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第34話 祭りの人気者

翌朝。


劇場前では、劇団員達が声を張り上げていた。


「本日二回目公演だ!」


「森劇『白銀の森の姫君』!」


「席まだ空いてるぞー!」


看板を持つ男。

楽器を鳴らす楽団。

呼び込みをする女達。


でも。

通行人の反応は微妙だった。


「あー、また劇か」


「昨日も見たしな」


素通りされる。

ジードが頭を掻いた。


「弱いなぁ」


「なにが」


「宣伝」


つめは少し周囲を見る。

劇団員達はみんな普通の格好だった。

せいぜい劇団章を付けているくらい。


これじゃ、昨日の“エルフ”と繋がらない。


「……そりゃ分かんないでしょ」


「ん?」


「昨日のエルフ役、誰も覚えてないじゃん」


ジードが少し目を細める。

つめは劇場前を指差した。


「衣装で歩けば?」


「は?」


「宣伝になるでしょ」


数秒沈黙。


それからジードが吹き出した。


「お前、客商売向いてるよ」


「褒めてないでしょ」


「褒めてる」


つめは顔をしかめた。


でも。

少しだけ、悪い気はしなかった。


昼。


つめは再び衣装へ着替える。

草束を編んだ金髪。

削って作った尖り耳。

白い神官服。

昨日、自分で作り直したエルフ衣装。


鏡を見る。

近くで見れば安物だった。


草だし。

木だし。

縫い目も荒い。


でも。

遠目なら騙せる。

光の下なら、もっと誤魔化せる。

それで十分だった。


「行くぞー」


ジードが手を振る。

つめは劇場の外へ出た。


瞬間。

通行人が止まる。


「あ」


視線。


「昨日の耳長様だ」


「うわ、本当にいる」


「綺麗……」


どくん。

胸が鳴る。

嫌な感じ。


でも。

身体が少し軽かった。

つめは街を歩く。

祭りの大通り。


屋台。

大道芸。

音楽。

酒。

笑い声。

人が多い。

そして。


みんな、誰かを見ている。


大道芸人へ拍手が飛ぶ。

踊り子へ歓声が上がる。

吟遊詩人の周囲へ人だかりができる。


この街全部、“見られる”ことで回っていた。


「……変な街」


ぽつりと漏らす。


でも。

嫌いじゃなかった。

むしろ。

少し落ち着く。

前の世界に近いから。

その時。


「おーい!」


屋台の向こうから声。


つめが振り向く。

果物屋の前。

小柄な少女が、大きく手を振っていた。


茶色の短髪。

日に焼けた肌。

そばかす。

動きやすそうな服に、少し汚れた前掛け。

祭りで働いてる子、って感じだった。

丸い目だけ妙にきらきらしている。


「……誰」


「まあそうだよね」


少女はあっさり笑った。


「昨日見てたの、私」


「へえ」


「舞台の前の方いたんだけど」


「知らない」


「だよねー」


全然気にした様子もない。


「ユノ!果物屋の手伝いやってる!」


「へえ」


「昨日すごかったよ!」


真っ直ぐだった。

セナみたいな、救われた人の熱じゃない。

ただ、“見たい”だけの目。

だから逆に、少し苦手だった。


「今日も舞台出るの?」


「たぶん」


「やった!」


嬉しそうに笑う。

その顔が妙に眩しい。

つめは少し視線を逸らした。


どくん。

また胸が鳴る。

その時。


「あれ本人?」


「昨日の耳長様だよな?」


周囲の視線が増える。

若い男達がこちらを見る。


「近くで見るとやば」


「耳本物っぽ」


「なんか空気違うな」


ひそひそ声。

つめは無意識に背筋を伸ばしていた。


顎が少し上がる。

歩幅が変わる。

視線を流す。


気づいて、少し嫌になる。

何やってるんだ自分。

普通に歩けばいいのに。


でも。

見られると、身体が勝手に“役”へ入る。

コスプレイヤー時代の癖だった。


「うわ、今の見た?」


「耳長様っぽ……」


女達が盛り上がる。

ジードが後ろで吹き出した。


「完全に分かってやってるだろ」


「やってないし」


「へえ」


腹立つ。


でも。

どくん。

身体はまた少し軽かった。

子供達が後ろをついてくる。


「耳長のお姉ちゃーん!」


「耳触っていい!?」


「だめ」


周囲が笑う。

祭りの空気だった。

誰かが見て、誰かが演じる。

その中心へ、少しずつ自分が近づいている。


怖かった。

でも。

少しだけ。

もっと見られたいと思ってしまった。


「……最悪」


つめは小さく呟く。


でも。

口元は少し笑っていた。

挿絵(By みてみん)

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