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第40話 サクラ散り、鷹は二度目の死を迎える。

歓声が止まらなかった。


「サクラ様ー!!」


「炎の耳長姫!!」


「本物だ!!」


「偽物だろ!!」


怒号。

拍手。

悲鳴。


全部が混ざっている。

劇場はもう祭りじゃなかった。


燃えていた。

人の熱で。

悪意で。

期待で。


舞台中央。

つめは立ち尽くしていた。


白い神官服。

草を編んだ金髪。

木削りの耳。


偽物。

全部偽物のはずなのに。


どくん。

どくん。


身体だけが、本物みたいに熱かった。


「サクラ様ぁぁぁ!!」


歓声。


炎が揺れる。

風が吹く。

黒い腕が、舞台の奥でゆっくり蠢いている。


耳長族達の魔法を押し退けて、観客達の顔が、無理矢理舞台へを向かされていた。


目を逸らしたい。

怖い。


でも。

逸らせない。


「下がれ!!」


耳長族の魔法が走る。


風。

冷気。

精霊鎮静。

炎を押さえ込む光。


でも。

止まらない。

熱狂が強すぎる。


「サクラ様!!」


「偽物め!!」


「もっと炎を!!」


悪意まで歓声になっていた。


どくん。

どくん。


つめは息を呑む。


気持ちいい。

その感情に、自分で吐き気がした。


その時。


「……たかの、つめ?」


声。


現実だった。

舞台下。


ギルド職員が、青ざめた顔でこちらを見ている。

前の村で見た顔。


「なんでお前がここにいる……」


どくん。

一気に熱が冷える。


“サクラ”じゃない。


“たかのつめ”。


その名前で呼ばれた瞬間。

全部が急に安っぽくなった。


草の髪。

削った耳。

縫い目だらけの服。


コスプレ。

偽物。


その瞬間だった。


「誰だよそいつ!!」


観客が怒鳴る。


「サクラ様だろ!!」


「変な名前呼ぶな!!」


「偽物耳長!!」


「黙れ!!本物だ!!」


熱狂がぶつかり合う。

炎がさらに揺れる。

風が荒れる。

黒い腕が増える。


どくん。

どくん。

身体が軽い。


最悪だった。

昔と同じだ。


炎上。

通知。

叩かれる。

笑われる。


でも。

だからこそ。

みんなが、自分を見ていた。


「ああ……」


声が漏れる。

その時。


「つめ!!」


ジードの声。

今まで聞いたことがない声だった。


本気で怒っていた。

本気で怖がっていた。


「もう降りろ!!」


つめはゆっくりそちらを見る。


でも。

足が動かなかった。


降りたら終わる。

見られなくなる。

サクラじゃなくなる。


どくん。

胸が鳴る。


「……やだ」


小さな声。

自分でも驚くくらい幼かった。


歓声が爆発する。


「サクラ様ぁぁぁ!!」


炎。

熱。

風。

黒い腕。


全部が舞台へ集まる。


耳長族達が顔を歪める。


「駄目だ……!」


「群衆ごと暴走している!」


ギルド職員は、呆然と舞台を見上げていた。


「お前…… 何になってるんだ……」


つめ自身、分からなかった。


鷹乃つめ。

サクラ。

炎上の魔女。

偽物耳長。


全部混ざっていた。


でも。

今、確かなことが一つだけあった。

誰も、自分から目を離せない。


どくん。

胸が熱い。


昔。


スマホを握りながら、通知欄を見続けていた夜を思い出す。


叩かれて。

晒されて。

笑われて。


でも。

見られていた。

存在していた。


どくん。

つめはゆっくり笑った。

泣きそうな顔で。


「ああ……炎上って、こんなに気持ちよかったっけ」


その瞬間。

ジードが舞台へ上がってきた。


乱暴に、つめの腕を掴む。


「行くぞ」


「……離して」


「このままだと、お前は本当に人を殺す」


低い声だった。


つめは少し黙る。

その言葉だけは、妙に刺さった。


劇場の外では、まだ歓声が響いている。


サクラ様。

炎の耳長姫。

その名前が、ずっと追いかけてくる。


つめは小さく笑った。


「じゃあ…… 私が死ねばいいじゃん」


ジードは首を振る。


「違う」


短く。

それから。


「“たかのつめ”を殺してやるよ」


沈黙。


つめは目を見開く。

ジードは続ける。


「その代わり、お前は消えろ」


歓声が遠ざかっていく。


サクラは、もう消えない。

みんなが作った。

みんなが燃やした。


だから。

もう、ただの鷹乃つめには戻れない。


つめはゆっくり、耳を外す。

草を編んだ髪を外す。

白い服を脱ぐ。


全部。

置いていく。



夜明け前。


祭りの熱だけが、まだ街へ残っていた。

つめは静かに目を閉じる。


そして。

少しだけ笑った。


鷹乃つめは、異世界で二度目の死を迎えたんだ。



外伝を挟んで第6章 学園編へ続きます。

挿絵(By みてみん)

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