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『異世界でも、また私だけが叩かれるらしい』  作者: シェイプシフター
第六章 魔導学園・無許可聖具編
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第60話 お答えできかねます。

崩壊した闘技場は、

一週間経っても封鎖されたままだった。


王立リスティア魔導学園。


中心部だけが、

巨大な傷跡みたいに抉れている。


でも。


正式発表は、

たった一文だけだった。


“無許可聖具事件による事故”


護符による影響も。

黒い光も。

ノクトの異変も。


全部、

隠された。


「絶対あの編入生だろ」


廊下。

小声。


「大会の日からずっと変だったじゃん」


「闘技場消し飛ばしたってマジ?」


「先生達まで黙ってんの怖くね?」


ざわめき。

視線。


Eクラスの編入生。

カノという少女は、

事件以来、一度も教室へ来ていなかった。



医務棟。


白い部屋。

薬品の匂い。


窓際のベッドへ、

ミレイが座っていた。


ぼんやり外を見ている。


ノック。


返事はない。


つめは静かに扉を開けた。


ミレイが振り返る。

少しだけ首を傾げた。


「……誰?」


その言葉に、

つめの胸が少し軋む。


でも。

つめは笑った。


「……編入生」


「変な答え」


「よく言われる」


少しだけ沈黙。


ミレイの胸元には、

まだ包帯が巻かれていた。


魔術回路は焼損。


もう魔法は使えない。


そして。

記憶障害。


人の顔も。

名前も。

ほとんど残っていなかった。


つめが視線を落とした時。


ミレイが、

ふとつめの髪を見る。


「ねえ」


「ん?」


「赤茶地毛?」


呼吸が止まる。


ミレイは、

何気ない顔のまま続けた。


「その色、ちょっと傷んでるけど可愛い」


沈黙。


昔。

初めて会った時。


全く同じ事を言われた。


つめが、

ゆっくり口元を押さえる。


笑ったのか。

泣きそうなのか。


自分でも分からなかった。


ミレイが首を傾げる。


「……変だった?」


つめは目を逸らした。


「いや」


小さく笑う。


「最悪なくらい、そのまま」



生徒会室。


重い空気が漂っている。


リオンが机へ突っ伏した。


「結局なんだったんだよアレ……」


フィオナは腕を組み、

シエルは資料を読んでいる。


レインだけが、

ソファへ寝転がっていた。


クロードが口を開く。


「ノクト教授の研究室から大量の血痕が見つかった」


空気が静まる。


シエルが続けた。


「量から見て致命傷です。


 恐らく頸部切断級」


リオンの顔が引きつる。


「は?」


「ですが遺体はありません」


沈黙。


シエルは資料を閉じた。


「その直後から、


 護符暴走反応が急激に増加しています」


フィオナが眉を寄せる。


「つまり、何者かに殺害された後」


シエルが低く言う。


「護符と融合した可能性があります」


リオンが嫌そうな顔をした。


「きっしょ……」


クロードが静かに言った。


「少なくとも、我々が見たあれは、既に人間ではなかった」


誰も否定しなかった。


つめだけが、黙ったまま窓の外を見ていた。


黒い影が、足元でゆらゆら揺れている。


まるで。

話を聞いているみたいに。


その時。

シエルが、静かに資料を閉じる。


「……一つ、確認したい事があります」


クロードが視線を向けた。


「サクラ護符の流通経路です」


シエルは続ける。


「露店の目撃証言が残っています。


 まだ痕跡が残っている可能性がある」


少し沈黙。


それから。


「カノ、怪我をしている所申し訳ないのですが」


シエルが、つめを見る。


「一緒に来てもらえませんか」


つめは壁へ寄りかかったまま、かなり嫌そうな顔をした。


「……行く」


リオンが顔をしかめる。


「いやお前まだ重傷だろ」


「魔力で無理やり塞いでた」


全員の視線が止まる。


つめは面倒そうに続けた。


「まだ痛いけど」


黒い影が、つめの腕へ絡みつく。


傷口を撫でるみたいに、ゆっくり蠢いた。


シエルが、僅かに目を細める。


「無茶苦茶ですね……」


レインだけが、ぼんやり呟いた。


「まあカノだし」


つめは小さく舌打ちした。


「で。場所どこ」


立ち上がる。


その瞬間。


床へ伸びた影が、一瞬だけエルフ耳みたいに揺れた。


つめは舌打ちする。


「……くそ」


夕方。


学園都市外れ。


古びた露店。

風鈴だけが揺れている。


店番をしていたのは、

茶髪を後ろで結んだ男だった。


妙に軽い笑みを浮かべている。


「あー、サクラ護符?」


男が肩を竦める。


「作ってた人ならもういないよ」


シエルが目を細める。


「どこへ?」


「知らない」


あっさりした声。


でも。

笑顔だけが、

妙に薄気味悪い。


「でもまあ」


男が笑う。


「また会えるんじゃない?」


レインだけが、

店の奥を見る。


「……あっち」


裏口。

倉庫。


古い木箱。

その奥。


床へ刻まれた紋章。

炎みたいな線の中央から、黒い腕が伸びている。

そして中央には、歪んだ耳の意匠。


リオンの顔が歪んだ。


「うわ……これ」


シエルの顔色が変わる。


「旧焔耳教の紋章です……!」


空気が張り詰める。


かつて各地で暴動と集団焼身を引き起こし、禁教指定された危険宗教。


感情の熱狂を“開花”と呼び、 群衆の暴走を救済としていた集団。


フィオナが木箱を開ける。


中には、やや新しい手記。

書き込まれたページ。

滲んだ文字で、何度も同じ言葉が書かれていた。


“我等サクラ教団”


“旧焔耳教の悲願達成の為、世界を創成する”


“感情は最も純粋な魔力である”


“群衆”


“熱狂”


“崩壊”


“炎上”


リオンが顔をしかめる。


「炎上ってなんだよ……」


シエルが、最後のページを開く。


そこには、

たった一文。


“次の開花は千種族大祭にて”


空気が止まった。


フィオナが、 静かに目を細める。


「千種族大祭……」


リオンが顔をしかめる。


「いや待て。こんな分かりやすく残すか普通?」


シエルも静かに頷く。


「確かに不自然です」


沈黙。


その時。


レインが、ぼんやり手記を見たまま呟いた。


「……わざとだね」


「は?」


「これ」


ページを軽く叩く。


「気付いてほしいんだ」


レインの瞳だけが冷たい。


「多分。誰かが、追ってくるのを待ってる」


空気が冷えた。


フィオナが言う。


「千種族大祭は、


 海を越えた島国で行われる祭りなの。


 そこには各国要人。


 王族。


 亜人国家代表。


 全てが集まってくるから」


シエルが静かに続ける。


「更に大祭には不文律があります。


 “何人たりとも姿を偽る事なかれ”」


リオンが顔をしかめる。


「変装禁止?」


「はい。


 幻術。


 擬態。


 仮面。


 全て禁忌です」


レインが少しだけ目を閉じる。


「多分。


 向こう、次は国ごと燃やす気だよ」


沈黙。


つめは、小さく舌打ちした。


「……ほんと趣味悪い」


その時。


風が吹く。

少し懐かしい匂いがした。


ふと倉庫の外を見る。


雑踏の中。


一瞬だけ。

黒髪ショートの少女の後ろ姿が見えた。


昔の自分みたいな、視線から逃げなれた歩き方だった。


その瞬間。

黒い影が、僅かにざわつく。


つめが目を細める。


でも。

次の瞬間には、

もう人混みへ消えていた。



一週間後。


会議室。

クロードが静かに告げる。


「王立リスティア魔導学園は、千種族大祭へ代表団を派遣する」


皆が息を飲んだ。


「目的はサクラ教団の調査。及び各国との情報共有」


その瞬間。


「行く」


即答だった。


会議室が静まる。

入口。


つめが立っていた。

今までに無い程ギラギラしていた。


「あいつらまた人をだしに好き勝手やる」


窓の外を見る。


「今度はもっと人がいる場所で」


シエルが静かに問う。


「……復讐ですか?」


少し沈黙。


つめはかなり嫌そうな顔をした。


「半分」


「残り半分は?」


つめは視線を落とす。


白い病室。


包帯。


『……誰?』


脳裏に浮かぶ。


つめは小さく舌打ちした。


「ムカつくから」


それだけだった。


沈黙。


足元の黒い影が、嬉しそうに揺れた。


クロードは静かに頷く。


「ならば同行しろ」


「こちらも奴らを追う」


フィオナが腕を組む。


「同行者は?」


「フィオナ。シエル。リオン」


クロードが続ける。


「私は学園へ残る。再発対策と防衛維持だ」


その時。

ソファへ寝転がっていたレインが、

ゆっくり身体を起こした。


「俺も行く」


リオンが顔をしかめる。


「お前めんどくさがってたじゃねえか」


レインは少し考えて。

それから。


「放っとくと危ないから」


リオンが吹き出した。


フィオナが呆れた顔をする。


海の向こう。

未知の島国。

千種族大祭。


次の“炎上”が、

静かに待っていた。


その足元で。


黒い影だけが、嬉しそうに揺れていた。



6章完結です。

外伝を挟んで、7章『千種族大祭編』に進みます。※休みが取れるまで更新が止まります。

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