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『異世界でも、また私だけが叩かれるらしい』  作者: シェイプシフター
第六章 魔導学園・無許可聖具編
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第57話 ミレイ・ロゼ

炎が、空を覆っていた。


赤い靄。

崩れた観客席。

倒れた生徒。


その中心で。

ミレイだけが笑っていた。


「そっか」


少しだけ。

寂しそうに。


「私じゃ、駄目なんだ」


つめが息を呑む。

ミレイは涙を流しながら笑った。


「だから」


白熱した光が膨れ上がる。


「カノを殺さなきゃ」


ぞわり、と。


周囲の赤い靄が、一斉に反応した。

暴走生徒達が、一斉につめを見る。


シエルが顔色を変える。


「まずい!!」


赤い靄が奔流になる。

ミレイが手を伸ばした。


「瞬いて、忘れられないくらい」


閃光。

白熱。

会場が揺れる。


クロードが前へ出る。

魔力を込めた剣閃。

白熱した光を断ち切る。


「シエル!!」


「了解!!」


光の拘束術。

赤い靄へ突き刺さる。


でも。


ぶわっ、と。


膨れ上がった魔力が、

無理やり術式を押し潰した。


「なっ……!?」


シエルの顔が変わる。

その瞬間。


暴走生徒達が一斉に動いた。


「みて」


「みてもっとみて」


「忘れないで置いてかないで一人にしないで」


赤い靄を撒き散らしながら、クロード達へ殺到する。


「っ、邪魔を――!!」


リオンが腰の魔道具を叩く。


次の瞬間。

地面から鈍い音。


――どごんっ!!


暴走生徒達の足元へ、

金属杭みたいな魔力柱が連続射出された。


衝撃。

床が隆起する。


数人がまとめて吹き飛んだ。


でも。

すぐ次が来る。


フィオナが炎槍を展開。


「カノから離れなさい!!」


炎槍が暴走生徒達へ突き刺さる。


でも。

どくり、と。

赤い靄が脈打った瞬間、

膨れ上がった魔力が炎槍を押し潰した。


「っ……!?」


炎が弾け飛ぶ。


シエルが舌打ちする。


「共鳴して守り合っている……!」


つまり。

ミレイを止めようとするほど、他の暴走生徒が邪魔をする。


結果。

誰も。

つめへ近づけなかった。


赤い靄の中心。

ミレイと、つめだけが残される。


ミレイが笑う。

泣きながら。


「ほら」


黒い靄が揺れる。


「やっと二人きり」


次の瞬間。

魔法陣。

赤い靄も空中へ広がる。


「――もっと輝いて」


光槍。

一直線。


白熱した閃光が、

つめへ向かって撃ち出された。


つめが咄嗟に黒風を放つ。


轟音。

光が弾ける。


観客席がどよめいた。


「黒だ……!」


「またあの力……!」


でも。

つめは観客を見ない。

ミレイだけを見ている。


「やっと、私とも戦ってくれる」


ミレイが笑った。


また詠唱。

今度は三重。


「迸れ。裂けろ。全部、消しちゃえ」


高熱の光弾がレーザーのように降り注ぐ。

つめが魔法をぶつける。


黒風。

相殺。


激しい光が明滅する。

会場が揺れた。


でも。

ミレイは止まらない。


「いいよね」


閃光。


「アンタは!!」


白熱。


「怖がってるだけで!!」


光線。


つめの横を掠める。


「勝手に皆アンタ見るじゃん!!」


赤い靄が膨れ上がる。

つめは避ける。


でも。

視線は逸らさない。


ミレイの顔が歪む。


「せっかく!!」


また閃光。


「才能あるって言われて!!」


轟音。


「この学園まで来たのに!!」


白熱した光が、 崩れた観客席まで飲み込む。


「来てみたら!!」


声が割れる。


「上には化け物ばっかで!!」


光柱。


「私は!!」


赤い靄が脈打つ。


「カスみたいな才能で!!」


光槍。


「問題児クラスで!!」


つめは黒風で防ぐ。

ずっとミレイだけを見ている。


「……なんで」


ミレイの目が揺れる。


「なんで戦わないの」


また閃光。

つめは避ける。


でも。

大きく距離を取らない。


「なんで見てるの」


赤い靄が不安定に脈打つ。

つめは小さく息を吐いた。


「だって」


光線が迫る。


熱い。

制服が焼ける。


でも。

目を離さない。


「ミレイが」


声が掠れる。


「見てほしいんでしょ」


ミレイの身体が止まる。

赤い靄が揺らぐ。


「っ……!」


でも。

次の瞬間。


光が爆ぜた。


「見るな!!」


絶叫。

つめが弾き飛ばされる。


床を転がる。

フィオナが叫ぶ。


「カノ!!」


でも。

つめはすぐ顔を上げた。

ミレイを見る。


「そんな風に見ないで……!!」


ミレイの方が、怯えた顔をしていた。

赤い靄が揺れる。


「分かったみたいな顔しないで!!」


閃光。

爆発。

つめの制服が焼ける。


それでも。

つめは前へ出た。


「分かんないよ」


静かに。

つめが言う。

ミレイの光が止まる。


「私も」


少し俯く。


「見られるの、怖いし」


黒い靄が、ゆらりと揺れる。


「期待されるのも嫌。勝手に好きな事言われるのも嫌い」


ミレイが震える。


つめは止まらない。


「でも」


少しだけ。

声が掠れる。


「ミレイが消える方が嫌だ」


静寂。


赤い靄が、少しずつ薄くなる。

ミレイの肩が震えた。


「……ずるい」


泣きながら笑う。


「なんで。そんな事、今言うの」


つめは答えられない。


ミレイは、ゆっくりとつめを見る。

初めて。

ちゃんと。


「……カノ」


赤い靄が崩れていく。


「私」


涙が落ちる。


「ずっと、羨ましかった」


ぽつり、と。


「皆、アンタ見るから。


 私も頑張った。


 詠唱も真似した。


 いっぱい笑ったし。


 明るくしたし。


 頑張ったのに」


声が震える。


「誰も」


赤い靄が、さらに薄くなる。


「私を見てくれなかった」


つめが息を呑む。

違う。

見てた。


でも。

“クラスメイト”としてだった。


ミレイ自身じゃなく。


その瞬間。

つめは初めて、ミレイをちゃんと見た。


ミレイが。少しだけ笑う。


「……今」


小さな声。


「ちゃんと、私見えてる?」


つめが頷こうとした。




その瞬間だった。



――ずるり。



空気が歪む。



全員が上を見る。

観客席最上段。


つめだけは。

ずっと、視線を感じていた。


禍々しい程の赤い靄。

その中心。

ローブ姿の男。


ノクト教授。

赤い靄を纏いながら、恍惚した顔で見下ろしていた。


「ああ」


嬉しそうに笑う。


「惜しいな、実に惜しい」


シエルが目を見開く。


「ノクト教授……!?」


ノクトはミレイを見る。

研究対象を見る目だった。


「未完成のまま崩壊するには勿体ない」


その声で。

空気が凍った。

次の瞬間。


――すっ。


姿が消える。


「……っ!?」


シエルが目を見開く。


転移じゃない。

素早いわけでもない。

あまり自然すぎて。

誰も反応できなかった。


赤い靄だけが、

尾を引くみたいに空中へ残る。


そして。

気付いた時には。

ノクトは、

ミレイのすぐ隣へ降り立っていた。


音がない。

まるで。

最初からそこにいたみたいに。


ミレイが、

ゆっくり振り返る。


「……ぇ」


ノクトは、

優しく観察するみたいにミレイを見る。

壊れた玩具を見る目だった。


「素晴らしい」


赤い靄が、

嬉しそうにノクトへ集まっていく。


「感情と執念だけで、ここまで融合するとは」


つめの背筋が冷える。


違う。

コイツ。

最初から。

ミレイ自身を見ていない。


ノクトが、

静かにミレイへ手を伸ばす。


「完成に至ろう」


その瞬間。

ミレイの胸元が赤く光った。


「――え?」


どくん、と。


肉じゃない。

内臓でもない。

胸の奥。

魔力そのものが脈打つ場所。


そこへ、赤い線みたいなものが浮かび上がる。


シエルの顔色が変わった。


「魔力臓器……!?」


ノクトが手を伸ばす。

赤い靄が、無理やりミレイの胸へ潜り込んだ。


「ぁ――」


ミレイの表情が凍る。

次の瞬間。


ぶちぶちぶちっ――!!


赤い光。

神経みたいな魔力線。


それが、胸の奥から無理やり引きずり出された。


絶叫。


「――――ぁぁああああああッ!!!!」


会場が凍る。


血じゃない。

魔力。

赤い光の液体。


それが飛び散る。


ミレイの身体が痙攣した。


目の焦点が揺れる。

シエルが青ざめる。


「無理矢理剥がしてる……!?」


「そんな事をすれば、脳と身体の接続が――!」


でも。

ノクトは笑っていた。


「なるほど。そこへ定着するのか」


研究者の目だった。

ミレイの胸から。


赤黒い臓器みたいなものが、ずるり、と引きずり出される。


周囲の赤い靄が、全部そこへ吸い込まれていく。


暴走生徒達が、一斉に倒れた。

ミレイが、声にならない呼吸を漏らす。


「ぁ……っ」


つめの中で、何かが切れた。


「……ふざけんな」


黒い靄が、ぶわっ、と噴き出した。

空気が変わる。


ノクトが初めて、つめを見る。


その目が。

初めて少しだけ、愉しそうに細まった。

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