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第39話 異世界で死んだ私が、サクラに救われるまで。

耳長族達は結局その日の夜、一度宿へ引き上げていた。

つめの事をまったく理解できなかったからだ。


静かな部屋。


窓の外では、まだ祭りの歓声が響いている。


「……偽物だ」


長耳の女が低く言う。


「ああ」


「耳も魔力も、完全に人間だった」


それでも。

沈黙が落ちる。

理由は全員分かっていた。


炎。

精霊。

熱狂。


あれは、ただの偽物では説明がつかなかった。


「なぜ精霊が反応した」


誰も答えられない。

別の耳長族が、静かに窓の外を見る。


祭りの灯り。

歓声。


“サクラ様”。


その名前が、風に混ざって聞こえてくる。


「……群衆まで異常だ」


その声だけが、重く落ちた。


翌日。


祭りはさらに酷くなっていた。


「だから本物なんだって!」


「耳偽物だったろ!」


「火見ただろうが!」


「演出に決まってんだろ!」


広場のあちこちで、言い争いが起きていた。


サクラ派。

偽物派。

野次馬。

面白がってる奴。

全部が混ざっている。


しかも。

屋台は増えていた。


『炎耳のお守り』

『耳長姫サクラ札』

『本物加護付き』


完全に調子へ乗っていた。


「……なんか、もう怖いんだけど」


ユノが小さく呟く。

果物を並べながら、広場を見る。

子供達まで揉めていた。


「サクラ様悪く言うな!」


「偽物じゃん!」


「でも火出したし!」


「だから演出――」


そこへ、大人まで混ざる。


空気が悪い。

もう祭りじゃなかった。

熱だけがある。


その時。


「サクラ様だ!」


歓声。


一気に視線が動く。

ユノも振り向く。


白い神官服。

草を編んだ金髪。

尖り耳。

サクラ。


でも。

ユノは少し止まる。


最近のつめは、本当に別人みたいだった。


歩き方。

視線。

表情。

全部。


“サクラ”になっている。


しかも。

本人も、それを止められていない。

つめは歓声を聞きながら、少し顔をしかめた。


うるさい。

面倒。

怖い。


でも。

どくん。

胸が鳴る。

視線が集まる。

身体が軽い。


「……最悪」


小さく呟く。

その時。


「偽物耳長!」


誰かが叫んだ。

空気が変わる。


「は?」


「本物ぶってんじゃねえよ!」


「でも火は本物だろ!」


「いや演出だって!」


一気に声が飛び交う。


どくん。

つめは少し息を呑む。


――懐かしい。


その感覚が、一瞬頭をよぎった。


好意。

悪意。

視線。

嘲笑。

期待。

全部が混ざる。


昔と同じだった。

炎上。


でも。

前より熱かった。


夜。


劇場裏。

ジードは頭を抱えていた。


「今日マジでやるのか……?」


客数は過去最大。


でも。

空気が危険だった。


歓声が、怒号と混ざっている。

それでも。


「サクラ様出せ!!」


「炎見せろ!!」


観客は止まらない。

つめは静かに衣装を直していた。


「……出る」


「おい」


「だって客いるし」


その返事が、少し早かった。

ジードは顔をしかめる。


でも。

止められなかった。


舞台。

歓声。

熱。

怒号。

拍手。


全部が混ざっている。

つめは舞台中央へ立つ。


どくん。

身体が軽い。

今までで一番。


「サクラ様ー!!」


「偽物耳長ー!!」


「炎見せろ!!」


「本物だよなー!!」


全部聞こえる。


全部。

自分へ向いている。


どくん。

どくん。

気持ちいい。


その瞬間。

つめの中で、何かが弾けた。


――もっと見ろ。


ぼっ。

炎が揺れる。

ランタンが一斉に軋む。


――もっと見ろ。


風。

熱。

空気が震える。


――もっと見ろ。


客席が静まる。

そして。

誰も、目を逸らせなくなった。


「……え」


観客の一人が呟く。

視線が外れない。

怖いのに。

舞台から意識が剥がれない。


炎の揺らぎ。

熱。

歓声。

その奥。


黒い何かが見えた。

腕だった。

煙みたいな。

影みたいな。

曖昧な黒。


それが。

観客1人1人の後ろから生えて。

客席の頭を、ゆっくり舞台方向へ向けている。


「ひっ……」


誰かが息を呑む。


でも。

見てしまう。

見たい。

目が離せない。


つめ自身も止まれなかった。


炎が強くなる。

風が吹き荒れる。

白い衣装が揺れる。

草髪が舞う。


観客が熱狂する。


「サクラ様ぁぁぁ!!」


歓声。

怒号。

拍手。


全部が燃料になる。


どくん。

どくん。

身体が熱い。

気持ちいい。


怖い。

もっと。


その時。


「下がれ!」


耳長族の声。


風が走る。

精霊魔法。

冷気。

揺れる炎を押さえ込む。


さらに。

淡い緑光が客席を覆う。


視線遮断。

精神鎮静。


でも。

止まらない。


黒い靄が、炎の奥で揺らめく。

黒い腕が、淡い緑光の元で蠢く。


耳長族の一人が、青ざめる。


「……なんだこれは」


精霊じゃない。

もっと濁った何か。


群衆の悪意。

熱狂。

執着。


それ自体が、形になっているみたいだった。

そして。


劇場入口。


騒ぎを聞きつけたギルド関係者達が、人混みをかき分けて入ってくる。


歓声の中。

一人が舞台を見る。


白い神官服。

尖り耳。

炎。

そして。


顔。

その瞬間。

男の顔色が変わった。


「……は?」


信じられない物を見る目。


(見た目は違うが……あれは……)


舞台の上。

つめと目が合う。


沈黙。


それから。

掠れた声が落ちた。


「……たかの、つめ?」

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