第27話 模倣
ギルドへ入る前から、嫌なざわめきが聞こえていた。
「だから違うって言ってるじゃないですか!」
「新人が口答えすんな!」
つめは入口で足を止める。
「……また?」
ガルドが露骨に嫌そうな顔をした。
ギルドの中は野次馬で半円になっている。
その中心。
「失敗した人を囲んで責めても意味ないですよね!?」
セナだった。
つめは固まる。
桜色のショートボブ。
小柄な身体。
でも今は顔を真っ赤にして、中年冒険者へ言い返していた。
「新人なんだから失敗くらい――」
「甘いんだよ!!」
怒鳴り声。
セナの肩がびくっと震える。
でも。
「で、でも……!」
止まらない。
「空気読んで黙ってるだけなら誰でもできますよね!?」
ざわっ。
周囲が一気にざわつく。
「あーあ」
「始まった」
「完全にあの黒髪の影響じゃん」
笑い声。
つめは少しだけ顔をしかめた。
今の言葉。
喋り方。
間の取り方。
全部。
自分みたいだった。
「……うわ」
思わず口から漏れる。
若手冒険者の一人が気まずそうに言う。
「いやー……セナ、最近つめさんの真似してるから」
「真似っていうか……」
別の若手が苦笑した。
「ちょっと影響受けすぎっていうか」
つめは黙る。
どくん。
いつもなら、視線が集まると身体が軽くなる。
でも今は違った。
視線の中心はセナだ。
身体が少し重い。
「ほらまた空気悪くしてる」
中年冒険者が鼻で笑う。
「最近の新人ほんと面倒くせぇな」
セナの顔が青くなる。
でも。
「でも間違ってないです!」
声を張る。
空気がまた冷える。
つめは少しだけ、胃が痛くなった。
……これ。
前の自分だ。
炎上した後。
擁護してくれた人達。
正義感で前へ出て、空気に潰されて、消えていった人達。
急にそれを思い出す。
「つめさんはちゃんと――」
「セナ」
つめが思わず口を開く。
セナがぱっと振り向いた。
少し安心した顔。
それを見て、つめは逆に言葉へ詰まった。
なんて言えばいいか分からない。
「……」
止めたい。
でも。
自分が言っても説得力がない。
周囲もそれを分かっている。
「お、師匠来たぞ」
誰かが笑う。
「弟子育成中か?」
「取り巻きが増えてんなぁ」
くすくす笑い。
セナが悔しそうに俯いた。
つめは頭を掻く。
「……セナ」
「は、はい!」
「それ向いてないよ」
しん。
空気が止まる。
セナが固まった。
「え……?」
「空気に逆らうのって、めちゃくちゃ疲れるから」
つめは少し笑う。
自嘲みたいに。
「しかも大体嫌われるし」
周囲が静かだった。
若手達も、少し複雑そうな顔をしている。
セナは小さく首を振った。
「でも……」
声が震えていた。
「でも、つめさんは間違ってないです」
どくん。
身体の奥が熱を持つ。
視線が戻ってくる。
野次馬。
若手。
中年。
全部。
「……っ」
つめは息を呑む。
また軽くなる。
気持ち悪いくらい、 身体が動きやすい。
その時。
ミリが小さく呟いた。
「……増えてる」
「なにが」
「見てる人」
つめは周囲を見る。
確かに。
いつの間にか、かなり人が増えていた。
依頼帰りの冒険者。
受付嬢。
酒場の店員。
みんな、こっちを見ている。
面白そうに。
「なんだこれ……」
誰かが笑う。
「最近、火事みたいだな」
別の誰かが言った。
「いや、火事っていうか……もっと広がってる感じ」
「燃え移ってんだよ」
「あっちもこっちも」
ざわざわした笑い。
つめはその言葉を聞いて、少しだけ口元を歪めた。
懐かしい。
前の世界で、何度も見た光景。
「……炎上みたい」
ぽつりと漏れる。
「えん……じょう?」
近くの若手が首を傾げた。
つめは少し考えてから言う。
「火が燃え広がるみたいに、馬鹿みたいな勢いで騒ぎがデカくなること」
しん。
少し間。
その後。
「じゃあ今まさに炎上じゃねぇか」
誰かが吹き出した。
笑いが広がる。
でも。
つめはなぜか、少しだけ嫌な予感がした。




