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『異世界でも、また私だけが叩かれるらしい』  作者: シェイプシフター
第六章 魔導学園・無許可聖具編
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第44話 ランク

王立リスティア魔導学園、中央掲示板前。


編入から1週間。

今日は朝から人が多かった。


「順位上がってる!」


「うわ、クロードまた一位?」


「魔法制御値どうなってんの」


ざわざわ。

ざわざわ。


巨大な魔導掲示板へ、生徒達が群がっている。


順位。

戦績。

注目度。

総合評価。


まるで人気投票だった。


「……また数字」


つめは小さく呟く。


人。

声。

視線。


でも。

前ほど苦しくなかった。


誰も、“鷹乃つめ”を見ていない。


「お、長詠唱」


後ろから声。

振り返ると、リオンがパンを咥えていた。


「その呼び方やめてって」


「じゃあ演劇女」


「悪化してるんだけど」


リオンは笑いながら掲示板を指差す。


「見ろよ。Aクラス化け物しかいねぇ」


最上段。


『クロード・ヴァレン』


その名前の周囲だけ、人が多かった。


歓声。

憧れ。

尊敬。

全部が自然だ。


つめは少し目を細める。


「……まぶし」


「は?」


「なんでもない」


その時だった。

周囲の空気が、少し静かになる。


白い制服。

青白い長髪。

金色の瞳。


Aクラスのシエル・アークライトが、掲示板前を通った。


騒いでいた生徒達が、自然と声量を下げる。


「シエル様だ」


「やっぱ綺麗……」


つめはぼんやりそれを見ていた。


炎上じゃない。

恐怖でもない。

ちゃんと好かれてる視線。

それが少し、不思議だった。


「お前、ああいうの苦手そう」


リオンが言う。


「別に」


つめは答える。


「ただ、疲れそう」


「あー」


意外にもリオンが頷いた。


授業は魔法模写訓練だった。


教師が短い風魔法を見せる。


「真似しろ」


それだけ。

教室中で、一斉に魔法が発動する。

つめも指を動かした。

周囲の流れを見る。


指先。

呼吸。

魔力。

真似る。


「……流して、切る」


ぱっ。

風が走る。


一回。

二回。

三回目で、かなり近い形になった。


リオンの顔が止まる。


「お前それ」


「なに」


「盗んでね?」


「見れば分かるでしょ」


「分かんねぇよ普通」


フィオナが横から口を挟む。


「本当に気持ち悪い才能ね」


「褒めてる?」


「三割くらい」


「減った」


フィオナは鼻で笑う。

つめは少しだけ口元を緩めた。


最近。

笑う回数が増えている気がした。


昼休み。


Eクラス席は今日もうるさい。


ガルムが肉を焼いている。

誰かのパンが燃えた。

リオンが怒鳴っている。


「だからそこ逆接続すると爆ぜるって!」


ぼん。

小爆発。


「ほら!」


「知ってた」


「知っててやるな!」


ミレイは掲示板を見ながら騒いでいた。


「やば、順位落ちてる」


「そんな気にする?」


つめが聞く。

ミレイは笑う。


「気にするよ」


軽い声。


でも。

視線だけは掲示板から離れない。


「見られなくなるし」


その言葉に、つめは少しだけ黙った。


隣では、エルトがノートを開いていた。

昼休みなのに勉強している。

リオンが呆れた声を出す。


「またやってんの」


「大会近いから」


エルトは顔を上げない。


「努力しないと追いつけないし」


小さい声だった。

つめは少しだけ、その横顔を見る。

真面目だなと思った。


でも。

少しだけ苦しそうだった。



エルト視点――


放課後。


エルトは一人で中央通りを歩いていた。

大会前だからか、人が多い。


「サクラ護符入荷した?」


「マジで効くらしい」


「Aクラスも持ってるって聞いた」


そんな声が聞こえる。


エルトは足を止めた。


路地脇の小さな屋台。

木製の護符が並んでいる。


花みたいな模様。

黒い線。

歪んだ耳の意匠。


『サクラ護符』


「最近人気ですよ」


店番が笑う。


「大会前ですし。持ってると“乗る”らしいです」


「……乗る?」


「うまくいく、ですよ。活躍しやすくなるとか、実力以上出るとか」


胡散臭い。

エルトは眉を寄せる。


護符を見る。

耳長族が作る護符は販売許可がいると言われている。


だからこそ、貴重で、高い。

普通は学生が買えるような護符なんか出回らない。


少し迷ってから、口を開いた。


「これって」


店番を見る。


「……許可、取ってないんですよね」


店番は少しだけ笑った。


「まあ、その辺は」


濁した。


エルトは嫌な顔をする。


「問題じゃないんですか」


「でも売れてますよ?」


即答だった。


「皆持ってますし。バレなきゃ別に」


軽い声。


エルトは黙る。

良くない事だ。

そんなの分かっている。


でも。


『努力だけじゃ届かない壁』


その感覚が、頭から離れなかった。


「……一つください」


気付けば、そう言っていた。


帰り道。


制服のポケットへ入れた護符が、少し熱い気がする。

気のせいだと思いたかった。


人気の少ない裏路地へ入った時だった。


「エルト・シェーファーさん」


声。


エルトは反射的に振り返る。


ローブ姿の女が立っていた。

顔は見えない。


「……誰ですか」


女は答えない。


ただ。

小さく呟く。


「あなたには期待していますよ」


「何!?」


女は背を向け歩き出す。


「……Eクラス」


微かに聴こえる声。

その声は、どこか熱っぽかった。


「世界から外れているあなたは」


静かな声。


「きっと、そこにいる」


意味が分からなかった。


けれど。

なぜか背筋だけが冷えた。


逆光の中。

淡いピンク色の髪が、少しだけ揺れていた。

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