顔をしかめた。
「サクラ様人気だな」
リオンが軽く言う。
「……気持ち悪い」
吐き捨てる様に言ってつめは舞台を見る。
教団の信徒が数人。
祈りの準備をしている。
その中に、噂になっていた「サクラ様」はいない。
それでも人は集まっていた。
待っている。
サクラ様を。
「嫌な気分」
つめは呟いた。
リオンが横を見る。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃないけど、大丈夫」
「どっちだよ」
つめは返事をしなかった。
胸の奥がざわつく。
サクラ。
その名前が嫌いだったわけではない。
好きでもない。
大事でもない。
忘れたい時もあった。
でも。
勝手に飾られるのは違う。
勝手に綺麗にされるのも違う。
勝手に祈られて。
勝手に救いにされて。
勝手に誰かのものになる。
それは違う。
サクラは、そんな綺麗なものではなかった。
もっと失敗して。
もっと怒って。
もっと燃えて。
どうしようもなく、人間だった。
「始まる」
ツヅリが言った。
信徒が鐘を鳴らす。
澄んだ音が広場に広がった。
綺麗な音だった。
「サクラ様の祈祷です」
舞台に綺麗な銀髪の女性が上がった。
見られるために生まれてきたような女性。
「こんにちは、サクラです」
声も透明感があり、良く通った。
でも。
なぜか肌が粟立った。
サクラ様と呼ばれた女性が祈る。
「皆様の思いが届きますように。
皆様と私を繋ぐ祝福を。
サクラの元に信仰を、心の解放を」
その時。
黒い靄が静かにつめとリオンを覆った。
どくん。
違う。
これは祈りじゃない。
これは信仰じゃない。
押されている。
皆の感情が。
後ろから。
見えない手で。
「ああ」
女が泣いた。
「サクラ様」
男が膝をついた。
「救ってください」
違う。
違う。
違う。
私は救ってない。
私は祈ってない。
私は、ここにいない。
なのに。
私の名前で、人が壊れ始めていた。
「なんか魔道具の臭いがする」
リオンが言った。
「出力は、……低いな」
つめは周囲を見る。
まだ暴走というほどではない。
けれど、広場の熱が上がっている。
誰かが隣の人を抱きしめる。
誰かがその手を振り払う。
別の誰かが怒鳴る。
好意。
不安。
信仰。
恐怖。
全部が少しずつ強くなる。
少しずつ。
それが一番危ない。
「止める」
つめが動いた。
人混みを割って進む。
リオンも横に出る。
すると人が倒れてくる。
リオンは泣き崩れた女を支えた。
次の瞬間、男が舞台へ駆け寄ろうとする。
「サクラ様!」
咄嗟につめが腕を掴む。
男の目は焦点が合っていない。
「もっと祝福をくれ!」
「落ち着け!」
男が暴れる。
つめは舌打ちした。
力で押さえれば怪我をする。
放せば舞台に突っ込む。
面倒くさい。
黒い靄が胸の奥でざわついた。
「リオン!」
「こっちも無理だ!」
リオンは泣き崩れた女性と、怒鳴る男の間に入っていた。
教団の信徒たちは、止めていない。
むしろ見ている。
つめはそれに気付いた。
観察している。
本番前の反応を。
「最悪」
つめが吐き捨てる。
その時。
音が消えた。
いや。
消えていない。
でも。
そう思った。
ツヅリが舞台の前に立っていた。
いつの間にか。
背筋が伸びている。
顎がわずかに下がっている。
表情がない。
笑っていない。
怒っていない。
困っていない。
能面みたいな顔だった。
ツヅリで。
ツヅリじゃない。
神様。
いや、神様のふり。
でも。
嘘じゃない。
その矛盾が、ヤマナギでは成立していた。
翼人族の代表。
劇団の人気女優。
神を模倣する者。
その全部が、そこに立っていた。
ツヅリは手を上げない。
叫ばない。
説明しない。
ただ、口を開いた。
「静まれ」
ピシッ――
空気が止まる。
声は大きくなかった。
なのに届いた。
広場の端まで。
人の奥まで。
熱を持った感情の底まで。
泣き声が止まる。
怒鳴り声が途切れる。
男の腕から力が抜けた。
子どもが息を吸う。
商人が自分の手を見る。
一瞬。
本当に一瞬だけ。
広場全体が、静かになった。
つめはツヅリを見た。
演じている。
分かる。
分かるのに。
嘘には見えなかった。
ツヅリの顔は動かない。
神様の顔だった。
いや。
神様の顔をした、人間の顔だった。
◇
レイン視点――
レインの前で、少女は笑っていた。
「人間じゃない」
その言葉は、レインに向けられていた。
けれど。
レインだけに向けられたものではない気がした。
フィオナも。
シエルも。
リオンも。
ツヅリも。
ユイガも。
カガリも。
つめの周りにいる者たち全部へ。
少女は一歩下がる。
殺気は消えていない。
今は引いているだけだ。
レインは息を整える。
胸の奥がまだ熱い。
目の奥に金色の残り火がある。
「君は誰」
レインが聞いた。
少女は答えない。
少しだけ首を傾げる。
その仕草も似ていた。
カノに。
つめに。
違う。
似せているだけだ。
少女は言った。
「鷹乃つめ」
レインは息を飲んだ。
「今はまだ、違うけど」
少女は笑う。
「まだ、私だから」
意味が分からない。
変な言葉だった。
「じゃあね」
そう言って、少女は路地の奥へ消えた。
追うべきだった。
しかし、レインは動けなかった。
残ったのは、熱の残る空気だけ。
遠くで祭りの音が聞こえる。
レインは胸に手を当てた。
心臓が、いつもより強く鳴っていた。
◇
広場の騒動は、完全には収まらなかった。
それでも、大きな暴走にはならなかった。
泣いていた者は連れ出される。
怒鳴っていた者は座り込む。
舞台へ向かおうとした者は、周囲に支えられる。
教団の信徒たちは、いつの間にか何人か消えていた。
「逃げたな」
リオンが言った。
「逃げたね」
リオンは舞台を見る。
魔道具の痕跡はもうなかった。
「魔道具は持ってかれたな」
つめが聞く。
「どこにあったかわかる?」
「怪しいのは首飾りか。いや……」
リオンはぶつぶつ呟いていた。
技術屋の血が疼くらしい。
ツヅリはまだ舞台の前に立っていた。
表情は戻っていない。
つめは少し近付く。
「ツヅリ」
返事がない。
「ツヅリ」
もう一度呼ぶ。
ようやく、ツヅリが瞬きをした。
表情が戻る。
いつもの軽い顔に。
少し遅れて。
「うん」
「大丈夫?」
「演技だから」
ツヅリは笑った。
笑い方が少し薄い。
「場を止めただけだし」
ツヅリは広場を見る。
「けど、一度上がった温度は、完全には戻らない」
つめは黙る。
広場の人々は、まだ落ち着かない顔をしていた。
泣いた理由が分からない者。
怒鳴ったことを恥じる者。
祈り続ける者。
何かを失くしたような顔をする者。
小さな暴走。
でも。
これが大きくなれば。
「教団はどこかでこれをやる気だ」
リオンが言った。
つめは頷いた。
「だろうね」
サクラ様。
開花。
感情。
魂。
全部が繋がる。
胸の奥で、また黒い靄が揺れる。
つめは奥歯を噛んだ。
「分かってる」
小さく言う。
誰にも聞こえない声で。
◇
???視点――
少女は、人のいない場所まで歩いていた。
足音が軽い。
胸の中は重かった。
レイン。
あの男は、見抜いた。
カノではないと。
つめではないと。
見ただけで。
ほんの少し話しただけで。
違うと言った。
カノは、そんなふうに話さない。
その言葉が、耳の奥に残っている。
違う。
違わない。
違うはずがない。
私は見てきた。
覚えてきた。
真似てきた。
歩き方。
声。
目つき。
言葉。
怒り方。
笑い方。
全部。
全部、つめさんのために。
足りないと言われた。
まだ。
まだ足りない。
セナは壁に手をつく。
爪が石を擦る。
つめさんの周りには、人間がいない。
竜人。
妖精。
森人。
小人。
翼人。
海人。
みんな違う。
みんな、つめさんのそばにいるのに。
誰も本当の人間のつめさんを知らない。
カノなんて呼んで。
隣に立って。
分かったような顔をして。
違う。
違う。
違う。
つめさんは人間だ。
痛くて。
怒って。
失敗して。
口が悪くて。
それでも人を見捨てられない。
綺麗なサクラ様なんかじゃない。
教団が作ったものなんかじゃない。
あんな偽物を、つめさんなら許さない。
野放しにしない。
だったら。
セナは顔を上げる。
目の奥に、熱が灯る。
私がやる。
つめさんの周りにいる誰にも分からないなら。
人間のつめさんを分かるのが、私だけなら。
私が止める。
私が壊す。
私が、あの偽物を殺す。
そして。
セナは笑った。
カノのように。
つめのように。
まだ少しだけ違う笑い方で。
「私が」
声が震える。
嬉しさではない。
恐怖でもない。
名前のない何かが、喉の奥から出てくる。
「私が、鷹乃つめになる」




