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『異世界でも、また私だけが叩かれるらしい』  作者: シェイプシフター
第六章 魔導学園・無許可聖具編
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第53話 核と心

模擬戦闘室を出ても、ざわめきは消えていなかった。


「なんだよあれ……」


「シエル先輩押されてたよな?」


「やっぱ護符じゃねぇの?」


「でも違うって……」


視線。

好奇心。

恐怖。

まだ、つめへ向いている。


つめは俯いたまま歩いていた。

背中が気持ち悪い。


まだ。

何かがいる感じがする。

フィオナが隣を見る。


「……顔やばいわよ、大丈夫?」


「だいじょばない」


即答だった。

声が死んでいる。

リオンが顔をしかめる。


「いや普通に怖ぇだろあの腕」


つめは少し黙る。


「……わかんない」


少し間。


「でも」


喉が詰まる。


「なんか。

 嫌な感じは、ずっとしてた」


黒腕。

黒風。

黒炎。

思い出すだけで寒気がした。


その時。

後ろから声。


「少し、いいですか」


シエルだった。

クロードもいる。

周囲の空気が少し張る。


フィオナが露骨に嫌そうな顔をした。


「もうカノの疑いは晴れたんでしょ?」


「護符型ではない」


クロードは淡々としていた。


「だが、危険性が消えた訳でもない」


つめが少し眉を寄せる。


「……まあ、そう」


否定できない。

自分でも怖かった。

シエルは少しだけ、つめを見る。


その視線は。

さっきまでの分析とは少し違った。


「あなた」


「自分を理解した方がいい」


つめが嫌そうな顔をする。


「嫌だよ」


即答だった。

シエルが少し止まる。

つめは視線を逸らしたまま続けた。


「なんか……」


「理解したら終わる気する」


空気が少し静まる。

シエルは、少しだけ目を伏せた。

理解してしまえば。

戻れなくなる。

そういう顔だった。


クロードが口を開く。


「少なくとも、生徒会は今後もお前を監視する」


「大会中も、今後もずっとだ」


「……うわぁ」


つめは露骨に嫌そうな声を出した。


「保護観察みたいだな」


リオンは笑う。


でも。

クロードは真面目だった。


「笑い事じゃない」


「今日のアレは、明確に危険だ」


その時だった。


「でもさ」


ミレイが笑う。


「結局、カノは護符じゃなかったんでしょ?」


少しだけ。

空気が軽くなる。

ミレイはいつも通りだった。


明るい。

軽い。

いつも通り。


でも。

ガルムだけが黙っていた。

じっと。

ミレイを見ている。


その時。

ミレイが振り返った。


「ん?」


笑顔。


だが。

ガルムは動かなかった。

空気が重い。

違う。


魔力。

圧みたいなものが、妙に濃い。

護符持ちとは違う。


もっと。

生っぽい。

ガルムの本能が警鐘を鳴らす。


危ない。

だが。

何が危ないのか分からない。


ミレイは笑ったまま。

少し首を傾げる。


「どうしたの?」


ガルムが口を開きかける。


しかし。

言葉が出なかった。


ミレイの瞳。

ほんの少しだけ。

黒く揺れた気がした。



夜。


学園の外れ。

人気のない塔。

ノクトは静かに資料を眺めていた。


黒い核。

観測反応。

感情増幅。

全てが求めていた答えに近づいている。


「素晴らしい」


小さく笑う。


「あれが観測の力とは」


その時だった。


背後。

空気が揺れた。


音がない。

気配も薄い。


だが。

刃だけが、突然ノクトの首へ伸びる。


速い。

ローブ姿の女――


ノクトの首が飛ぶ。

血が舞った。


静寂。


女は感情のない目で見下ろしていた。


ノクトは、人から観測されない人生だった。

期待も。

悪意も。

敵意も。

向けられる事が少なすぎた。


だから。

自分へ向けられる感情に鈍い。


カノを観察し。

核を欲し。

無意識に踏み躙っていた事にも。


女の静かな怒りにも。

最後まで気付けなかった。


ローブ姿の女は静かに立ち去った。


床へ転がった首が。

笑う。


「……なるほど」


ぐちゃり。


その時、落ちていた護符から黒い核が剥がれ落ちた。

まるで。

自らを喰らえと言うように。


首のない胴体が飲み込んだ。

空気が変わる。


ぞわり、と。


塔全体が震える。

ノクトの身体がゆっくり立ち上がった。


首が再生していく。

黒い靄が脈動する。


ノクトは、自分の手を見る。


心臓が速い。

熱い。

ぞくぞくする。


遠く。


学園のざわめきが聞こえる。


嫉妬。

悪意。

嘲笑。

失望。

今、学園中にはびこっている負の感情。


それが。

流れ込んでくる。


ノクトは目を見開いた。


「ああ」


喉が震える。


「これが」


「観測されるという事か」


気持ちよかった。


悪意が。

嫉妬が。

嘲笑が。

身体に流れ込んでくる。


それだけで。

身体の奥が熱くなる。


今まで。

理解していたつもりだった。

研究していたつもりだった。


でも違う。

浴びる側は。

こんなにも。

甘い。


ノクトは恍惚と笑う。


「やはり」


「完成に近いのは、彼女だな」

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