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『異世界でも、また私だけが叩かれるらしい』  作者: シェイプシフター
第六章 魔導学園・無許可聖具編
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第48話 期待値

学園大会当日。


王立リスティア魔導学園の闘技場は、朝から異様な熱気に包まれていた。


観客席は満席。


生徒。

教師。

貴族。

外部客。

賭け屋。

誰もが騒いでいる。


「今年の形式ヤバいらしいぞ」


「EがAと当たるんだろ?」


「下克上あるか?」


実況の魔導拡声器が、会場中へ響き渡る。


『今年は異例の大会形式!!』


『下位クラスは上位を食えるのかァ!!』


歓声。

つめは顔をしかめた。


「……人多」


「今さら?」


リオンが笑う。


フィオナは腕を組んだまま言った。


「吐くなら今のうちよ」


「最低」


でも。

視線が多い。


長詠唱。

問題児。

編入生。

色んな意味で、見られている。


Eクラス控室。


教師が適当に壁へ寄りかかった。


「まあ死ぬ気でやれ」


「死ぬの前提?」


「勝てとは言わねぇ」


教師は面倒そうに肩を竦める。


「“残る価値”を見せろ」


その言葉に。

控室の空気が少しだけ重くなる。


実況が響いた。


『第一試合!!』


『元Aクラス――フィオナ・レイヴェルト!!』


会場がざわつく。

つめがフィオナを見る。


「元Aだったんだ」


「昔ね」


リオンがぼそっと言った。


「なんで落ちたの」


「教師燃やした」


「怖……」


フィオナは無言で闘技場へ降りていく。

相手はAクラス生徒だった。


整った制服。

余裕の笑み。

フィオナを見る。


「久しぶりだな」


フィオナは返事をしない。

男は肩を竦めた。


「問題児クラスで堕落してるかと思った」


観客席が少し笑う。

フィオナは静かに魔力を練った。


「安心しなさい」


空気が冷える。


「牙は、どこでも研げるものよ」


開始。


その瞬間。

空気が変わった。


速い。


射出速度。

制御。

魔力操作。

全部が綺麗だった。


氷槍が空中で軌道を変え、炎が相手の逃げ道を潰す。


無駄がない。


Aクラス側の男が舌打ちした。


「っ……!」


観客がざわめく。


「やっぱ強ぇ」


「なんでEいるんだよ」


相手は防戦一方だった。


数分後。


決着。

実況が叫ぶ。


『圧勝!!フィオナ・レイヴェルト!!』


歓声。


でも。

どこか空気が弱い。


「まあ元Aだしな」


「勝つの分かってた」


期待通り。

だから驚きがない。


試合後。


Aクラス席から声が飛ぶ。


「戻って来いよ、フィオナ!」


「お前Eにいる意味ないだろ!」


フィオナは少しだけ足を止めた。


それから。

振り返らずに言う。


「嫌よ」


少し間。


「Eの方が、私らしくいられるもの」


そのまま戻っていく。

リオンが笑った。


「かっけぇ」


「教師燃やしてる時点でかっこよくない」


実況が再び響く。


『第二試合!!』


『Aクラス――カイル・ベルノート!!』


歓声。

細身の男子生徒が、腕を軽く回しながら歩いてくる。


『対するはEクラス――リオン・クロック!!』


Eクラス席からだけ拍手が飛ぶ。

リオンは面倒そうに手を上げた。


「はぁ……」


闘技場へ降りる。

カイルがリオンを見る。


「Eクラスにしては悪くないらしいな」


「それはどーも」


「しかし」


カイルが薄く笑った。


「魔力も出力も足りてない」


開始。

風刃。

リオンが横へ飛ぶ。

地面が裂けた。


「うわっ!」


続けざま。


火球。

氷槍。

休む暇もない。


観客席から声が飛ぶ。


「押されてるな」


「相手Aだぞ」


「やっぱ無理か」


リオンは舌打ちした。


「っ、だる……!」


カイルは冷静だった。


「技術だけでは上へ行けない」


「だから君はEなんだ」


爆風。

リオンが吹き飛ぶ。


砂煙。

観客席が少し静まる。


でも。

煙の中から、笑い声がした。


「……それ、言われ飽きた」


リオンが立ち上がる。

鞄へ手を突っ込む。

出てきたのは、妙にゴテゴテした魔導具だった。

フィオナの顔が変わる。


「……ちょっと待ちなさい」


「学生の間は出す気なかったんだけど」


魔導具が起動する。

次の瞬間。

カイルの火球が、吸われた。

会場がざわつく。


「は!?」


「なんだあれ!?」


カイルの顔色が変わる。


「魔力吸収……!?」


でも。

止まらない。


カイルの火球が、また吸われた。


吸収。

吸収。

吸収。


カイルが即座に距離を取る。


「なら――飽和させる!」


風刃。

火球。

氷槍。

連続発動。


闘技場が一気に光で埋まった。


観客席がどよめく。


「これがAクラスの発動速度!?」


「速っ――」


でも。

全部。

吸われる。


ごり、ごり、ごり。

嫌な音を立てながら、魔導具が膨れ上がっていく。


リオンの顔が引きつった。


「待っ、食いすぎ食いすぎ」


カイルが叫ぶ。


「何なんだそれは!!」


リオンは諦めた顔をした。


「これ失敗作なんだよね」


観客席が静まる。


次の瞬間。

大爆発。

闘技場が揺れた。


煙。

悲鳴。

実況が裏返る。


『り、両者戦闘不能!!引き分けェ!!』


歓声が爆発した。

リオンは黒焦げで転がっていた。


「だから言ったのに……」


担架で運ばれていく。


でも。

観客席の空気は変わっていた。


「今年のEやばくね!?」


「下克上あるぞ!!」


期待。

熱狂。

野次。


全部。

Eクラスへ向き始めていた。

つめは、その視線が嫌だった。


でも。

少しだけ。

胸の奥がざわつく。


その横で。

ミレイは観客席を見ながら笑った。


「なんかさ」


「今、私達“主役側”じゃない?」


つめが嫌そうな顔をする。


「……嫌な言い方」


ミレイは肩を竦める。


「でも皆見てるよ?」


歓声。

実況。

期待。

その音を聞きながら。


ミレイの笑顔が、一瞬だけ消えた。


「……勝たないと」


小さな声。


つめが少しだけミレイを見る。


でも。

次の瞬間には、もう笑っていた。


「ま、負ける気ないけど」


髪を払う。

その動きが妙に綺麗だった。


その頃。

エルトは一人で対戦表を見ていた。


手が震えている。

制服の内側へ触れる。


護符。

少しだけ呼吸が落ち着く。


けれど。

観客席から聞こえてくる。


「次誰?」


「Eもう一人くらい来るだろ」


「期待外れはやめろよ〜」


笑い声。

野次。

期待。

エルトの指先へ力が入る。


負けたら。

期待外れになる。


「……勝たないと」


護符を強く握る。


その後。

他のEクラス生徒達が出場した。


結果は。

惨敗。


「やっぱEじゃん」


「さっきの二人だけか」


笑い声。


でも。

それでも観客は席を立たない。

期待している。

“次”を。


実況の声が、再び会場へ響く。


『さぁ次戦!!』


『Aクラス注目株――アルヴァン・クロイツ!!』


歓声が一段大きくなる。


銀髪。

整った顔。

余裕の笑み。


いかにも。

勝つ側の人間。


アルヴァンは、ゆっくりつめを見る。


「へぇ」


少し笑った。


「お前が最近話題の詠唱女」


観客席が盛り上がる。


『対するはEクラス編入生――カノ!!』


歓声。

ざわめき。

期待。


全部。

つめへ向く。


アルヴァンは肩を竦めた。


「話題先行じゃないといいけど。

期待外れは、冷めるからさ」


観客席の生徒の笑い声がする。


つめの胸の奥で。

黒い風が、小さく揺れた。


観覧席。


ノクト教授が静かに笑う。


その後ろ。

ローブ姿の人物が、黙って立っていた。


ただ。

試合場を見ている。


実況が叫ぶ。


『Eクラスは本当に食らいつけるのかァ!!』


歓声。

熱狂。

期待。


全部。

つめへ向いていた。

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