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第5話 冒険者ギルド

干し肉は硬かった。


「かた……」


つめは顔をしかめながら噛み続ける。

でも美味しかった。


いや、味はそこまででもない。

ただ、お腹が空きすぎていた。


赤髪の女は焚き火の向こうで笑う。


「いい食べっぷりね」


「……お腹空いてただけだし」


「昨日から食べてなかった感じ?」


「まあ」


本当はもっと色々言いたかった。


エルフに牢屋入れられて〜とか。

異世界転移で〜とか。


でも説明が面倒だった。

というか、どうせ信じないだろうし。


「名前は?」


「……鷹乃つめ」


「変わった名前ね」


「そっちは?」


赤髪の女は肩をすくめた。


「わたしはガルド。こっちはルカとミリ」


細身の男が軽く手を振る。


「よろしく」


小柄な少女もぺこっと頭を下げた。


「……よろしく」


つめも一応返した。

なんか部活の初日みたいだった。


翌日。


つめは冒険者達と一緒に街へ向かっていた。


「うわ……」


森を抜けた先。

高い石壁。

人の列。

煙。

市場。


「でか……」


「田舎者丸出しね」


「うるさい」


ガルドが笑う。


でも実際すごかった。

異世界の街だ。

ゲームみたい。

いや、ゲームより臭い。

人も多いし、獣っぽい種族もいるし、なんか道端で肉焼いてるし。


「すご……」


つめはきょろきょろ辺りを見回した。

完全に観光客だった。


その時。


「おい、スリだ!」


「えっ」


誰かの怒鳴り声。

振り向くと、小さな子供が人混みを駆け抜けていく。


「捕まえろ!」


周囲が騒ぐ。

でも誰も動かない。


面倒なのだろう。

つめも別に関わる気はなかった。


……なかったのに。


子供が転びそうになった瞬間、身体が勝手に動いた。


「危なっ!」


つめは反射的にその子を抱き止める。

勢いで一緒に転んだ。


「いったぁ!?」


「……」


子供はぽかんとしていた。

その小さな手に、財布。


「あ」


つめと子供の目が合う。


「次はもっと上手くやりなよ、じゃなくて」


つめは小声で言った。


「……返してこようね」


「どっち!?」


近くでルカが吹き出した。

つめはむっとする。


「いやだって怒鳴るの可哀想じゃん」


「甘いなぁ」


ガルドが笑いながら子供の頭を軽く小突く。


「返してきな」


子供はしょんぼりしながら走っていった。


つめは立ち上がる。

膝が痛い。


「最悪……」


「でも助けたじゃん」


「別に」


つめはそっぽを向いた。

褒められると逆に照れる。

その辺は面倒くさい。


しばらくして。


「ここだよ」


ガルドが立ち止まった。

巨大な建物。

看板には剣と盾の紋章。


「冒険者ギルド?」


「仕事欲しいなら登録しとくといいよ」


「へぇ……」


中は酒場みたいだった。

騒がしい。

昼なのに酒飲んでる。


筋肉。

筋肉。

筋肉。


(圧すご……)


つめは少し引いた。

その時。


「おい見ろよ」


「あの耳……」


「エルフか?」


視線が集まる。

つめは反射的に耳を押さえた。

変にくっついて半分程になったエルフ耳の破片がついていた。


まずい。

エルフ達を思い出す。


でも。


「いや、耳短くね?」


「偽物じゃ?」


「なんだそりゃ」


笑い声。

つめはむっとした。


(うざ……)


でも今さら外すわけにもいかない。

ガルドは受付へ向かう。


「新規登録だよ」


受付嬢がつめを見る。


「お名前は?」


「鷹乃つめ」


「特技は?」


「……」


つめは固まった。


特技。


特技?


「剣術は?」


「できpない」


「魔法は?」


「分かんない」


「採取経験は?」


「ない」


「料理は?」


「……」


「ないんですね」


受付嬢の笑顔が少し引きつった。

つめも地味に傷つく。


「じゃ、じゃあ特技……」


何かある。

絶対ある。


考えろ。

考えて。


「……変身?」


「変身?」


「別人になるの得意です」


受付嬢が困った顔をした。

ガルドが吹き出す。


「なにそれ」


「いや、結構すごいけど?」


「戦えるの?」


「……たぶん?」


「たぶんで冒険者やる気かよ」


周囲から笑いが起きる。

つめは顔をしかめた。


腹立つ。

でも言い返せない。

だって本当に何もできないから。

受付嬢は困りながら紙に書き込む。


「では……生活補助枠での仮登録になります」


「生活補助?」


「雑務や荷運び中心ですね」


「荷運びぃ?」


つめは思わず嫌そうな声を出した。

ガルドがにやにやする。


「頑張ってね、お姫様」


「……は?」


「現実見なさいってこと」


つめは舌打ちしたくなった。


でも。

受付嬢から渡された小さな鉄札を見た瞬間。

少しだけ胸が高鳴る。


『冒険者登録証』


異世界。


冒険者。


なんか、本当に始まった気がした。

挿絵(By みてみん)

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