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外伝 つめとハルの日常

「また燃えてる」


開口一番、それだった。


「第一声それ?」


つめはコンビニ袋を机へ叩き置いた。


深夜二時。

狭いワンルーム。


カップ麺の匂い。

脱ぎ散らかした衣装。

開きっぱなしのノートPC。

モニターには大量の通知。


『また炎上してる』


『お気持ち表明まだ?』


『逃げるな』


そんな文字が並んでいた。


「いやだって燃えてるし」


ソファへ寝転がったまま、ハルが笑う。


「今回なにやったの」


「やってない、……勝手に燃えた」


「毎回それ言うよなお前」


「事実だし」


つめはムスッとした顔でカップ麺へお湯を入れる。


ハルはその背中をぼんやり見ていた。


黒髪。

ボサボサ。

ジャージ。

さっきまでエルフだった人間とは思えない。


けれど。

炎上している時のつめは、少しだけ空気が変わる。


呼吸が浅い。

目が死んでる。

通知を気にしてる。


なのに。

画面を閉じられない。


「……見んなよ」


「見てない」


「絶対見てる」


「見てるけど」


「最悪」


つめは机へ突っ伏した。


通知音。

また鳴る。

ぴこん。

ぴこん。

ぴこん。


「切れば?」


ハルが言う。


「無理」


即答だった。


「なんで」


つめは少し黙る。

カップ麺の湯気だけが上がる。

そして。

小さく言った。


「……誰にも見られなくなるから」


ハルは少しだけ目を細めた。

その言葉。

たぶん本音だった。


「別に見られなくても死なんだろ」


「死ぬよ」


つめは笑う。

でも目が笑ってない。


「なんかさ、見られてないと、存在してる感じしないんだよね」


「重」


「うるさい」


つめはフォークを投げた。

ハルは笑う。

いつものやり取りだった。


炎上して。

落ち込んで。

通知見て。

病んで。


けれど。

結局またSNSを見る。


「……やめればいいのに」


「やめたら終わるし」


「なにが」


「全部」


つめはモニターを見る。


誹謗中傷。

嘲笑。

悪意。


でもその中に、少しだけ擁護も混ざっている。


『私は好きです』

『応援してます』


それを見る瞬間だけ。

少し呼吸が楽になる。

ハルはそれを知っていた。


だから、強くは止めない。


「まあでも」


ソファで寝返りを打ちながら言う。


「お前、放っとくと普通に死にそうだし」


「なにそれ」


「だから見てる」


つめは少し黙った。

それから。

小さく笑う。


「……嫌いにならないの?」


「面倒とは思ってる」


「最低」


「でもまあ、お前、根はそんな悪くないし」


「根はってなに」


「表面が終わってる」


「殺す」


ハルは笑った。

つめも少し笑った。


深夜二時。

狭い部屋。

世界中から嫌われてるみたいな夜。


けれど。

ここだけは、少し普通だった。

つめはぼんやりモニターを見る。

流れていく文字。


罵倒。

炎上。

通知。


その光が、暗い部屋を照らしていた。

つめは小さく呟く。


「……やっぱ無理だ」


「なにが」


「SNSやめるの」


ハルはため息を吐いた。


「依存症じゃん」


「知ってる」


つめは笑う。

少しだけ。

寂しそうに。

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