第26話 影響
「つめさん!こっち空いてます!」
ギルドへ入った瞬間、セナがぶんぶん手を振った。
「……なんで毎回いるの」
「待ってました!」
「怖」
周囲の若い冒険者達も笑っている。
言い争い以降、妙にこの辺りへ人が集まるようになっていた。
「完全にたまり場じゃん」
ルカが苦笑する。
「最悪……」
そう言いながら、つめは普通に席へ座った。
ガルドがじとっと見る。
「帰れば?」
「いや別に」
でも。
どくん。
視線を感じる。
ギルド内の空気。
ひそひそ声。
興味。
全部がなんとなく分かる。
前より敏感になっていた。
セナが嬉しそうに机へ身を乗り出す。
「今日依頼どうします!?」
「今日は休む」
「また筋肉痛ですか?」
「うるさい」
周囲が笑う。
若い冒険者の一人が言った。
「でも最近つめさん見ると安心するわ」
「は?」
「またなんか揉めてんなって」
「最低な安心感」
「ギルド来た感じするよな」
笑いが起きる。
つめは嫌そうな顔をした。
でも少しだけ、口元が緩みそうになる。
その時だった。
受付前で怒鳴り声。
「だからお前危なっかしいんだよ!」
見る。
新人の男冒険者が頭を下げていた。
たぶん十代後半。
細い。
顔も青い。
周囲には中年冒険者達。
「仲間死にかけたんだぞ?」
「突っ込みすぎなんだよ」
男は何度も謝っていた。
「す、すみません……」
空気が重い。
でも。
誰も止めない。
つめは少し眉をひそめる。
その時。
「……でも」
声。
セナだった。
全員がそっちを見る。
セナは少し震えながら、それでも前へ出る。
「新人なんだから失敗くらい……」
空気が止まる。
つめは目を瞬いた。
「……セナ」
「み、みんなの前でそんな言わなくても……」
中年冒険者の顔が険しくなる。
「は?」
「庇うのか?」
「いや、その……」
セナの声が小さくなる。
でも。
「空気読んで黙ってるだけの方が変じゃないですか……!」
しん。
完全に止まる。
つめは固まった。
今の。
自分が言いそうなことだった。
周囲がざわつく。
「うわ」
「始まった」
「二人目かよ」
笑い。
呆れ。
苛立ち。
全部がセナへ向く。
セナの顔が青くなる。
つめはその瞬間、妙な感覚に襲われた。
どくん。
身体が熱い。
でも今までと違う。
視線が、自分じゃなくセナへ向いている。
なのに。
「……っ」
少しだけ、身体が重い。
ミリが小さく呟く。
「……減ってる」
「え?」
「つめの魔力」
つめは息を呑む。
その時。
「影響されたかぁ?」
中年冒険者が笑う。
「変なの真似すると面倒だぞ」
周囲もくすくす笑った。
セナが悔しそうに俯く。
つめは少しだけ、頭が冷えた。
自分のせいだ。
たぶん。
昨日、自分が気持ちよく喋ったから。
見られて。
囲まれて。
調子に乗ったから。
その結果。
セナが真似した。
「……」
つめはゆっくり立ち上がる。
どくん。
今度は、視線がまた自分へ戻る。
身体が少し軽くなる。
「……あーもう」
つめは頭を掻いた。
「新人一人潰して楽しい?」
空気が変わる。
まただ。
また全員がこっちを見る。
「お前なぁ……」
「いやだって事実じゃん」
「甘やかすと死ぬんだよ」
「じゃあ公開説教は意味あんの?」
ざわっ。
セナが不安そうにつめを見る。
つめは小さく舌打ちした。
「……見せしめしたいだけでしょ」
また空気が凍る。
でも。
どくん。
身体は軽くなっていった。
その夜。
安宿へ戻る途中。
セナが後ろから小走りで追いかけてきた。
「つ、つめさん!」
「……なに」
「今日、すみませんでした」
「別に」
セナは少し笑う。
「でも私、嫌われるくらいじゃ引かないので!」
つめは足を止めた。
その言葉。
妙に、ぞっとした。




