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第7話 偽物の耳

「北の村で魔獣被害!」


受付嬢の声で、ギルドが一気に慌ただしくなる。


冒険者達が立ち上がり、武器を掴み、怒鳴り合いながら外へ向かっていく。

つめはその流れをぽかんと見ていた。


「……本当に行くんだ」


「仕事だからね」


ガルドが短剣を腰に差しながら言う。


「魔獣って危なくない?」


「危ないよ」


「そんな軽く言う!?」


「冒険者だもん」


ガルドは当然みたいに肩をすくめた。

その横でルカが地図を広げている。


「北の農村地帯か。最近増えてるな」


「……報酬高い?」


ミリが聞く。


「高くはないね。緊急依頼だから最低保証は出るけど」


つめはその会話を聞きながら思った。


(普通に仕事なんだな……)


ゲームみたいに見えていたけど、実際はもっと生々しい。


危険手当込みの肉体労働。

フリーランス傭兵。

夢がちょっと削られる。


「で、つめはどうするの?」


「え?」


ガルドがこちらを見る。


「雑務係でも現地同行くらいはできるよ」


「いやいや無理でしょ」


「荷物持ちくらいできるでしょ?」


「……」


嫌だった。

絶対疲れる。

怖いし。


でも。

ここで「行きません」って言うのもなんか負けた感じがする。


つめはちらっと周囲を見た。

冒険者達は忙しそうに準備している。

誰も自分を特別扱いしない。

それが少しだけ悔しかった。


「……行く」


「本当に?」


「できるし、そのくらい」


「へぇ」


ガルドが少し笑う。

その顔がなんか気に入らなかった。


出発前。


つめはギルド裏の水場で顔を洗っていた。


「はぁ……」


水が冷たい。

その時、耳に違和感が走る。


「……あ」


半分だけになったエルフ耳。


エルフ国で慌てて付け直したせいで、変な方向に曲がったまま固まっている。

しかも微妙に短い。

よく見るとかなり変だ。


「うわ最悪……」


つめは触ってみた。


ぺたぺた。


接着剤が雑に固まっている。


「取ろうかな……」


でも。

今さら外すのも嫌だった。

なんか負けた気がする。

あと普通に顔面バランスが不安。

コスプレって、パーツ一個でかなり変わるし。


「……」


つめは鏡代わりの水面を見る。


金髪。 疲れた顔。 いびつな耳。

なんか。

中途半端だった。


「変なの……」


自分で言って少し傷つく。

その時。


「やっぱ偽物だったんだな」


「っ!?」


後ろから声。


振り返ると、昼間の筋肉男達がいた。

最悪。


「……なに」


「いやぁ、近くで見たら随分ひでぇ耳だなと思ってよ」


「……」


「半分折れてんじゃねぇか」


男達が笑う。

つめは反射的に耳を隠した。

腹が立つ。

でも同時に、ちょっと恥ずかしい。


「別に関係ないでしょ」


「エルフの真似事して楽しいか?」


「……は?」


「そんな出来損ない付けてまで目立ちたいのかよ」


ぴく、とつめの眉が動く。

その言い方。

なんか妙に刺さった。


「……うるさい」


「ん?」


「別に、好きでやってるだけだし」


「好きなら何してもいいって?」


「そうだけど?」


即答だった。

男達が少し引く。

でもつめは止まらない。


「誰にも迷惑かけてないし」


「いや紛らわしいって話――」


「勝手に勘違いしてるのそっちじゃん!」


声が大きくなる。

周囲の視線が集まる。

でも止まれない。


「好きな格好して何が悪いの!?」


一瞬、静かになった。

その時だった。


ぺり。


「……え?」


耳が取れた。

完全に。

接着剤ごと。

ぽとり、と地面へ落ちる。


沈黙。


筋肉男達が吹き出した。


「ぶはっ!!」


「取れたぞおい!!」


「だっせぇ!!」


周囲からも笑い声が漏れる。

つめの顔が熱くなる。


「っ……!」


拾おうとした瞬間。


ぐしゃ。


「あ」


男のブーツが耳を踏んだ。

潰れる。

接着剤が石畳に広がった。


「……あーあ」


男が笑う。


「悪ぃ悪ぃ」


全然悪いと思ってない顔だった。

つめは固まる。

怒り。

恥ずかしさ。

惨めさ。

全部ごちゃ混ぜになる。


「……最低」


「は?」


「最低って言ったの!」


つめは男を突き飛ばした。

もちろんびくともしない。

逆に腕を掴まれる。


「調子乗んなよ嬢ちゃん」


「痛っ……!」


その瞬間。

ばんっ!!


「やめなさい」


ガルドだった。

低い声。


男達が舌打ちする。


「なんだよ」


「緊急依頼前に問題起こす気?」


「そっちの女が――」


「どっちでもいいよ」


ガルドは男の手を払った。


「ギルド前で揉め事は禁止。違反金払う?」


「……ちっ」


男達はつまらなそうに離れていく。


「覚えとけよ」


「そっちこそ」


つめは睨み返した。

でも声が少し震えていた。


男達が去る。

静かになる。


ガルドは地面の耳を見る。

ぺちゃんこだった。


「……変だなとは思ってたけど」


「……」


「新しいの作れば?」


「簡単に言わないでよ……」


つめはしゃがみ込んだ。


なんか。

急にすごく疲れた。

ガルドは少し黙ってから言う。


「でも、なくても別に変じゃないよ」


「慰め?」


「事実」


「……」


「むしろ、その変な耳の方が目立ってたし」


「それはそう」


つめは小さく笑ってしまった。

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