第25話 ファン
ギルドへ入った瞬間、また視線が集まった。
昨日の言い争い以降、妙に若い冒険者達がつめの周囲へ集まるようになっていた。
「……なんか」
少しだけ懐かしい感じがした。
前の世界でも、炎上した後はこうだった。
擁護。
野次馬。
面白がる人。
いつの間にか“囲い”みたいなものができる。
「……最悪」
そう思った瞬間だった。
「つめさん!!」
ギルドへ入った瞬間、元気な声が飛んできた。
「うわっ」
つめは思わず肩を跳ねさせる。
昨日、受付前で吊し上げられていた新人女冒険者だった。
小柄。
桜色のショートボブ。
安物の革鎧。
丸い目がやたらきらきらしている。
「……誰」
「ひどっ!?」
周囲が吹き出した。
「昨日助けてもらったじゃないですか!」
「あー……」
いた気がする。
「セナです!」
「聞いてない」
「えぇ!?」
セナは本気でショックを受けていた。
でも、すぐ立ち直る。
「でも昨日ほんとかっこよかったです!」
「は?」
「ズバズバ言ってて!」
周囲にいた若い冒険者達も頷いた。
「分かる」
「見ててスカッとした」
「中年連中めんどいしな」
つめは少し目を瞬いた。
なんか。
囲まれている。
「……なにこれ」
「人気者じゃん」
ルカが笑う。
「やめて」
でも。
悪い気はしなかった。
どくん。
身体が少し軽くなる。
視線。
興味。
注目。
つめは無意識に背筋を伸ばしていた。
「つめさんって、ほんとに祠壊したんですか?」
セナが目を輝かせる。
「だから壊してないって」
「でも怪物倒したんですよね!?」
「まあ……最後は」
少し盛った。
でも完全な嘘じゃない。
周囲が「おおー!」と盛り上がる。
気持ちよかった。
「黒い魔力まとってたってマジ?」
「怪物に睨まれても立ってたんだろ?」
「なんか呪われてるって聞いたぞ」
話がどんどん大きくなる。
「いやそこまでは――」
否定しかけて、つめは少し止まる。
みんなが、自分を見ていた。
その感覚が、妙に懐かしい。
イベント会場。
撮影スペース。
SNSの通知。
“見られている”感じ。
嫌いだったはずなのに。
「……まあ、普通なら逃げてたと思う」
つめは少し顎を上げる。
「私は逃げなかったけど」
「おおー!!」
若手達が盛り上がる。
その瞬間。
「調子乗ってんなぁ」
後ろから低い声。
空気が少し冷えた。
昨日の中年冒険者達だった。
「……またあんたら」
「新人集めて英雄ごっこか?」
「別に集めてないけど」
「揉め事起こしただけの癖によくやるよな」
若手達がむっとする。
セナも少し怯えた顔になった。
つめの眉がぴくっと動く。
どくん。
また身体が熱くなる。
「……で?」
「あ?」
「昨日からそれしか言えないの?」
周囲が静かになる。
ガルドが遠くで頭を押さえていた。
「あーもう……」
つめは止まらない。
「空気空気ってさぁ」
「結局、誰か叩きたいだけじゃん」
「は?」
「昨日だって新人囲んで笑ってたし」
「教育だよ」
「見せしめの間違いでしょ」
ざわっ。
空気が荒れる。
中年冒険者の顔が険しくなった。
「お前、自分が正しいと思ってるだろ」
「少なくとも昨日のあれよりはマシ」
「だから嫌われんだよ」
その言葉に、つめは少しだけ固まった。
嫌われる。
その響きが、 妙に身体へ馴染んだ。
どくん。
熱。
筋肉痛で重かった身体が、また少し軽くなる。
頭が冴える。
誰が笑ってるか。
誰が引いてるか。
誰が面白がってるか。
全部、肌へ刺さるみたいに分かる。
「……っ」
気持ち悪い。
なのに。
妙に落ち着く。
若手達は完全に見世物を見る顔だった。
セナだけが違った。
机へ身を乗り出す。
真っ直ぐ、つめを見ていた。
「……でも私、つめさん好きです!」
しん。
一瞬、空気が止まる。
つめは固まった。
「……は?」
「怖いけど」
「でも、ちゃんと助けてくれるから」
嘘のない目だった。
眩しいくらい真っ直ぐで、少し苦手なタイプ。
つめは視線を逸らす。
「……別に」
喉が少し熱い。
昔は、こういう言葉をもっと素直に受け取れていた気がする。
でも今は。
嬉しいより先に、怖かった。
その時。
「うわ、信者できてるじゃん」
誰かが茶化すように笑った。
周囲もくすくす笑う。
馬鹿にする笑い。
でも。
どくん。
また身体が軽くなる。
つめは小さく息を呑んだ。
見られている。
笑われている。
話題にされている。
その感覚が、少しずつ身体へ馴染み始めていた。




