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『異世界でも、また私だけが叩かれるらしい』  作者: シェイプシフター
第六章 魔導学園・無許可聖具編
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第50話 反転

歓声は、まだ消えていなかった。


怒号。

ざわめき。

熱気。

全部が、まだ闘技場へ残っている。


『Eクラス!!』


『またやったァァ!!』


実況まで興奮していた。


観客席。

皆、まだ立っている。


「今の魔法なんだ!?」


「炎が青かったぞ……!」


「今年のEやばくね!?」


空気が変わっていた。


最底辺。

落ちこぼれ。

そう呼ばれていたEクラスは。


今。

“何か起こす側”として見られていた。


控室へ戻る。


扉を閉めても。

歓声は外から聞こえてきた。


『Eクラス!!』


『もう一回見せろ!!』


観客席。

まだ誰も冷めていない。


ミレイが笑う。


「やば。スターじゃん」


つめは嫌そうな顔をする。


「やめて」


でも。

声が少し掠れていた。


フィオナが、つめを見る。

少し黙ってから。


「……何よ、あれ」


つめは目を逸らした。


「わかんない」


本当に分からなかった。

あんな魔法。

知らない。

青い炎なんて見たことない。


出力も。

途中から完全におかしかった。


ミレイが笑ったまま言う。


「でも勝ったじゃん」


つめは少し黙る。

それから。


「……途中からヤケだった」


「は?」


「なんか」


うまく説明できない。


でも。

皆が見て。

空気が変わって。


“逆転するならこうだろ”って。

そんな感じだった。


フィオナが少し眉を寄せる。


「意味分からないわよ」


「私も分かんない」


その時だった。


部屋の隅。

黙っていたガルムが、低く呟く。


「……嫌な匂いがする」


皆がそっちを見る。

ガルムは窓の外を見ていた。


歓声。

ざわめき。

熱狂。

全部。

まだ渦巻いている。


ガルムが眉をしかめる。


「なんか」


「腹減った魔物の巣みてぇだ」


空気が少し静まる。


つめだけ。

その言葉に妙に納得してしまった。


『次戦準備!!』


実況が叫ぶ。


『次のEクラスは――エルト・シェーファー!!』


歓声。

期待。

野次。


全部がエルトへ向いた。

エルトの肩が小さく震える。


「……私」


制服の内側へ触れる。

護符。

熱い。


勝たないと。

期待に応えないと。


今日まで。

誰もEなんて見ていなかった。


でも今は違う。

皆が、つめが空気を変えてしまった。


試合開始。


エルトは、前へ出る。


魔法陣。

火球。


でも。

小さい。


相手生徒が普通に打ち消す。


歓声が、少し弱くなる。


「あれ?」


「普通じゃね?」


「さっきのやつみたいなの期待したんだけど」


エルトの指先が震えた。


また魔法。

風。


でも浅い。

避けられる。


相手側の生徒まで余裕が出始める。


「気負っちゃってる?」


笑いながら言う。


「まあ、前がアレだったら大変だよな」


観客席から笑いが漏れた。


エルトは、唇を噛む。

違う。


頑張ってる。

ちゃんと頑張ってるのに。


「……風よ、射貫け」


エルトの詠唱に観客が沸く。


「お、詠唱か?」


「でもなんか違うなー」


視線が痛い。

期待外れを見る目。

つめみたいなのを求めてる。


けれど。

自分は違う。


護符が熱を持つ。


「……っ」


息が苦しい。


「風よ……拒め」


相手の魔法が飛ぶ。

防ぐ。


けれど。

押される。


また笑い声。


「やっぱハズレか」


「カノすごかったな」


その瞬間。

エルトの胸の奥で、何かが崩れた。

置いていかれる。


また。


皆。

つめを見る。

自分は見られない。


嫌だ。


「……みて」


小さな声。


観客席は気づかない。

エルトが魔法を放つ。


必要以上に光る。

無駄に広がる。

観客席がざわつく。


「なんか派手になったな……」


でも。

誰も目を逸らさなかった。


むしろ。

前へ乗り出している。

もっと何か起きる。

皆、そう思っている。


「みて」


エルトが笑う。

涙を流しながら。


「みて」


また魔法。

今度は大きい。


でも。

制御がおかしい。

エルトが、ふらつきながら口を開く。


「――燃えろ」


空気がざわつく。


つめが顔を上げた。

違う。

あれ。


“真似してる”。


エルトの詠唱が続く。


「灰となっても、まだ……見て」


言葉が噛み合っていない。

つぎはぎ。


でも。

無理やり力だけ膨れ上がっていく。


「飢えよ」


「渇け」


「私を」


「みて」


最後だけ。

やけに生々しかった。


「なにっ!?」


エルトの魔法が相手の魔法を食い破った。


歓声。

悲鳴。

笑い声。

全部が混ざる。

エルトの周囲の空気が、どんどん重くなる。


「みて」


「置いてかないで」


その声で。

つめだけが顔を上げた。


護符の力?

違う。


あれは。

飲まれてる。


エルトの魔力が膨れ上がる。


でも。

エルト自身の感じじゃない。


観客席。


悪意が膨らむ。

期待が膨らむ。


もっと。

もっと。

“次”を求める空気だけが大きくなる。


もう。

試合じゃなかった。

見世物だった。


誰かが笑う。


「化け物みてー」


その瞬間。

エルトの顔が、ぐしゃりと歪んだ。


空間が軋む。

観客席が静まる。


「……え?」


黒い亀裂みたいなものが開く。


そこから。

蜘蛛みたいなものが落ちてきた。

小さい。


でも。

空気がおかしい。

つめの背筋が粟立つ。


――似てる。


因習村で見た。


“穢れ喰らい様”。


あれと同じだった。


悪意。

熱狂。

淀んだ感情。

全部を煮詰めたみたいな気配。


実況が止まる。


「……魔物?」


蜘蛛が動いた。

一瞬だった。


どんっ


相手生徒が吹き飛ぶ。

壁へ叩きつけられる。


悲鳴。


教師達が立ち上がる。


「下がれ!!」


その瞬間。

上空へ、幾重もの光の魔法陣が展開された。


速い。

というより。

迷いがない。


轟音。

蜘蛛が弾き飛ばされる。


生徒会。

クロードとシエルだった。


クロードが前へ出る。


「一般生徒は全員離れろ!!」


シエルの魔法陣が連続展開される。


光。

爆音。

蜘蛛が暴れる。


小さいのに。

異様に強い。

観客席が完全にパニックになる。


でも。

誰も目を逸らせなかった。


怖いのに。

皆、見ていた。


最後。

クロードの剣撃が蜘蛛を貫いた。

魔物が崩れる。


静寂。


エルトは、その場へ崩れ落ちた。

護符が床へ転がる。


教師の一人が駆け寄る。


「これは……!」


拾い上げる。


でも。

ただの護符だった。

壊れているようにしか見えない。


教師が顔をしかめる。


「こんなものを大会へ持ち込んでいたのか!」


周囲がざわつく。


「護符だと!?」


「やっぱり……!」


教師が怒鳴った。


「今後、学園内での護符使用を禁止する!!」


会場がさらに騒がしくなる。


悲鳴。

怒号。

歓声。


でも。

観客席は誰も帰ろうとしなかった。


皆。

まだ興奮している。

怖がっているのに。

楽しそうだった。


つめは少し黙ったまま。 観客席を見る。


視線。

悪意。

熱狂。

全部。

まだ渦巻いている。


ミレイが、小さく笑った。


「……なんかすごいことになってるね」


つめは少しだけ眉を寄せる。


「これ」


「誰かわざとやってる気がする」


ミレイが首を傾げた。


「なにを?」


つめは少し考える。

うまく言葉にできない。


でも。

この感じ。

知ってる。


「……炎上?」


「えんじょう?」


ミレイは分かっていない顔だった。

つめも説明できない。


ただ。


視線。

悪意。

歓声。

全部が混ざって。

どんどん大きくなっていく感じ。


「……なんか」


「皆で空気を燃やしてる感じ」


遠くで。

まだ歓声が聞こえた。

大会は止まっているのに。


誰も。

冷めていなかった。

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