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『異世界でも、また私だけが叩かれるらしい』  作者: シェイプシフター
第六章 魔導学園・無許可聖具編
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第55話 崩壊の足音

『――大会運営よりお知らせします!!』


魔導拡声器が学園中へ響いた。


闘技場前。

ざわついていた生徒達が、一瞬だけ静まる。


実況の声は妙に明るい。


『護符事件、および昨日の魔物出現を受け、トーナメントの再編成が決定しました!!』


観客席がどよめく。


『現在勝ち残っている選手は、実力の近い者同士で再配置します!』


『なお、カノ選手はシエル・アークライト選手との模擬戦を考慮し、一戦シードとなります!』


「シード!?」


「マジかよ!」


「でも昨日アレやった後だぞ?」


「今日は観れないのか」


つめは露骨に嫌そうな顔をした。


「……パンダじゃん」


「ん?」


「なんでもない」


少し離れた場所。

包帯が取れたリオンが、モニターを見上げる。


「実況なんか明るいな」


フィオナがため息をついた。


「大会潰したくないんでしょ」


実況は止まらない。


『そして次戦は――!!』


一拍。


『Eクラス!! ミレイ・ロゼ選手!!』


歓声。


『対するは!! Dクラス、ダグ・バレル選手!!』


さらにざわめく。


「ダグかよ」


「アイツ普通に強いぞ」


「Bクラス食えるかもって言われてたやつじゃん」


ダグ・バレル。


Dクラス。平民上位。


荒っぽい戦い方で有名な男だ。


本来なら。

Bクラス上位との試合が予定されていた。


そのダグ本人が笑った。


短髪。

吊った目。

いかにも喧嘩慣れした空気。


「ラッキーだわ」


肩を回す。


「本来Bクラス相手だったし」


「Eなら楽勝だろ」


つめは少し眉を寄せる。


――ピクニックですか〜?


模擬戦見学の日。

笑いながら煽ってきた男。


その後。

レインに叩き潰された。


リオンの眉がぴくりと動く。


「学習しねーなアイツ」


フィオナも露骨に顔をしかめる。


でも。

ミレイだけは笑っていた。


「へー」


「面白いじゃん」


その瞬間。

つめの背筋が冷えた。


笑い方。

少しだけ。

昨日と違う。


ガルムが低く呟く。


「……そいつ、もう違う」


空気が止まる。

リオンが振り返る。


「は?」


ガルムはミレイから目を逸らさない。


「匂いが違う」


「なんか、もう人じゃねぇ感じする」


リオンは笑った。


「なんだそれ。昨日から変だぞお前。

 もう護符は禁止だろ?」


でも。

つめは何も言えなかった。


分かる。

昨日までと違う。


ミレイの周囲。

何かが渦巻いている。


フィオナと視線が合う。


一瞬。


互いに。

同じ違和感を感じているのが分かった。


『両選手、入場してください!!』


歓声が響く。


期待。

好奇心。

ざわめき。


全部。

ミレイへ向いている。


背中が、ぞわりとした。


喜んでいる。

つめの中の“何か”が。



大会会場。

観客席は、昨日以上に埋まっていた。


皆。

試合を見に来ている。


……だけじゃない。


何か起きる事を期待している。


その空気を。

つめは理解してしまった。


ダグが笑いながら前へ出る。


「昨日の黒いの、お前は出せねーの?」


観客席が笑う。

ミレイも笑った。


「どうかなー」


開始。

同時。


ダグが踏み込む。


土魔法。

発動から加速。

速い。


でも。

ミレイは笑ったままだった。


「――燃えなさい」


詠唱。

炎が爆ぜる。


ダグが咄嗟に防御する。

轟音。

観客席がざわついた。


「詠唱!?」


「護符は禁止されたはずだよな!?」


「もしかして青炎来るのか?」


でも。

放たれた炎は派手なだけだった。


強い。


だが。

前の青炎や黒腕ほどじゃない。

観客席の熱が、一瞬だけ落ちる。


「……あれ?」


「思ったより普通」


「昨日の方がヤバかったな」


その瞬間。

つめの顔が変わる。


ミレイの周囲に赤い靄が広がる。

そして、少し揺れた。


失望。

期待外れ。

ざわめき。

今は全てミレイへ流れている。


ミレイは笑った。


「えー?」


「わざわざ詠唱までしてあげてるんですけどー?」


炎が揺れる。


「それでも勝てない感じ?」


ダグの顔が歪む。


「っ、ナメてんのか!!」


土槍が撃ち出される。

速い。


でも。

ミレイは避けながら笑っていた。


近距離での高速回避。

昨日までより明らかに強い。


「焦がせ!息吹け!そして瞬け!」


炎。

風。

光。

連続展開。


しかも。

近接戦まで普通に強い。


ダグが徐々に押され始める。


「お、おい……!」


観客席がざわつく。


「ミレイこんな強かったか?」


「普通にD上位押してね?」


ミレイが笑う。


「ほら。もっと頑張ってよ」


炎が爆ぜる。

ダグが吹き飛ぶ。

壁へ叩きつけられた。


悲鳴。


でも。

誰も目を逸らさない。


むしろ。

前へ乗り出している。


もっと。

何か起きる。

皆そう思っている。


ダグが血を吐きながら立ち上がる。


「調子、乗んなよ……Eがァ!!」


全魔力展開。


土壁。

土槍。

連続射出。


会場が揺れる。


その瞬間。

ミレイの笑顔が変わった。


「じゃあ」


赤い靄。

更に濃く纏う。


「もっと見せてあげる」


つめの顔から血の気が引く。


違う。

エルトと同じだ。


でも。

もっと危ない。

ミレイが両手を広げる。


「――全域を、焦がしなさい」


また詠唱。

観客席が沸く。


「来るぞ!」


「ばかでかいやつ!」


期待。

恐怖。

嫉妬。

全部が向く。


その瞬間。

赤い靄が膨れ上がった。


炎が巨大化し、熱波となる。

ダグの顔から血の気が引いた。


「お、おい待っ――」


轟音。

爆風。

会場が揺れる。


悲鳴。

歓声。

全部が混ざる。


ミレイは炎の中心で笑っていた。


「みて」


小さく。


でも。

はっきりそう言った。


その瞬間。

別会場から爆音が響いた。


全員が振り返る。


悲鳴。

怒号。

赤い靄。


別の競技場。

さらに遠く。

また爆発。


教師の顔色が変わる。


「まさか……!」


つめの背筋が凍る。


護符。

核。

共鳴。

今の学園は。


負の感情だらけだ。


怒り。

嫉妬。

恐怖。

嫌悪。

途切れることなく渦巻いている。


ミレイが笑う。


瞳の奥を。

赤く揺らしながら。


「ねぇもっと見てよ」

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