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第38話 耳長族

最近では、祭りそのものが“サクラ祭り”みたいになっていた。


「炎耳パンひとつ!」


「サクラ護符残り三つだよー!」


「耳長酒おすすめー!」


朝からうるさい。

つめは露骨に顔をしかめた。


「……終わってる」


通りには、木を削った偽物耳。

草を編んだ金髪。

白布を巻いた子供達。

完全にサクラの真似だった。


しかも。

自分の顔が描かれた木札まで売られている。


最悪だった。


でも。

どくん。

胸は少しだけ鳴っていた。


「サクラ様ー!」


歓声。

視線。


最近では、もう街を歩くだけで道が空く。

気持ち悪い。


でも。

見られなくなるのは、もっと怖かった。

その時だった。


ざわっ。


通りの空気が変わる。

人混みが割れる。

つめもそちらを見た。


――本物だった。


長い耳。

白銀の髪。

静かな装束。

飾り気はない。


なのに。

空気だけで分かる。


“本物”。


周囲が静まる。

それから。


「うおおおお!!」


歓声。


「本物の耳長族だ!!」


「サクラ様の仲間!?」


「すげえ!!」


一気に人が押し寄せる。

つめは顔を引きつらせた。


対して。

耳長族達は完全に困惑していた。


「……なんだこれは」


低い声。

視線が街を見回す。

そして。


止まる。


屋台だった。


『サクラ様の加護札』

『炎耳のお守り』


大量に並んでいる。

その中には、粗雑だが耳長族特有の森紋様まで混ざっていた。


空気が変わる。


少し冷える。

耳長族の一人が、護符を手に取った。


「……誰がこれを許可した」


店主はへらへら笑う。


「今めっちゃ売れてて――」


「答えろ」


笑顔が消える。

周囲も静まる。

つめは遠くからそれを見ていた。


「あ……」


やばい。

本能的に分かった。

その時。


耳長族の視線が、つめへ向く。


どくん。

心臓が跳ねた。

見抜かれている。

そんな感覚だった。


夜。


舞台。

客席は異様な熱気だった。


「サクラ様ー!!」


歓声。

拍手。

熱狂。


でも。

今日は違う。


最前列。

耳長族達が座っていた。


静かに。

ただ見ている。


どくん。

身体が強張る。

怖い。


でも。

視線は増えていた。


今までで一番。

つめは舞台中央へ立つ。

歓声が大きくなる。


どくん。

どくん。


熱。

観測。

身体が軽い。

その瞬間。


ぼっ。


ランタン火が揺れる。

衣装の裾から、赤い火花が散った。

客席が沸く。


「うおおおお!!」


「炎だ!!」


「サクラ様ー!!」


歓声。

拍手。

熱狂。


どくん。

つめは息を呑む。


気持ちいい。

怖いのに。

もっと見てほしい。

その感情が、止まらなかった。


でも。

耳長族達だけは笑っていなかった。


静かに。

真っ直ぐ。

つめを見ている。


舞台後。


楽屋。


つめは乱暴に耳を外した。


汗。

呼吸が浅い。


「なんなの……」


怖かった。

全部バレそうだった。

その時。


扉が開く。


空気が変わる。


耳長族だった。

静かな圧。


「貴様」


低い声。


「何者だ」


つめの喉が止まる。

返事ができない。

その瞬間。

外から歓声。


「サクラ様ー!!」


「耳長族に負けるなー!」


「本物だー!!」


つめは固まった。

耳長族達も黙る。


群衆が。

勝手に。


“真実”を決めていた。


長い沈黙。


それから。

耳長族の一人が、つめの耳を見る。

木を削った偽物。

粗い作り。


次に。

つめを見る。


黒髪の根元。

汗。

浅い呼吸。

どう見ても人間。


なのに。

空気だけがおかしい。


精霊が揺れている。

火が反応している。


沈黙。


それから。


「……偽物だ」


冷たい声。

つめの胸が落ちる。


終わった。

そう思った。


でも。

別の耳長族が、小さく呟く。


「……だが」


窓の外。

歓声。

炎。

熱狂。


サクラ様。

サクラ様。

名前が飛び交う。


そして。

静かな声が落ちた。


「なぜ、精霊が反応している?」

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